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 花火が終わりを迎え、俺はそろそろ、混浴温泉であるクーパーガーデンから出ようと、ミハイルに提案する。  すると、彼はなぜか、ぎこちなく頷く。 「あ、うん……」  妙に元気ないな。 「どうした? 夏とはいえ、夜の温水プールだ。身体を冷やしたのか? なら、早く『タンスの湯』で身体を温めよう」  俺がそう促すが、彼は急に慌てだす。 「あ、お風呂ね……」  どうも、歯切れが悪い。  あれか? 男同士とはいえ、一緒に真っ裸で大浴場に入るのが、恥ずかしいのか。    ※  クーパーガーデンを出て、また玄関で男女が別々になる。  先ほどの更衣室に向かうため、バラバラに行動せねば、ならないからだ。  左右に別れた階段を進んで、そのまま、更衣室で水着を脱ぎ、大浴場と露天風呂のあるタンスの湯に行ける。  行きは疲れたが、帰りはこりゃ楽だ。 「じゃあまたね」  どこからか、若い女性の声が聞こえてきた。  見れば、競泳水着に眼鏡の女子。  北神 ほのかだ。  リキに別れを告げて、奥の女子専用廊下へと進んでいく。 「うん。ありがとな、ほのかちゃん」  頬を赤くした力がオーバーに両手をブンブンと振って、別れを惜しむ。 「リキ、結構、順調みたいだな」  彼の背中に声をかけてみる。 「ああ、タクオ! こりゃ、イケるかもだぜ!」  拳を作って、はしゃぐリキ。 「だといいな」 「そうだ! 今から俺と一緒に露天風呂へ行こうぜ! マブダチとして!」 「ああ。俺もちょうど、ミハイルと行くところだったんだ……なあ、ミハイル?」  隣りに視線を戻すと……そこには誰もいなかった。 「なっ!? ミハイル? どこだ?」  心配になって、辺りを探すが、どこにもいない。 「タクオ、ミハイルのやつなら……ほれ。もうあっちに行ったぜ?」  リキの指差す方を見れば、階段を物凄いスピードで走り去るミハイルの姿が。  うむ、濡れた水着の小尻も最高……じゃなかった!  なんであいつ、逃げていくんだ?  ちょっと、腹が立つわ。 「まあタクオ。ミハイルもなんか用事あんじゃね? 腹でも壊したとかよ」 「な、なるほど……」  それなら、確かにあの動揺した姿も頷けるか。  結構、あいつ。ああ見えて、恥ずかしがり屋だからな。    ※  更衣室で、水着を脱ぎ、近くにあった小さなタオルを手に取ると、早速、大浴場に入って見た。  中はかなり賑わっている。  おじいさんや親子たちで、ガヤガヤと騒がしい。  全員フル●ンで、見ていてエグいがな。  俺は簡単にシャワーで身体を洗い流すと、まずは露天風呂である『タンス湯』へと向った。  別府の夜景を楽しみながら、塩水で温められた天然温泉らしい。  たまには、都会から離れた静かな高原で、リラックスしたいからな。  大浴場を抜けて、露天風呂に出た。  湯船は全部で、上から4段に別れた構造になっている。  一段目に屋根があり、二段目から完全に露天風呂。三段目が一番大きく、また足湯も完備。最深部が寝湯になっていて、石造の枕まで完備。  こりゃあ、日々の疲れが取れるってもんだ。  俺は迷うことなく、寝湯の方へ降りていく。  最近、自作『気にヤン』の執筆を追い込んだせいで、肩がかなり凝っているから。  少しでも肩こりをほぐしたい。  湯船につかり、仰向けになって、寝てみる。  枕もいい感じの高さで、ちょうど耳に水が入らないぐらいだ。 「ごくらく、極楽~」  なんて鼻歌が出るぐらい快適。  どうしても、身体の力を緩めると、足先が浮かんでしまうが、そんなこと気にならないぐらい、気持ちが良い。  上を見上げれば、星々がたくさん広がっていて、最高のプラネタリウム。  前方に目をやれば、別府湾や街の夜景が見渡せる。  ちょっと、熱すぎるぐらいの温泉だが、半身がどうしても、水中から浮かんでしまうので、濡れた素肌を、前方から吹きつける強い風が、火照った身体を冷ます。  これはこれで、気持ちが良いものだ。 「来て良かったなぁ」  と目を瞑って、呟いてみると……。  誰かが俺の言葉に同調してくる。 「だよな!」  瞼を開いて、声の主を探す。  左側には誰もいない。  じゃあ、逆の右を見てみるか……。 「うなぎぃっ!?」  水中にうなぎが泳いでいる。 「な、なんだこいつ!? どこから入ってきたんだ!」  パニックを起していると、大きな手が俺の肩をつかみ、静止させる。 「どこ見てんだよ、タクオ? 俺だよ」 「へ?」  うなぎの持ち主は、千鳥 力。その人であった。 「ああ……お前だったのか。未知の生命体がこの別府に落ちてきたかと思った」 「ハハハッ、宇宙人なんて信じてんのかよ、タクオってやっぱ変わってんな」  そう言って、俺の背中をビシバシ叩く。  いや、確かに君のおてんてんは宇宙人だよ。  だって、ごんぶとだし、長すぎるし、水中から顔を出すなんて……。  咳払いして、動揺を隠そうとする。 「お、おほん! お前のって、その……デカいんだな」  恐る恐る、彼の股間を指差す。 「はぁ? そうか。フツーじゃね?」  いや、異常だ! 見たことない! 信じたくもない!  馬並みだ。 「普通ではないだろう。リキ、お前のってさ。何というか、デカいというか、長さもあるし……」  怖いよぉ! 「そんなに驚くなよ、ハハハッ。タクオが小さすぎんじゃね?」  比較したことないけど、普通の部類だと思ってます。 「だって、浮かぶか? 普通……」 「え、タクオは浮かばないの?」  巨乳の人が浮かぶと聞くが、男の話は初めてだ。 「ないよ……」 「そっかぁ。まあ、俺もあんまり温泉とかこねーから、わかんねーや。うちの親父とかも浮いてるしな~」  家系だってか!  リキは俺のことなど気にせず、温泉を楽しんでいる。  だが、ここである疑問というか、不安を覚える。  ミハイルのことだ。  彼は幼いころから、リキやここあと一緒に遊んでいたらしい。  多分、お泊りとかも。  ならば……ミハイルのサイズも知っておかないと。  だって、怖いじゃん! 「なあ、リキは……ミハイルと風呂とか、入ったことあるのか?」 「え? ミハイルと? あるよ。近所だし、ヴィッキーちゃんにはお世話になってるしなぁ」 「じゃあ、そのミハイルってお前と同じぐらいの……そのサイズだったか?」  彼の回答に思わず、生唾を飲み込む。 「うーん」  しばらく考え込むリキ。  沈黙が怖い。 「最近は一緒に入らないからなぁ……多分、同じぐらいじゃね?」  ファッ!? 「そ、そうなんだ……」  あの華奢な身体で、どうやって、『ガンホルダー』におさめるというのだ?  と、ここで、また新たな疑問が俺の頭に浮かぶ。 「なあ。ところで、そんなに長いサイズのをどうやってパンツに入れるんだよ?」 「え? 太ももにゴムのバンドで折りたたんでるぜ。普通のことだろ?」  あっさり、爆弾発言をするリキ。いや、リキ兄貴。 「そ、そうですね。普通のことですよね。普通の……」  なぜか縮こまってしまう俺だった。    ※  長い、長すぎる……なにがって?  この隣りの野郎のことだよ。 「それでよ、ほのかちゃんのどこがいいかってよ。まず、あの真面目そうな顔とは反したワガマボディ! それに眼鏡の奥からたまに見える鋭い眼差し。あと、毎回制服着てくるというこだわり! たまらねぇよな! あとさ、気づかいもできるし、芯が強い女の子だって思うわけ。自分の気持ちは曲げない潔さ! 全部、全部が可愛すぎて……」  うるせぇ!  お前がどれだけ、ほのかのことを想ってることは、もうわかったよ。  一時間近くも聞かせられるこっちの身にもなってくれ。  もうさすがに、熱さで身体のぼせてきた……。 「悪い、リキ。先にあがるわ」  ちょっと、熱で頭がふらつく。  フラフラと立ち上がろうとする……が、ごつい彼の大きな手が俺の腕を掴む。 「ちょ、ちょっと待てよ! タクオ! これからがいいところなんだ、もうちょっと付き合ってくれよ!」 「話なら温泉を出てからでいいだろ……」 「いや、俺の気持ちはこの夜景を見ながら、マブダチのお前と語り合いたいんだって!」  俺の腕を一向に離そうとしないリキ。  だが、もう相手をしてられん。  早く出ないと俺が倒れそうだ。 「悪いが出るぞ……」  必死の思いで、湯船から脱出しようとした瞬間だった。  見くびっていた。『剛腕のリキ』の異名を。  俺の意思とは反して、力づくで引っ張られ、地面に叩きつけられる。 「いってぇ……」  石畳の上でうつ伏せの状態に倒れてしまった。  心配したリキが咄嗟に立ち上がる。 「わりぃ! タクオ、大丈夫か!?」  急いで俺の元へ駆け寄ろうとするが、彼も長時間、湯船に浸かっていたせいか、思ったように足が動かず、フラついている。 「ありゃっ!」  リキのアホな声と共に、ドシン! とナニかが、乗っかかてきた。 「いってぇぇぇ!」  倒れこんでいる俺の背中に、リキの巨体がボディプレス。  あばら骨が折れたかも?  だが、そんなことよりも、気になるのは、俺の臀部でんぶあたりだ。  ナニかが、俺の割れ目にグニョグニョとうごめいている。  ま、まさか!? 「わりぃ、タクオ。こけちまった……」 「そんなことはいい! 早く俺から離れろ! こんなところ、誰かに見られたら……」  時すでに遅し。  目の前には、細い脚が4本。  見上げると、そこには、おかっぱ頭のキノコ頭が二人。  同じクラスの日田兄弟が立っていた。 「し、新宮殿! まさか、氏は、剛腕のリキとそのような関係……」 「兄者、ここは一つ……」  お互いの顔を見つめあうと、無言で頷く。 「「ぎゃあああ! ホモダチだぁ!!!」 「……」  終わったな、俺のスクールライフ。

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