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「さあ食え! 坊主」 「あ、いただきます……」  目の前にあるのはグツグツと音をあげる鍋。  博多名物、もつ鍋。  なんで、暖かくなってきたというか、暑くなりつつある春に?  こういうのは冬に食うのがうまいと思うんだが……。  リビングには年季の入った大きなローテーブルがある。  傷やはがれかけのシールがチラホラと……。  たぶん、ミハイルが幼いころから使っているんだと思う。  ヴィクトリアはあぐらをかき、ストロング缶片手にニカッと歯を見せて笑う。  ほぼオヤジじゃん。  ショーパンをはいているんだが、サイズが小さすぎてパンツが『はみパン』しているよ……。  タンクトップもゆるゆるで、ブラジャー丸見え。着ている意味あんの? ってなる。 「坊主、お前も酒を飲め!」 「いや……俺、まだ未成年っすよ?」 「ち、つまんねーやつだな」  そこは守ろうぜ? 「タクト、乾杯しよう☆」  俺とミハイルは仲良く、並んで座っている。  気のせいか、いつも以上にミハイルとの距離が近い。  太ももがピッタリとくっつけてくるから、それ以上のサービスを期待してしまう。 「ああ」  俺の右手にはアイスコーヒー。ミハイルはいちごミルク。  グラスとグラスが音を立てて、宴会のベルが鳴る。 「「「かんぱーい!」」」  ヴィクトリアは宙にストロング缶を挙げている。 「ところで、ミハイル。お前、どうやって酒を買えたんだ?」 「え? ふつーに買ってきたけど?」  くわえ箸は良くないぞ、ミハイル。 「どうやって? お前はまだ未成年だろ。年齢確認はどうした?」 「は? そんなもん、毎回やってねーよ?」  なん……だと!? 「バカヤロー! 私たちの『ダンリブ』だぞ! 顔パスだ、んなもん」  ヴィクトリアは一気にストロング缶を飲み干すと、新しい缶を開ける。 「いやいや、ミハイルは15歳ですよ?」 「なに言ってんだ、坊主。ヒック……生まれてからこの方、席内で育ってんだ。あたいが成人してるのを『ダンリブ』も知っているから問題ねーの」  問題大ありだ、バカヤロー! ダンリブに謝れ! 「でもですね……」 「しつけーやつだな。ヒック、いいか? あたいの店は生まれる前からオープンしている。席内じゃ、ちょっとした老舗なんだよ……ダンリブより歴史が古いっつーの!」  つまりコミュティとして、連携が取れていると言いたいのか? 「なるほど……しかし、ヴィクトリアさんが買いにいけば問題ないのでは?」 「ヴィッキーちゃんって言えったろ、坊主!」 「す、すんません! ヴィッキーちゃん!」  怖いやつにちゃん付けできるかよ……。 「うし。ヴィッキーちゃんは毎日パティシエやって疲れているから、ミーシャはお使いするのは当然にゃの☆」  そして、また新しいストロング缶を開けるヴィクトリア。  ちなみに500ミリ、リットルのサイズ。  それをジュースのように飲むおねーちゃん。 「オレのねーちゃん、優しいだろ☆」  わざわざもつ鍋をよそうミハイル。  あーた、気を使える子だったのね。 「ありがと、ミハイル」  小皿を受け取ると、彼は嬉しそうに笑う。 「なあ……坊主」  俺とミハイルのやり取りを不機嫌そうに睨むヴィクトリア。 「は、はい! なんでしょう?」 「お前、ミーシャとどういう関係だ?」  なにそれ? 結婚前の親父発言じゃん。 「えっと……俺とミハイルは……」 「ダチだよな☆」  なぜか俺の腕にくっつくミハイル。  ちょっと、やめてくれる?  今の流れだと変な関係に見られるじゃん。 「ダチ……ねぇ……」  ストロング缶を一気飲みすると、今度はウイスキーをグラスに注いだ。 「ねーちゃん、タクトっていいやつだろ☆」 「ふーむ……あたいはまだ坊主とはダチじゃねーからな」  いや、オタクとダチになる必要性あります? 「よし、こうしよう! 坊主と野球拳して、あたいに勝ったらダチとして認めてやる!」  いやいや、根本的に間違っているし、セクハラだし。 「絶対に負けるなよ! タクト!」  なんか拳つくって「センパイ、ファイト!」みたいな熱意がすごい。 「まかせろ、ミハイル」 「言ったな、坊主。てめぇの『ぞうさん』を丸見えにしてやんよ!」  卑猥なお姉さんだな、もう!  ~10分後~ 「ねーちゃん、もう許して!」  泣き叫ぶミハイル。 「うるさい! ミーシャは黙ってろ!」  既にウイスキーはグラスではなく、瓶を直で飲んでいるヴィクトリア。 「もうやめにしましょうよ……ヴィッキーちゃん」 「ああ!?」  凄んでも無駄だよ。今のあんたの姿。 「ねーちゃん、もうパンツだけじゃん!」  そうそう今のあんた、セクハラってレベルじゃねーぞ!  パンティ一枚で重たそうなおっぱいがぶらんぶらん……。   「やかましい! まだ最後がある!」  見たくないし、誰も得しないよ。この勝負。 「「ジャンケン、ポン!」」 「だぁ~、なんでそんなに強いんだ、坊主!」  知らねぇよ、あんたが酔っぱらってからじゃね? 「しゃーねー、あたいの全部を見せてやんよ!」  と言って、パンティに手をかけるヴィクトリア。 「ダメだよ、ねーちゃん!」  それを必死に止めにかかる弟。  健気だ……そして、グッジョブ! 「離せ、ミーシャ! 勝負に負けたらルールは守らんと気がすまん!」 「そんなこと守らなくていいよ、ねーちゃん」  こんな家庭じゃまともに育つわけないよな……。 「あたいの名が廃るんだよ!」  なにをこだわっているんだ。 「すんません、なにが言いたいんです?」 「あたいは『それいけ! ダイコン号』の総長なんだよ!」 「……」  お前が犯人か!

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