二階の階段を出てすぐ目の前に、大きなプールがあった。 イルカショーはまだ始まってないが、何匹かのイルカやクジラが泳いでスタッフと練習している。 博多湾をバックに円形のプールが設置されている。 強い潮風がぴゅーぴゅーと顔に吹きつけられるが、これはこれで気持ちが良いものだ。 プールを囲うようたくさんの座席が並ぶ。 三階には売店もあった。 俺とひなたは、一番前から少し後ろの席に座った。 彼女曰く、前に行くほどショーを楽しめるが、イルカたちが目の前で泳ぐため、ジャンプした際、水しぶきが客席にかかるらしい。 だから、ちょっと離れたぐらいが、ベストポジションらしい。 ひなたは気をきかせて、売店でチュロスを買って来てくれた。 「はい。半分こしましょ♪」 「お、おう……」 パキッと割って、二本にする。 それをもしゃもしゃ食べていると、一番前のステージに女性スタッフがマイクを持って現れた。 「マリンワールドにお越しの皆さん~! 今日はイルカちゃんとクジラちゃん達のショーを楽しんでいってあげてくださいね~!」 「きゃあ~! 見てください、センパイ! イルカちゃんが出て来たぁ!」 ひなたはかなり興奮しているようで、チュロス片手に前のめりになる。 ミニスカートだから、シマシマパンツが丸見え。 「お、おい。ひなた、ちょっと落ち着け」 「ええ、イルカちゃん可愛いじゃないですか?」 頬を膨らませるひなた。 「まあ、気持ち分からんでもないがな……ちょっと無防備すぎやせんか?」 腰のあたりを指差すと。 「あ! センパイ。また勝手に見たんでしょ? エッチ!」 そう言って、俺の手のひらをぎゅーっとつまむ。 「いってぇ!」 「フン!」 全く、忙しいやっちゃ。 ショーが始まり出す。 軽快な音楽と共に、イルカが三匹、天井にぶら下がっている小さなボールへと飛び跳ねる。 その後、巨大なクジラも豪快にジャンプ。 イルカの時とは、段違いの迫力で、水しぶきが俺たちの足もとまで、飛び跳ねてくるほどだ。 「きゃっ、冷たい~!」 言いながらも、ひなたは嬉しそうだ。 そして、音楽は変わり、重低音の荒々しいロックミュージックへと変曲。 司会の女性スタッフがマイクで注意を促す。 「ただいまから、クジラちゃんが激しいジャンプをしますので、一番前にいる人は、注意してくださいねぇ~ 5回連続でボール目掛けて、大ジャンプをします。見事、届いたら大きな拍手をお願いします~!」 「きゃあ~ クジラちゃん頑張ってぇ~」 ひなたはスマホで撮影タイムに入っている。 俺と言えば、懐かしいなぁなんて子供の頃を思い出しながら、見ていた。 ショーもクライマックスに近くなり、クジラが観客席のギリギリまで近づき、飛び跳ねる。 水しぶきが何人かの観客やスタッフに、ばしゃーんとかかり、悲鳴があがる。 クジラは最後に俺たちの前を通り過ぎようする……その瞬間だった。 「ちょ、ちょっ……きゃああ!」 甲高い女の悲鳴があがった。 気がついた瞬間、隣りにいたはずのひなたは、一番前のコンクリートに転げ落ちていた。 驚いて固まっているひなた。 腰から床にストンと落ちたため、股は広げたまま、パンツは丸見え。 直後、クジラが彼女の頭上を飛び跳ねた。 びしゃーんと、大きな波が襲う。 残ったのは、びしょ濡れのひなたが一人だけ。 「な、なによ! これぇ~!」 一瞬だった。俺はわけもわからず、固まっていた。 司会の女性スタッフが、 「お怪我はありませんか? ショーを中断します!」 とスピーカーから大声を出したことで、ざわつく会場。 俺はやっとのことで、我に返る。 すぐさま、彼女の元へと駆けつけた。 「大丈夫か、ひなた?」 「ひっぐ……セン~パイ! 誰かに押されたぁ~」 「押された?」 「酷いよ~!」 俺の胸に顔を埋めるひなた。 とりあえず、俺は彼女の背中を優しくトントンと触れてみる。 背中までずぶ濡れだ。 そして、何人ものスタッフが駆け付け、ひなたの安否を確かめていると。 一つの人影が、会場から去っていくのを俺は見逃さなかった。 「チッ……」 先ほどのハンチング女だ。 一体、このマリンワールドでなにが起きているんだ?
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