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「じゃあどうする? ジャンル変更するか?」 「そうですね。私は最近考えていたんです。センセイにピッタリのジャンルが」 「俺に?」 「ハイ、それはラブコメです!」 「なん……だと?」  童貞の俺にそんなものを書くなんて、土台無理な話ってもんだ。 「俺には無理……だよ」  これまでヤクザものしか、書いてこなかったのに……。  うなだれる俺の肩を白金が優しくポンと叩く。  ニコッと笑ってみせるとこう語りだす。 「取材すれば書けるでしょ♪」 「しゅざい……?」 「やっぱりDOセンセイみたいな万年、童貞には経験してもらうのが一番でしょ!」 「俺になにを経験しろと? まさかお前……未成年の俺とセックスさせる気か!」  白金が顔を真っ赤にさせて反論する。 「んなわけないでしょ! なんで私がDOセンセイと……まあそれもいいですけど。私は今フリーですしね」  よかない。  それにお前の恋愛なぞに興味もない。キモすぎる生態にも興味はない。    ※ 「取材の内容とは?」 「ずばり! 胸がキュンキュンするような出会い、恋愛でしょう♪」  それからの俺は素早かった。 「ごめん、用事を思い出した。帰るわ……」 「ちょ、ちょっと待って!」  小さくてキモい手が俺にしがみつく。 「やかましい! 誰がそんな戯言のためにクリスマスイブの日に来たと思っている! 仕事だからきたんだ!」 「これも仕事ですよ!」 「取材がか?」 「もちろんですとも♪」  ふむ、どうせこのバカのことだ。  何かよからぬことでも考えているに違いない。  だが、俺もプロだ。話ぐらいは聞いてやらないとな。 「仕方ない。とりあえず、お前の提案だけでも聞いておこう」 「そうでしょ、そうでしょ♪」  ウインクするな、キモいから。 「つまりDOセンセイの作家としての弱点は、以前にも私が指摘したとおり極端すぎるのです」 「極端?」 「はい、つまりセンセイは、現在ほぼ同年代の若者との交流が皆無ですよね?」  ニコニコ笑いながらサラッと人の悩みを暴露するな。 「で?」 「だから先生には高校入学をオススメします」  足元に置いていた自身のリュックを取る。 「帰る」 「だから待ってってば!」  いちいち十代の男子に触れるな! そんなに欲求不満なのか、こいつは。 「絶対に嫌だ。なぜ俺が受験しなかったと思っているんだ!」 「コミュ障だからでしょ!」 「……」  いや、偏差値は悪くないよ? ただの人間嫌いだからね。 「だから、それを治すためにも高校にいきましょうよ!」  なんかバカの白金にしては正論だし~  しかも俺の治療も含まれてるし~   「断る。俺はちゃんと青春を謳歌しているしな」  ゲームと映画でな! 「じゃあ今日、このあとの予定をお聞かせください」  くっ! やはりこのクソガキ、俺に気があるのでは! 「は? なんでお前にプライバシーを侵害されなければならんのだ?」 「言えないんですか? やっぱり可哀そうなイブを過ごすんでしょうね」  このパイ〇ン女が! 「良いだろう、ならば答えてやる、しかと聞けよ」 「どうぞぉ……」  だから鼻をほじるな! 一応お前も女だろ! 「この後、博多社を出たらまずは『自分プレゼント』を選ぶのだ!」 「は? 自分プレゼント? なにそれ、おいしいの?」 「おいしいわ! 一年間、頑張った自分へのご褒美。つまり自分サンタさんがプレゼントを俺にくれるのだ。ちなみに今年はPT4ソフトの『虎が如く8』がプレゼントだ」  虎が如くはご存じ大人気のヤクザゲームだ! 「へぇ……」 「このあとが大事だぞ。デパートで巨大なチキンを買い、そして宅配ピザを頼む。食べ終わると『さんちゃんのサンタTV』を見つつ、アイドル声優の『YUIKA』ちゃんが女声優たちとクリスマスパーティーしているか、SNSをチェック。聖夜の巡回だ!」  『YUIKA』ちゃんとは今一番ノリにのっている可愛すぎる声優さんのことだ。 「それって何が楽しいんですか? 一人で寂しくないんですか? たまに『いま、俺ってなにやってるんだろ?』って我に返りません?」 「返るか!」  ちょっとはある。 「だから、言っているんですよ。DOセンセイはライトノベル作者だというのに、十代の読者が欲しているものがまるでわかってません」 「なんだそれは?」 「一言でいえばラブです」 「なにそれ、おいしいの?」 「おいしいです!」  ちゃんと試食して言ってる?
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