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 波のプールで溺れたミハイルを、お姫様抱っこしてから、なんかギクシャクしてしまう。  二人して、ビーチの隅で体操座りする。  ボーッと放心状態で、宗像先生や千鳥、花鶴がプールではしゃいでる姿を、眺めていた。  というか、俺の場合は、股間が直立しちゃったから、動けないんだけどね♪  ミハイルといえば、頬を赤らめて、視線を下にやっている。  結局、その後も俺たちはプールで遊ぶことはなく、「そろそろ、あがるか」と更衣室に戻ってしまった。  更衣室の入口付近に、シャワールームが設置されていたので、俺はそのまま、身体を洗うことにした。  ミハイルはなぜか、「オレは自分の部屋で洗うから」と、一人ホテルに戻ってしまった。  なんでだろう? 裸になるのが恥ずかしいのか。  それを言ったら、このあとの温泉とか大浴場はどうする気だ?  身体と頭を洗い終えると、ムキムキのハゲマッチョに声をかけられる。 「タクオ! プール、楽しかったよな!」 「ああ……まあ、それなりに、な……」  股間くんはすごく楽しかったと言っています。 「てかよ、ミハイルと一緒にいたんじゃねーの?」 「さっきまでいたが、なんか先に部屋に戻ると言ってたぞ」 「ふーん。あ、タクオさ、水着は後で使うから、あそこにある脱水機を使って乾かしておけよな」 「何に使うんだ?」 「この『波に乗れビーチ』の上に、混浴温泉『クーパーガーデン』があんだよ」  なん…だと!? 「混浴だってぇ!? そ、それは本当か?」  興奮するあまり、千鳥に迫る。 「お、落ち着けよ。タクオ……混浴っても、水着で入るんだよ。だから、いるんじゃねーか」  チッ、クソみてーな温泉だな。  一気にテンションが下がる俺氏。 「なるほど。了解した。じゃあ、水着は乾かしておこう」  脱水機で、水着を乾かしている間、俺はロッカーを開く。  入れていたタケノブルーのTシャツは汗臭い、ジーパンも湿っている。  せっかく、シャワーで綺麗な身体になったというのに、これをまた着るのは、げんなりするな。  そう思っていると、近くのカウンターで立っていた男性スタッフから声をかけられる。 「あ、お客様! バスタオルと浴衣を無料でお貸しておりますよ」  助かったと俺は安堵する。  スタッフから、Mサイズの浴衣とバスタオルを受け取り、ロッカーで着替えをすます。  と思いたかったが……。  下着が問題だ。  ブリーフも汗まみれ。  ならば、選択は一つしかない。  アラサー痴女教師、宗像 蘭から借りたTバックを履くしかない。  覚悟を決めろ、琢人よ!  紫のレースのパンティーだが、履いてみたら、案外ダンディーな男に見えなくもない……気がする。  宗像先生が普段、履いている下着を広げて、俺の脚に『穴』を通していく。  両方埋まったところで、グイーッと股間にフィットさせる。  ふむ、サイズ的には問題なしだ。  ケツがスースーするが、案外いいもんだな。  一つ、気持ち悪いとするならば、前面から俺のヘアーが、もじゃもじゃとはみ出ているところか。    浴衣で隠せば、問題ない。   「よし、俺もホテルに戻るかぁ……」  なんだか、女の子の気持ちがわかってきちゃったかも。    ※  ホテルに戻ると、腹の音が鳴る。  もう夕方の6時だ。  腹も減る頃合いか。  そう言えば、宗像先生が言ってたな。  一階にある食堂に集まれって……。  食堂に向かうと、もう既にみんな集まっていた。  バイキング形式で、好きな食べ物を自分で取って良いようだ。 「これはなかなかに豪勢だな」  ハンバーグ、刺身、ステーキ、天ぷら、カニ、カレー、ピザ……なんでもありだ。  よし、いざ実食!  トレーを持って、料理を取ろうとした瞬間だった。  華奢な白い腕が俺を静止させる。 「待ってたよ☆ タクト!」  浴衣姿のミハイル。  しっかり帯を巻けていないのか、襟元が随分、はだけている。  上から見ると、もうすぐ乳首が見えちゃいそう……。  サイズもあってないようで、かなり大きい浴衣を着ているようだ。  上前と下前が、左右に開けている。  彼が嬉しそうにぴょこぴょこ動く度、グリーンのボクサーブリーフが、チラチラと見えてしまう。  男装時は、防御力が低すぎんだよな……。  生唾を飲み込んでしまう。 「ねぇ、聞いている? タクト?」  潤んだ瞳が、一段と輝いて見えた。 「あぁ……なんだっけ?」  お前の浴衣姿に見惚れていた……なんて、言えるわけないだろう。 「も~う! だから、言ってるじゃん! タクトの夜ご飯は、オレが作ってきたから、バイキングする必要ないよ☆」 「は?」 「バイキングってさ、選んでテーブル戻っての繰り返しじゃん。疲れるじゃん。なら、最初から豪華な料理を、ダチのオレが作ってきたんだ☆ えっへん!」  ない胸をはるな!  そして、俺はそんなこと頼んでもないぞ!  バイキングしたいのに! 「ほら、こっちに来てきて! もうちゃんとテーブルに用意しているから☆」  そう言って、強引に手を引っ張られる。  俺の拒否権はないんですね。  ミハイルに連れてこられたテーブルは、大人が6人ぐらい座れる巨大なテーブル。 「こ、これは……」  見たこともないぐらいの、豪華な料理がずらーっと並んでいた。  伊勢エビのマスタード焼き、鯛の活け造り、ふかひれスープ、極厚ステーキ、フルーツの盛り合わせ、おまけに、パティスリーKOGAの名前が刻まれたケーキが10個以上……。  れ、レベチィ~っ!?  しかも、テーブルの上には、ネームプレートが置かれており、 『新宮様、古賀様。貸し切り』  と、予約されていたようだ。  蝶ネクタイをつけた品格のあるウェイターが、俺の前に現れる。 「ご予約されていた新宮様と古賀様ですね……こちらの席へどうぞ」 「は、はい……」  貫禄が違う。  思わず敬語になってしまった。 「タクト。これオレが全部、作ったんだゾ☆ すごいだろ!」 「ああ……」  もう、ドン引きしています。  席に二人して座る。ピッタリ並んで。  すかさず、ウェイターが俺の前にメニューを差し出す。 「新宮様、本日のおすすめは、白ワインの10年ものです……」 「はぁっ!?」  思わず、アホな声が出てしまう。  俺、未成年なんだけど。 「タクト、心配しなくてもオレが用意したノンアルコールのジュースだゾ☆」 「そ、そうか……なら、それをください」 「かしこまりました。少々お待ちください。古賀様も同じものでよろしかったですね?」 「うん、グラスも二つお願いね☆」 「承知いたしました」  一礼すると、ささっと静かに調理場へと戻っていった。  てか、何様なの? ミハイルって。 「なあこの根回しは……ミハイルがしたのか?」 「そうだよ☆ ここのホテルにねーちゃんがケーキとか卸してるから、ゆーづうがきくんだ☆」  ヴィクトリア、強し。 「なるほど……」 「そんなことより、早くオレの作った料理食べてよ☆」 「ああ、いただきます」 「どーぞ☆ 残さないで食べてくれよな☆ 徹夜して作ったんだから☆」  めっちゃ笑顔で俺の顔を覗き込んでいるんだけど。  脅しに聞こえます。    このあと、俺は死ぬ思いで、ミハイルのフルコースを一人で食べることになった。  彼と言えば、ジュース以外はホテルのバイキングを食べていた。  ミハイル曰く、 「タクトのために作った料理だから、オレは食べなくていいよ」 「食べるところとか、味の感想を聞きたい☆」  と言って、一緒に食べてくれなかった。  吐きそう……。
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