ものぐさ魔術師、修行中
2.従軍要員②
「結局、何しに来たんですか? あの人達」
二人を見送ったエリーシが呆気に取られながら室内を振り返ると、シュレスタがクラウスとガルストに詰め寄っていた。
「魔術師長、副魔術師長。今回この二人を派遣するのは、どう考えても問題があります! 最高司令官が『手段を選ばす自衛させておけ』などと言うとは、どういう事ですか!?」
「そんなにまずい話だったの?」
「さあ……、この国での従軍経験は無いからなんとも……」
シュレスタの背後で若手二人でボソボソと囁いていると、苦り切った表情でガルストが応じる。
「ジェリド殿の話では、こちらの王宮専属魔術師団に話が来る前に既に、経験、年齢、能力を考慮して私、シュレスタ殿、エリーシア、サイラスの四名が派遣されると、近衛軍の中で取り沙汰されていたそうです」
「事実、選抜するとなると、確かにそうなるが……。今までは魔術師の内、誰が従軍しようと噂になどならなかったのにな……」
物憂げに溜め息を吐いたクラウスに、シュレスタが更に表情を険しくする。
「魔術師長……、益々不穏では無いですか?」
「しかしだな、ここで派遣する人間を替えたら、それはそれで憶測を呼んでしまうんだ」
「エリーシアが女性で公爵令嬢だから贔屓されて、職務を免除されているとか、サイラスが元敵対国の人間だから信用されていない証拠だとか、難癖を付ける輩が絶対出て来ます」
冷静にガルストが指摘した内容に、若手二人は無言で顔をしかめた。それにシュレスタが憤懣やるかたない表情をしながらも、不承不承頷く。
「そうなると、司令官殿は派遣要員を他の者に変える事は難しいであろう事も踏まえた上で、近衛軍の中に不穏な動きがあると、予め警告に来て下さった訳ですね」
「そういう事です。それで対外的には責任者として副魔術師長のガルストを出しますが、上層部に顔が広いシュレスタ殿に、睨みを利かせて頂きたいのだが」
「魔術師長、分かりました。最後のお務めとしてはなかなかですな。慎んで拝命します」
「宜しくお願いします」
年長者二人のやり取りを聞いて、エリーシアとサイラスは不満そうな顔から一転、驚きのそれになった。
「シュレスタさん!?」
「お辞めになるんですか!?」
「ああ、まだ正式に表明してはいなかったがね」
苦笑でシュレスタが応じたが、ここでガルストが若手二人に真顔で言い聞かせる。
「そういうわけだ。進んで騒ぎを起こして、必要以上にシュレスタ殿に迷惑をかけないように。それからジェリド殿に言われた様に、考えうる限りの自衛策を講じておく事。従軍中、何が起こるか予測が付かない。最悪、お前達二人を目障りに思ったり、八つ当たりしている輩から直接攻撃を受ける可能性が無いとは言い切れないからな」
「分かりました」
「肝に銘じておきます」
(やっぱり、相当面倒な事になってるわよね。総責任者の立場上、近衛軍内を統率しきれていないと公言できないけど、抑えが利かない阿呆がいるからって、話が本決まりになる前に警告しに来てくれたわけか)
なんとなく釈然としない気持ちを抱えながらも、エリーシアは来たるべき従軍に備えてどのような準備をするべきかと、真剣に考え始めたのだった。
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