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「で? そのラブコメのプロットは?」  宗像先生が目で殺しにかかる。  これは出さないとレポートを増やされる……。 「わ、わかりましたよ……てか、宗像先生は関係なくないですか?」 「あぁん!?」  だからその恐ろしい眼光を放つのをやめてくれよ。 「だ、出します……」  観念した俺はリュックサックからノートPCを取り出した。  もち、校則違反だけど。  起動すると、すぐに書きかけのテキストファイルを開く。  すると白金、宗像先生、ミハイルが顔を寄せてモニターをのぞき込む。  タイトル:未定    主人公:オタクの高校生。  ヒロイン:同級生でハーフ美人の女の子。普段はショーパンにタンクトップとボーイッシュだが、  デートするときは主人公好みな女の子らしいガーリーなファッションを好む。  備考:主人公だけが大好き。 「……」  ミハイルが顔を真っ赤にして、口を真一文字にする。  そりゃそうだろな、これってミハイル=アンナのことだからな。 「ほう……新宮。お前、女を自分色に染めるタイプか?」  宗像先生がニタニタと笑う。  これはいじめだ! 「い、いえ。あくまでもフィクションですよ……やだな、先生」  苦笑いが言い訳を助長させる。 「DOセンセイ! なんですか、このヒロイン!」  白金はテーブルを叩いて、眉間にしわを寄せていた。 「なんだ? やはり、ボツか?」 「……いえ、このヒロインは合格です! センセイの作品の中で一番、キャラ立ちしていて、なによりライトノベルの読者がほぼ童貞というリサーチ結果をふんでの構想。実にすばらしいです!」  おまえ、読者様になんてことを言ってんだ!  非童貞もいるだろ! 知らんけど。 「そ、そうか……じゃあ主人公はどうする?」 「うーん、こんな可愛いヒロインさんが、べた惚れになる男なんてこの世にいます?」  ここにおるんだが。 「日葵。お前、本当に出版社の人間か?」  横から入る外部の人間。 「なぁに? 蘭ちゃんは素人じゃん。黙っててよ。それともなんかいい案があるの?」  白金がムキになっていると、それをあざ笑う宗像先生。 「だってあれだろ。フィクションだろうと、新宮は取材しないとダメな作家なんだろ?」 「……?」  なんか嫌な予感。 「こうしろ、主人公は新宮本人をモデルにすればいい」 「はぁ? DOセンセイを?」 「ヒロインもモデルがいるんだろ? なら主人公は新宮でいいじゃないか?」  クッ、俺が一番危惧していた展開だ。 「なるほど……DOセンセイ! それでいきましょう! 主人公はDOセンセイ本人で!」 「嫌だと言ったら?」  俺が震えた声で尋ねる。 「断ったら、これまでの数々の経費を却下しますよ!」  経費、それはなんてすばらしい言葉なのだろう。  仕事に関わるものであれば、なんだって所属している出版社が支払ってくれるのだ。  ちなみに俺の今月の経費はほぼ映画の料金だ。  たぶん3万ぐらい……。 「や、やるよ……」 「これで決まりですね! 引き続き、その取材対象の方に恋愛を教わってください♪ これは業務連絡ですからね♪」  ニコリと笑う白金。しかし、目が笑ってねぇ。 「了解した」  ミハイルに目をやると顔を真っ赤にして、床ちゃんとお友達している。  ふむ……これは面倒なことになったな。  ~帰り道~ 「なあ本当に良かったのか、ミハイル?」  うなだれる彼に声をかけた。 「え、え……オレ?」  額から汗が尋常じゃないぐらい流れているぞ。 「ああ、お前の……いとこに迷惑かけてないか?」  なんか言葉遊びになってない? 「アンナのことか? なら、大丈夫! タクトのこと気に入っているらしいから☆」  なに、この遠回しな『I・LOVE・YOU』わ。 「まあアンナがいいなら構わんが」 「大丈夫だって☆ オレのいとこなんだから」  お前にいとこがいたら、ヒドイ目にあっているんだろうな。 「そうだ☆ 今朝、アンナからオレにL●NEが届いてさ……」  自分から自分にL●NEって、病んでない? 「タクトとアンナって、一緒にプリクラ撮ったらしいじゃん?」  可愛らしい夢の国のネッキーがショーパンからニョキッと現れる。 「やぁ、ボクの名前はネッキー。今日はとっても天気がいいね! 一緒にひきこもろう!」  なんていいそうだな。 「なに言っているんだ? タクト?」  ネッキーをおもちゃにしたせいか、ミハイルさんに睨まれた。  スマホを手にとると、スワイプする。  待ち受け画面がでた瞬間、俺は愕然とした。 「タクトの写真だから待ち受けにしちゃった☆」  しちゃった☆ じゃねー!  引きつった笑顔の俺と女装したミハイル……つまりはアンナとのツーショット写真。  情報がダダ漏れじゃないか。 「そうか……なあ、その写真、どうやって送られてきたんだ? アンナがスマホでプリクラを撮ったのか?」  いわゆるデジタルフォトに近いものであったので、興味がわいた。 「これ、知らないの。タクト?」 「え? なにがだ」 「プリクラ撮ったらIDとか書いてあるじゃん? バーコードとか」 「そんなものあったか?」 「あったよ! そのIDとかバーコード使うと、無料でサイトからダウンロードできるんだよ☆」 「なるほどな……俺も帰ってダウンロードしてみるか」  そう言うと、ミハイルは嬉しそうにニッコリ笑った。 「オレの写真、メールで転送してやるよ☆」 「す、すまんな……」  その作業はアンナちゃんにやらせてよくね?  色々と手順が面倒な多重人格さんだな。  駄弁りながら、俺とミハイルは赤井駅に向かった。  そして電車に乗ると、今回は真島まじま駅で降りるのではなく、席内むしろうち駅で二人して降りた。 「さあ、タクト☆ オレが席内を案内してやるよ☆」 「了解した」  案内されるまでもないだろ……。
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