作品に栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。
「ヘイ! ラーメン、バリカタお待ち!」  俺とアンナはカウンターの席に座り、仲良く横並びしていた。  スマホを見れば時刻は『15:02』。  ちょうどお昼の賑わいが済んだ時間だ。  店内は俺とアンナしかいなかった。  大将はなんだか嬉しそうに俺たちを見つめる。 「うわぁ! 美味しそう!」  手を叩いて喜ぶアンナ。  目をキラキラと輝かせて子供のようだ。  まあ15歳だから子供っちゃ子供だよな。 「だろ?」  俺が作ったわけでもないのに、なぜか店を紹介した俺が自慢げに語る。 「「いただきまーす」」  声を揃えて、いざ実食!  アンナはショルダーバッグからシュシュを取り出すと、長い髪を首元で一つに結った。  ラーメンを食べる態勢、万全だな。 「スルスル……んぐっんぐっ……ゴックン! はぁはぁ……おいし☆」  相変わらずのいやらしい租借音だな。  それを初めて見た大将も思わず、生唾を飲む。  アンナを見る目がいやらしい。 「うまそうに食べるねぇ、アンナちゃん」  美味しいという基準間違えてません? 大将。 「だって美味しいんですもん。アンナ、美味しいものを食べているときが一番幸せ☆」  そう言って頬をさする。  よっぽど気に入ったようだ。よかったね、大将。 「嬉しいこと言っちゃってくれるねぇ。んなら、餃子を焼いてあげるよ」 「え、いいですよ……」 「気にすんな、アンナちゃん。うちの店初めてだろ? なら餃子も食べていってほしいんだよ。これはおいちゃんからのプレゼント」  そう言って勝手に餃子を焼きだす大将。    なんか勝手に話が盛り上がっているな。  俺はそんな中、無言でラーメンをすする。 「ん?」  あることに気がついた。  ちょい待て。  昨日、ひなたと来た時、俺は金払って餃子注文したぞ?  女のひなたは有料で、男のアンナは無料ってか。  というか、長年通っている俺ですらそんなサービス受けたことねーぞ!    俺はむしゃくしゃして、カウンターの上に置いてあった小さな容器を手に取る。  生おろしにんにくがたくさん詰められているものだ。  やはりラーメンにはこれがなきゃな!  躊躇なくにんにくをどんぶりの中にぶち込む。  それに気がついたアンナが口を開いた。 「ねぇ、タッくん。それってなあに?」 「これか? にんにくだよ」 「にんにく?」 「ああ、これを入れると入れないとでは、ラーメンの味が『ダンチ』だ」  思わずキメ顔してみる。 「へぇ……」  アンナは咥え箸しながら俺がラーメンをうまそうにすするところを見つめる。 「タッくん、アンナにも入れてみて」 「マジか?」  俺は驚きを隠せなかった。  なぜならば、今のアンナは女の設定だからだ。  昨晩、正真正銘の女性、ひなたが「にんにくは臭うから」と嫌がっていた。  口臭を気にしてのことだ。  なのに、アンナは平然とそれを俺に頼んだのだ。 「だって、美味しくなるんでしょ?」  キョトンとした顔で首をかしげる。 「そ、それはそうだが、にんにくを入れるとだな……口が臭くなるからな」  俺が言いづらそうに答えると、アンナは高笑いした。 「アハハハ!」 「な、なにがおかしいんだ?」 「だって……そんなのどんな料理だって同じでしょ?」 「え?」 「カレーだってそうだし、チャーハンとか、パスタとか、いろんな料理に使われているし、にんにくが入っていた方がおいしいよ?」 「それはそうだが……」  清々しいほどに嬉しい回答だった。  男の俺からしたらな。 「ひょっとして、昨日のひなたちゃんはにんにくを気にしてたの?」  うっ、鋭い。  ひなたの話題になると目が怖いんだよ、アンナさん。 「ま、まあ……」  さっきお風呂入ったばっかなのに、またわき汗が噴き出てきたよ。 「ねぇ、タッくん」 「ん?」 「アンナと……ひなたちゃんを一緒にしないで」  箸を止めて、俺に身体の向きを変える。  すると俺の手を優しく両手で握った。 「あのね、アンナはタッくんが好きなものは全部好き☆ それにタッくんと同じ目線で、なるべく同じ気持ちでいたいの……だから他の女の子とは違うよ」  瞳は少し潤っていた。  涙を堪えているようにも見える。  よっぽど、昨晩のひなたの件が悲しかったのだろうか?  罪悪感で胸が押し潰れそうだった。 「そうか……じゃあ、にんにくはいっぱい入れてもいいのか?」 「もちろん☆ アンナ、美味しいものは絶対にためらわないよ!」  その自信に満ち溢れた顔、素敵です。  というか、たまにイケメン面になるんだよな。  俺は要望通り、アンナのラーメンにたっぷりにんにくを入れてあげた。  それをアンナは「まじぇまじぇ」する。  へぇ、やるじゃん。 「うう……いい彼女を連れてきたじゃねーか、琢人くん」  気がつくと大将は厨房の中で泣きながら、餃子を焼いていた。 「た、大将?」 「あの年がら年中、映画バカの琢人くんが……こんな美人で優しい女の子と付き合うなんて…おいちゃんも泣いちゃうよ」  サラッと酷いこというなよ!  俺が可哀そうなやつに聞こえるじゃねーか。 「大将さんたら、彼女……だなんて☆ アンナとタッくんはまだそんな仲じゃないのに……」  いいながらめっさ嬉しそうやん。  両手で顔をおさえて、左右にブンブン頭を振るアンナさん。  ご乱心! アンナ様がご乱心じゃあ! 「っしゃあ! 替え玉もサービスばい!」 「そんな、悪いですよ」  ていうか、昨日は?  昨晩のもサービスにしとけよ、大将。  アンナってズルくね? 「いや、あの根暗オタクの琢人くんがこんないい子を連れてきたんだ。今日はお祝いだよ!」  てめぇ、俺をどんな人間として認識してたんだよ! ぶち殺すぞ! 「良かったね、タッくん☆」  なにが?  ねぇ、俺の存在ってここまで悲しい存在だったの?  まあアンナが嬉しそうにラーメンを食べているから、お釣りが返ってくるレベルなんだが。  俺たちはその後、腹いっぱいラーメンと餃子を楽しんだ。  なぜだろう、ひなたと食べた時より、すごく楽しく美味しく感じた。  ひなたといた時は気ばかり使っていた気がする。  でも男のアンナといるときは息がぴったりというか、話があうんだよな。  多少、俺に合わせてくれるんだろうが。  でも、アンナの致命傷なところは怒ると鬼になる……ところだな。
応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません