「タ、タクトに妹がいたのかっ!?」 「ああ」 驚きすぎだろ。 「こんにちは♪ おにーさまが人様を連れてくるなんて、初めてですわね♪」 「おい、かなで……お前、あとで覚えてろよ?」 女じゃなっから往復ビンタですぞ。 「そ、そっか、タクト……本当にダチがいなかったんだな☆」 なに笑ってんの? ミハイルさん? ひょっとして、これ同情されてない? いやいや、やめてね。 「はい♪ おにーさまはいっつもぼっちで非リア充で、彼女もなし。夜な夜な『妹を使う』クズ男子です♪」 「つかう? ゲームでもすんの?」 「はい♪ エロゲーですね♪」 頭痛い……。 「ところでまだお名前をうかがってませんね」 「あ、オレはミハイル。タクトのはじめてのダチだゾ☆」 「え!? おにーさまにおっ友達がっ……」 貴様、そんなアゴが外れぐらいの大口開けやがって! 「ちょ、ちょっとお待ちください……ううっ……」 「かなで、お前。なぜ泣いている?」 「だって……おにーさまにおっ友達ができるなんて……奇跡ですわ」 「お前な」 「しばしお待ちを! ミハイルさん!」 なにを思ったのか、スマホを取り出すと電話をかけ出すひなた。 「おっ母さま! 大変ですわ! おにーさまが……」 『ど、どうしたの? かなでちゃん! タクくんが痴漢でもしたの!?』 声が漏れている……。 「違いますわ! 痴漢ならまだしも……」 痴漢はダメだろ! 『いったいどういうことですってばよ!?』 「お、お、お……」 『オ●ニーを学校でしたの?』 爆ぜろ、この親子。 「おっ友達を連れてきたんですのよ!」 『……わかったわ。かなでちゃん、すぐにパーティーの準備よ!』 「御意ですわ!」 ひなたは俺とミハイルに背中を見せると、イケメンばりに親指を立てた。 「あとはこの私、かなでにお任せください!」 「は? お前、どこに行く気だ?」 「決まっていますわ! 駅前5分の『ニコニコデイ』ですわ!」 近所のスーパーのことだ。 「お二人はお先に我が家に!」 走り出す妹。 かえってくんな、永遠に。 「なあ今日って、かなでちゃんのお祝いでもすんのか?」 「いや……俺たちを使って遊びたいだけだ」 「そ、そうなのか! オレもあそんでいいのか!?」 君は勉強にきたんじゃないの? ミハイルは目を輝かせて、真島商店街を眺めて「あれはなんだ?」「こっちは?」と俺に質問の嵐。 それに対し、俺は各建物や店の情報を教える。 答える度にミハイルは「すごいな!」と喜ぶ。 歩くこと数分、我が家についた。 「ここが……タクトのいえか……」 ミハイルさん、顔が真っ青……。 「悪いがそうだ」 知人が俺の家へ中々遊びに来ないのは。俺自身の性格、ぼっちだからではない。 我が家の敷居が高すぎるのだ。 『貴腐人』 ブルーの看板には、裸体の男と男が接吻する寸前の環境型セクハラが描かれている。 店の中には痛いなんてもんじゃないぐらいのBL雑誌、推しのポスター、コミック、小説、映像作品、同人誌で溢れている。 ここでオタクショップと思った初見の方は、まだまだである。 そんな腐れ果てた店内は、なんとただの美容院なのだ。 ドアノブに手を掛けると自動で『どうしてほしいの?』とイケボ声優の甘ったるい声がささやかれる。 これがその界隈の女性陣からは身震いを起こすらしいのだ。 俺としては『イキスギィ~』の方がインパクトあっていいと思ったが却下された。 「タクくん~!!!」 『かけ算』している痛い自作エプロンをした母が両手を広げて出迎える。 満面の笑みで眼鏡が光っている。 「母さん……やめないか」 「え? やらないか!?」 クソがっ! 「まあまあ可愛らしい、おっ友達ね! あなたは受けかしら?」 「え? ウケってなんすか?」 ミハイル。お前まで腐ってしまっては親御さんに謝罪せねば。 「あらあら……最近の子たちは『かけ算』もしらないの?」 「かけ算はガッコウで一応ならったすけど」 「時代ねぇ、最近の学校は進んでいるのね~」 会話になってねぇ! 「母さん、この子は古賀 ミハイル。俺のクラスメイトだ」 「かなでちゃんから話は聞いているわ! ミハイルちゃん! あなた可愛いわね!」 「か、かわいい……」 顔を赤らめてまた床ちゃんとお話しちゃったよ……。 ただ我が家の床ちゃんは痛男(イケメン)だがな。 「ええ、記念に写真をとりましょ!」 「は? なんでそうなる?」 ここは入学式会場ですか。 「はーい、もっとからんでからんで!」 息子になにをいってんだ! ババア! 「からむ? こうかな?」 命令通り、俺の左腕を組むミハイル。 「こ、古賀?」 貧乳……じゃなかった絶壁が俺の肘にあたる。 「うひょ~ 尊すぎるぅ~ デヘヘヘ……」 悦に入るなクソババア! 「は、早く撮ってくれ、母さん!」 「なにを怒っているんだ? タクト」 首をかしげて上目遣いすんな! こんな至近距離だと色々とドキドキキュアキュアだぜ。 「はーい! BL!」 ちな、ピースの意味な。 どこにログアウトの選択肢があるんでしょうか?
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