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 なんと、このマリンワールドで起きていた、ひなたの災難は全て、この目の前に立っているブロンドの美少女。  アンナが犯人だったようだ。  俺はあまりに酷い仕打ちに対し、ドン引きしていた。  だが、当の本人は悪びれるわけでもなく。 「タッくん、今から水族館でも取材しよっか?」  なんて笑っている。 「いや……ダメだろ。アンナ、今日ずっと俺達のこと、追っかけ回していたのか? しかも、ひなたに起きた不幸は全部……」  言いかけた途中で、彼女の小さな指が俺の唇に触れる。 「違うよ☆ ひなたちゃんは日頃の行いが悪い子ちゃんだから、多分あんなことになったんだよ☆」 「えぇ……」  あくまでも白を切るつもりか、この子。 「でもさ、ひなたちゃんって小説の世界ではサブヒロインなんだよね?」  急に話題を変えてきやがった。 「まあな。だが、それと何の関係があるんだ……」 「アンナもね、一生懸命考えたんだよ?」 「なにをだ?」 「小説の世界☆ メインヒロインが居れば、あとのモブヒロインはきっと読者の人も。いらないなぁって思うんじゃないかってね……。だから、殺せばいいんだよ☆」  なんてカワイイ顔して、恐ろしいことを言い出すんだ。この人。 「だ、誰を?」 「ひなたちゃんを殺すに決まってるじゃん☆」  人差し指を立てて、まるで「今晩のおかずを決めたよ☆」ぐらいの軽い口調で、提案してきた。  スナック感覚で殺人を考えるとか、怖すぎる。 「なにを言っているんだ? そんなことしたら、犯罪だろ……俺が逮捕されていいのか?」  そう言うと、アンナは白い歯を見せて笑い出す。 「タッくんたら、そんなわけないじゃん! ははは、カワイイ~☆」  え、今俺ってなんか愛らしいことしたかしら? 「どういうことだ……」 「作品の中で殺す、死なさせるってことだよ☆ さっき事故でプールに落ちたでしょ。溺死ってことにすればいいよ☆」  良くない、全然よろしくない。  仮にもラブコメで死人を出すとか、笑えないし、胸キュン要素は殺され、読者は胸が痛みだしちゃうよ。 「良くない! アンナ、俺はひなたを助けに行かないと!」  さすがの俺も、溺れた彼女が心配だったので、かいじゅうアイランドに戻ろうと、アンナに背を向ける……とアンナが俺の肩に触れて。 「大丈夫だよ~ タッくんたら、優しいんだね。ひなたちゃんって、水泳部なんでしょ? じゃあ放って置いても全然OKだよ☆」  悪魔のような囁き声が背後から聞こえてきた……。 「そういう問題じゃないだろ! アンナ、いい加減にしないと、今回は俺もちょっと怒っているぞ?」  度が過ぎるカノジョには、ちょっとお説教しておかないとな。  アンナは、初めて怒った俺の顔を見て、しゅんと落ち込んでしまう。 「タッくん……怒っちゃったの……」  なんて瞳を潤わせ、上目遣いで顔色を伺ってくるので、俺の怒りは一瞬にして、冷めてしまう。 「あ、いや。怒ったというか、まあ……人間としてだな。やはり女の子は大事に扱わないと……」 「ぐすっ……ごめんなさい。タッくんのお友達を悪く言って……」  いや、悪く言ったんじゃなくて、あきらかに殺しに来たんだろ。あんた。  そんなことをしていると、誰か人影がこちらに寄って来る。  びちゃん、びちゃんと……不気味な足音で。 「セ~ン~パ~イ。な~にやってんすか……。私を置いて、助けにも来ず、知らない女をナンパですかぁ~?」  振り返ると、そこにはびしょ濡れになった女妖怪、雨女……ではなく。  現役女子高生の赤坂 ひなたが立っていた。  濡れて重たくなった前髪は、だらんと顔を隠すまで垂れている。  そのせいで、彼女の瞳が確認できない。  両腕はなぜか宙に上げて、力なく伸ばしている。  まるで、ゾンビのようだ。 「ぎゃあああ!」  俺はその姿を見て、思わず絶叫してしまった。 「センパイ……隣りのなんか、あざとい女……誰ですか?」  凍りつきそうな冷え切った声で呟く。 「えっと、その……この子は……アンナちゃんです」  なんとなく、紹介してみる。  すると、ひなたは肩をブルブルと震わせて、手のひらを丸めて拳を作る。 「お前かぁ……お前があのクソチート女のアンナかぁあああ!?」  殴りかかる彼女を俺は必死に抑えこむ。 「ひなた。すまん! 今回のことは俺が悪い!」 「センパイは悪くないでしょ! この女が犯人だぁ!」  俺とひなたが揉み合っている姿を、ちょっと離れた所で、アンナはニコニコ笑って見ている。 「ほらぁ、言った通りじゃん。水泳部だから大丈夫だったね☆」  その一言が更にひなたを興奮させてしまう。 「お前ぇ~ それでも人間かぁ!?」  ひなたを落ち着かせるのに、30分間はかかった。

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