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 俺とミハイルは朝食を済ますと、自宅を出た。  二人して、真島商店街を歩く。  平日の朝ということもあって、商店街はまだ人の出入りが少ない。  隣りを歩くミハイルは、未だ三ツ橋高校の体操服にブルマ姿のままだ。  恥ずかしくないのだろうか?  平然とした顔で、俺に言う。 「ネコカフェ、楽しみだな☆」  いや、その格好で歩くの勇気いりません?  僕だったら死にたくなります……。 「じゃあとりあえず、席内に行ってミハイルん家に寄ろう」 「え、なんで?」 「その格好のままじゃ、問題だろう……借り物とはいえ女子の体操服だからな」 「別によくね?」  ダメだよ、普通に。  この人、女装のしすぎで頭おかしくなってねーか? 「ダメだよ。ちゃんと洗濯して今度のスクーリングで返さないといけないし……それに、そのなんだ。俺も目のやり場に困る」  白くて細い太ももに食い込むブルマが、童貞の俺にはどうしても冷静ではいられなくなってしまう。  認めよう、ミハイルの魅力に……。 「ふーん。なんでか分かんないけど、タクトがこの服、嫌ならもう二度と着ないよ?」  意味を理解できていないようだ。  首をかしげて、俺の顔を下からのぞき込む。  くっ! このあどけない態度が、憎めない。 「それは断じて違う! 嫌いじゃない!」  むしろアンナモードでも着てください! お願いします! 「じゃあ好きなの?」 「んん……返答に困る」 「変なタクト~」  あなたもやってること、十分変態なんだけどね。  頬が熱くなる。恥ずかしくなって、目をそらす。  俺の気持ちを知ってか知らずか、当の本人は頭の後ろに両手をやりながら、鼻歌交じりにてくてくと歩いてる。  そんなときだった。  スマホの着信が鳴る。  見たことのない市外局番だった。  ミハイルの姉、ヴィクトリアの自宅かと思ったが、あそこは前回、アドレス帳に登録しておいた。  席内市の番号ではない。  だが、福岡県の番号だ。  とりあえず、電話に出る。 「もしもし?」 『おぉ! 新宮か! 今日もカワイイ蘭ちゃん先生だ~』  酒やけした低い声が受話器から漏れてくる。  一瞬、いたずら電話の変態おじさんかと思ったが、その正体は一ツ橋高校の宗像先生だった。 「どうしたんすか?」 『あのな、昨日やった運動会でさ。三ツ橋高校の体操服着ただろ?』  先生にそう言われて、隣りを歩くブルマくんを見つめる。 「そう言えば、そうでしたね。今度のスクーリングで返却すれば、いいっすか?」 『いや、そんなことしなくていい。もらっておけ』  ファッ!? 「ええ? だって、三ツ橋の生徒の物でしょ? そんなのパクりじゃないっすか!?」 『そんな盗んだみたいなことを言うなよ、新宮』  受話器の向こうで、ヘラヘラ笑いながら、喋ってやがる。 「どういうことです?」 『あのな、昨日の運動会で、最後に三ツ橋の校長が乗り込んできたろ? あの後、先生がどうにかごまかしてな。変質者たちが三ツ橋の体操服着て、運動場で乱痴気騒ぎしてたってことにしといたんだ♪』  な、なんて嘘をつきやがったんだ。  勝手に運動会を主催しとして、俺たち一ツ橋の生徒は変質者扱いかよ。 『体操服は変態に盗まれたってことにしてるからさ。三ツ橋の保護者が激怒してて、買い直すことになったらしいぞ♪ 良かったな♪ タダで体操服ゲットだぜ!』  やっぱり盗んだんじゃねーか! 「いや、そういうわけには……」 『名前のワッペンを変えれば、問題ないから。じゃあな! ブチッ……』 「ちょ、ちょっと……」  一方的に電話を切られてしまった。  ミハイルが俺に屈託のない笑顔で言った。 「タクト? ひょっとして、宗像センセー?」 「うん……」  背筋が凍る。  俺は、いや俺たちは犯罪者に仕立てあげられたのか……。  主な罪状、窃盗と不法侵入、ついでにわいせつ罪もありそう。 「どうしたの? タクト」 「その、体操服もらっていいってよ」 「マジで? タクトが好きなら今度これ着てどっか遊びに行こっか☆」 「え……ああ、とりあえずワッペンだけは変えとけって、言われたよ……」 「オレ、刺繍得意だからまかせろ☆ タクトの分もしといてやるよ!」 「じゃ、頼むわ」 「おう☆」  
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