俺と坊主頭の好青年、石頭くんは朝礼台の前に並び立つ。 一本のマイクが置かれていた。 「えー、では開会式を始める!」 デカデカと大きな声で叫ぶ宗像先生。 隣りには眼鏡をかけた裸体の中年教師が……。 ブルマ着たアラサーとゴールデンパンツのおっさん。 変態同士、このまま結婚したら? お似合いだよ。 「今回は三ツ橋高校の光野先生と全日制コースの生徒たちが複数参加してくれた……それにはちょっとした訳があるのだが……」 あの裸先生の名前って、光野って言うんだ。 ゴールデンパンツと言い、ピッカピカな人だね。 「本大会はバトルロワイアル形式で、行われる。つまり……今日は皆さんに、ちょっと殺し合いをしてもらいます」 ファッ!? 一体、何十年前のネタだよ! しかも、俺の大好きなタケちゃんをブルマで汚すな! せめてジャージ着てやりなおせ! ざわつく運動場。 ただ、驚いているのは通信制コースの生徒たちだけだ。 全日制コースの学生たちは別に驚くこともない。 どうやら、事前に情報を仕入れていたようだ。 俺の隣りに立っている生徒会長、石頭くんはピシッと背筋を伸ばして、光野先生の股間を見つめていた。 うーん、石頭くんって片思いしちゃってる? しかし、宗像先生の思いつきというか、お遊びにも程があるってもんだ。 俺たち未成年を集めて、こんな夜から殺し合いとか……ちょっと教育委員会が黙ってませんよ。 悪い冗談だ。 俺は一ツ橋代表として、マイクを使い、訴える。 「質問いいでしょうか?」 「新宮! 私語してんじゃねぇ!」 ちゃんと手をあげて質問してやっただろうが。 いつまであの映画好きなんだよ。 「すみません……」 「てめーら、大人なめてんじゃねーぞ!」 なめてねーよ。ちゃんと敬語使ってるだろが。 宗像先生は意外とタケちゃんのファンだったのか。 ま、それはいいけど、ちゃんと授業やれよ。 「質問は一個までだ! 二個言ったら欠席扱いするぞ、コノヤロー!」 酷い……なんてブラックな運動会だ。 「あ、あの……バトルロワイヤル形式でしたっけ? 勝者には一体のなんのメリットがあるんですか?」 「質問は一個にしとけったろ!」 もうどうでもいいわ…。 宗像先生は「まあいい」と咳払いして、改めて説明を始めた。 「今、我が校のホープ。新宮 琢人が質問してくれたことだが……」 人を勝手に希望にすんな! 「バトルロワイヤル形式で、最後まで生き残った者には、一年分の単位をやろうと思う」 ファッ!? なにを言ってんだ、コイツ。 運動会でMVPとったら、一年間、学校通わなくてもいいのかよ……。 とんだ教師だな。 宗像先生の発表に歓声をあげる生徒たち。主に一ツ橋のヤンキーたちだ。 「ヒャッハー! これで勝てば一年間遊べるぜ!」 「シャッアー! 単位ヤバかったらラッキー♪」 「ぼ、ぼかぁ、それよりも宗像先生の追加写真が欲しいな、ハァハァ……」 あれ? 最後はヤンキーくんじゃないね。 反して、一ツ橋の真面目組は正直、嬉しそうじゃない。 そりゃそうだろ。 毎日、コツコツとレポート書いて提出して、スクリーングにも真面目に通っている身分からしたら。 こんなこと、前代未聞だし。 バカバカしくなってくる。 俺もそのうちの一人だ。 「あ、あと、これは通信制コースの一ツ橋高校の諸君のみだ。全日制コースのみんなには悪いが、単位はやれない。だってあのクソバカ校長が許さないからな」 えぇっ、かわいそう。 なんのために集められたんだよ。 「その変わりと言ってはなんだが、本大会で優勝をおさめたのものは『なんでも一つだけ叶えちゃう権』を授与する!」 な、なにを言いだすんだ……。 七つのボールでも探したあとみたいな、サプライズじゃないか。 宗像 蘭、お前にそんな神的権限はないだろう。 ふと後ろを振り返ると、三ツ橋高校の生徒たちが何やら不敵な笑みを浮かべていた。 一番最初に目が行ったのは、赤坂 ひなた。 「フフッ……絶対に生き残ってセンパイと毎日、新聞配達させてもらうんだから…」 いや、あなたこの前、一緒に配達したやん。 それにただの仕事だから、願うことじゃない。 その次は赤坂 ひなたの背後にいた福間 相馬。 「うっし! 俺は赤坂とラブホっ!」 それはダメ。ただの犯罪。合意の元でじゃないと、法で裁かれるよ? 最後は光野先生率いる吹奏楽部。 「全国優勝をこの大会で勝ち取るチャンスよ! 3年の先輩たちと光野先生のためにも絶対生き残るわよ!」 「「「おお!!!」」」 ちょっと、待って。 音楽コンクールは実力で勝てよ。 他力本願だったら、もう出場するな。 俺はため息をついて、頭を抱える。 「なんなんだ、このバカみたいな運動会は……」 呆れていると、石頭くんがこういった。 「新宮くんは負けるのが怖いのですか?」 彼の瞳は光りこそなかったが、その眼差しはとてもまっすぐだ。 「いや、別にそういうわけでは……」 「ならば、僕と真剣勝負しませんか? 一ツ橋の皆さんにも『なんでも一つだけ叶えちゃう権』はもらえるそうですよ」 あのさ、君。仮にも生徒会長だよね? そんな子供じみたこと、マジで信じてるの……バカじゃん。 「は、はぁ……」 「もし新宮くんに好きな子がいたとしたら……。僕が優勝して『その子と付き合いたい』なんて宗像先生に願ったらどうします?」 こいつ…俺を煽る気か。 「俺に好きな子なんて……」 いいかけた瞬間、脳裏をよぎる。 イガグリ頭の石頭くんとミハイル、いやアンナが口づけを交わす光景が。 胸にグサリと、槍が刺さった気分。 ふと、振り返る。 ミハイルが立っていた。 体操服にブルマ姿の可愛いアイツ。 俺の視線に気がつき、笑顔で手を振る。 「タクトォ! がんばれよ~」 あんな無垢な顔をしたヤツの唇を奪われるなんて……。 ミハイルの隣りにいていいのは、俺だけだ! 歯を食いしばって、覚悟を決める。 「いいだろう。石頭君、俺と真剣勝負だ」 「やはり君は一ツ橋のホープですね。いい殺し合いを期待してます」 そう言って拳と拳で、無音のゴングを鳴らす。 ていうか、命はかけないからね。 殺しちゃダメ。 俺と石頭くんの姿を見て、宗像先生が高らかに笑い声をあげる。 「だあっはははは!」 相変わらず、品のない笑い声だ。 アゴが抜けるぐらい大きく口を開いてる。 のどちんこが丸見え。 こんな体たらくだから、嫁の貰い手がないんだ。 「その意気やよし! さすが、私の弟子だ! 新宮!」 お前のところに入門するバカはいない! 「あと、言い忘れたが、これだけの優勝賞品を準備しているんだ。負けた高校には罰があるからな」 「え……」 思わず、背筋が凍る。 「負けた高校は全体責任として、運動会のあと、一晩かけて校舎、武道館、食堂、それから同じ系列の保育園、短大を掃除してもらう」 「ハァッ!?」 なにそれ、絶対に負けたくない。 それに対して、生徒会長の石頭くんが手を挙げる。 「宗像先生、よろしいでしょうか?」 「うむ、なんでもいいたまえ」 「その罰として掃除する際は、未成年の僕らだけが掃除するのでしょうか? さすがに未成年だけで残るのは良くないかと……」 さすが、生徒会長。 間違ってない、偉いぞ! 「ああ、それについては問題ない。負けた方の教師が一緒になって掃除するからな。保護者の人にも先ほど許可をもらっている」 おかあさーん! 認めちゃダメだよぉ! 「そうですか。ならいいんです」 ニコリと笑って納得する、無能な生徒会長。 しかし、引っかかる。 このバカ教師が負けたら徹夜で掃除する、なんて発想をするのはおかしい。 何か裏がありそうだ。 先生たちにとっては、デメリットしかない。 そこで俺がもう一度手をあげる。 「すいません。少しいいですか?」 「新宮!」 と叫んだあと、ブルマの中に手を突っ込む。 股間から小さな何かをつかみ取ると、俺の顔に目掛けてぶん投げた。 その行為に俺は驚き、思わず口を開いてしまった。 謎の物体は超速球でスポンと、俺の口内へストライク。 なんか暖かくて、フニャフニャしている。 恐る恐る、舌先で確かめると、微かに甘い。 グミか。 「私語は慎めったろ! で、質問はなんだ」 こんのやろうが、きたねぇもん食わせやがって。 グミを飲み込んでから、こう言った。 「失礼ですが、先生たちにとっては何もいいことないじゃですか?」 俺がそう質問すると、宗像先生はよくぞ聞いてくれたと言わんばかりに、妖しく微笑む。 「だあっはははは! それなら心配ご無用だ! 私たち一ツ橋高校の教師たちはみんな、お前らに今月の給料をぶっこんでやったからな!」 「は?」 ちょっと、言っている意味がわかんない。 「つまりだな。この運動会は賭け試合だ。勝った高校の教師は今月の給料が二倍になっちゃうんだ!」 クソじゃねーか。違法だ! 俺は開いた口が塞がらなかった。 宗像先生は「だからお前ら絶対に勝てよ」と脅しをかける。 それまで沈黙していた光野先生がやっと口を開く。 「えー、宗像先生のおっしゃった通りだ。私もこの前、高額な楽器を借金してまで購入したからな……。すまんが、三ツ橋の諸君には死ぬ思いで頑張って頂きたい」 うん、こいつもクソ教師だったのか。 終わってんね、この学校。
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