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「ふぅ~! ふぅ~! こんのチート女ぁ!」  ひなたは相変わらず、怒りが冷めないでいるようだ。  これでも大分落ち着いてくれた方なのだが……。  息を荒くして、拳にも力が入る。  そして、俺の隣りにいるアンナをギロッと睨みつけた。 「ひ、ひなた……今日のことは俺が悪いんだ。だから許してやってくれないか?」 「センパイは黙っていてください! これは私とその子。女の子同士のケンカなんで!」 「は、はい……」(相手男の子だけど)  俺はひなたの充血した真っ赤な目に恐怖を覚え、萎縮してしまう。   数歩下がり、二人のやり取りを黙って見届けることにした。  今、この現場は殺気立っている。  片方は怒りと憎しみで紅蓮の炎を身に纏い、もう片方はにこやかに微笑んではいるが、目が笑っていない。静かだが、相手を一撃で屈服させるような圧倒的な力、巨大な闇を纏っている。  両者、一歩も譲ることはない。  だが、ここはただの平和な水族館。  ケンカすると迷惑なので、場所を移動した。  おみやげ売り場の前。  入口のすぐ近くだから、たくさんの家族連れやカップルが俺たちの周りを通り過ぎる。  対峙する二人を見て、ざわつく。  そんなことは眼中にない、ひなたとアンナは、ゆっくりと互いの距離を縮める。  顔と顔がくっつきそうなぐらい接近すると、睨みあう。 「ねぇ、チート女さ。あんなことやっておいて、タダで済むと思ってんの?」  額をゴンッと当てに行くひなた。 「なんのことかな?」  物怖じせず、ニコニコ笑うアンナ。小さなおでこをグリグリとひなたにこすりつける。  もう、あれだ。ヤンキー同士の喧嘩に近い。 「あんたがやったこと犯罪よ! ていうか、なんなの? その態度。ブリブリしやがって! ハンッ、ウンコ女がお似合いだわ」 「う、ウン……あ、アンナは、タッくんにカワイイって言ってもらえるのが一番だもん!」  今の攻撃でひなたが少し有利だな。 「あと、あんたさ……なんか胡散臭いのよ」 「え、え、臭い? どこが?」  なんかこのやり取り、この前にも見たような気が……。 「全部よ! なんていうのかな……非モテの童貞くんが考えたテンプレの痛い女って感じかな? アンナちゃんだっけ? 女に嫌われやすいよ、きっと」 「そ、そんなこと……ない、よ?」  何故疑問形? そして半泣き状態だよ。 「トレンチコートの下も男に媚びまくったガーリーファッションで超地雷系。メイクもブリブリ過ぎて嫌い。水族館なのにヒールの高いローファーとかバカ丸出し。清楚系な尻軽女って感じかな?」  むごい! そこまで言わなくても……俺の好みに合わせてくれただけなんだから。 「ひ、ひっぐ……ひなたちゃんって怖い」  いや、どっちもどっちかな。  だがアンナも負けてはいなかった。  自分のファッション、ルックスをけちょんけちょんにされて、黙ってはいられない。 「で、でも! ひなたちゃんだって、あざといもん! アンナのタッくんに胸を押し付けたり、わざとらしくミニ丈のスカートをタッくんの顔に見せつけて。そんなにパンツ見られたいの? 変態さんだね!」  女装するあなたに言われたらおしまいだ。 「はぁ!? あ、あれは……センパイが勝手に見ただけだし……」  アンナの言う事も一理ある。  いつも見せつけては引っぱたくからな。 「大体、ひなたちゃんは、サブヒロインなんだから、あんまり取材しなくてもいいでしょ?」  サブという言葉が、ひなたの心にグサリと刺さったようだ。  胸の辺りを手でおさえている。 「そ、そんなの関係ないじゃん! さ、サブヒロインだって、ラブコメでメインに昇格する作品もあるはずよ! 大体、アンナちゃんがメインって誰が決めたの? センパイ?」 「ふふん☆ その通りだよ☆ タッくんが決めてくれたの」  いやいや、それについては、半ば強引にあなたが決めたんだよ。 「ていうかさ、アンナちゃんって……誰かに似てない?」  ひなたは眉をひそめて、じーっとアンナの顔を眺める。 「え、え? 他人の空似じゃないかな?」  ガクガク震えだしたアンナさん。 「前にセンパイから写真を見せてもらった時は、ハーフであざといチート女って思ったけど……いざ実物を見たら、偽物っぽい女の子って感じなんだよね。あ、ミハイルくんに似てない?」  ひなたの反撃、こうかはばつくんだ!  アンナは床に膝をつき、胸を手でおさえる。 「だ、だって。ミーシャちゃんとは、いとこだから……ね」 「ふーん。でも、いとこにしては似すぎじゃない? 双子じゃないでしょ? なんだかなぁ、女の子にしては、男の子に媚び売り過ぎてて、違和感を感じちゃう」  だって、中身は健康な男子なんだよ。  もう許してあげて! 「そ、そんなことないよ? アンナはタッくんの取材対象で、メインヒロインなんだもん……」 「ふーん。でもヒロイン候補の一人だよね? じゃあ、私もメイン候補の一人じゃん。とりあえず、センパイは返してもらうから! アンナちゃんは一人で帰ってよ!」 「イヤッ! アンナだってマリンワールドは、まだタッくんと一度も来たことないのに……ひなたちゃんがタッくんの初めてを奪うのは、絶対にイヤ!」  そうだった。  アンナという生き物は、俺との『初めて』にこだわる女の子だった。(♂)

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