宗像先生とドライブすること、30分ぐらい。目的地に到着。 「よし、着いたぞ。さ、新宮。これが大人の女性のワンルームマンションだ♪」 「え……ここって」 見慣れた光景、六角形の大きな武道館、Y字型の建物、駐車場。 間違いない。 俺が通っている高校、一ツ橋高校だ。 いや、正確には、全日制高校の三ツ橋高校の校舎である。 近くでは、 「はーい!」 なんて、甲高い女子の掛け声が聞こえてきた。 夏休みだが、部活動はやっているようで。 運動場や色んな教室から、様々な声や音が漏れている。 「先生……ここ、うちの高校じゃないですか?」 車を降りて、学び舎である建物を指差す。 「ああん? なに言ってんだ。私の我が家は一ツ橋高校の事務所だ!」 白い歯をニカッと見せて、親指を立てる。 「ちょ、ちょっと、何をする気なんですか? 勝手に校舎使ったら怒られますよ」 「バカだな、新宮は。確かに三ツ橋高校の建物を無断で使用したりすれば、怒られるよな。でも、あの事務所だけは違う。我が一ツ橋高校が所有している唯一の場所だ。つまりその管理者、責任者であるこの私、宗像 蘭ちゃんなら、泊まろうがナニしようが、無問題なのだ!」 「……」 その後、宗像先生の話を詳しく聞いてみたら。 以前は近くの安いアパートに一人暮らししていたが、家賃を滞納しすぎて、追い出されたらしく、現在は事務所を自宅として、利用しているらしい。 裏口から入り、俺は下駄箱に自分の靴をなおして、上靴に履き替える。 先生は一足先に二階の事務所へと上がっていた。 俺が下駄箱から階段を登ろうとすると、制服を着た男女数人と遭遇。 「おつかれさまでーす!」 なんて労いの言葉を頂いた。 「ちっす」 と軽く会釈して、事務所へと逃げ込む。 だってもうスクリーングはないし、通信制の一ツ橋高校は終業しているからだ。 本来なら、この校舎に来るのは、校則違反だと思う。 久しぶりの事務所だが、相変わらずの殺風景で、全てがボロい。 デスクやソファー、食器棚。 貧乏なのが丸分かりだ。 宗像先生は奥にあった小さな冷蔵庫から、ハイボール缶を二つ持って来て、応接室であるソファーにダイブする。 二人がけの方だ。 寝転がってグビグビ飲みだす。 「プヘ~ッ! うめぇなぁ。生徒から搾り取った金で飲む酒はよぉ~」 最低な人間だ、こいつ。 俺は宗像先生とは、反対方向の1人がけのソファーに腰を下ろす。 「先生……ところで、こんな環境なのに、よくあんな高級車を乗り回してますね。だって家賃払えないから、事務所で暮らしているんでしょ?」 そう尋ねると下品な笑い方でこう答える。 「はーっははは! 私がベンツなんて買えるわけないだろ! あれは借りもんだよ」 「ん? 借りもの?」 嫌な予感がしてきた。 「そうだよ? 三ツ橋高校の校長さ。金持ちなんだよ。あのオヤジ……ムカつくよな?」 「いや、それとこれと、どういう関係が?」 「あのおっさんがさ、自宅に何台も高級車持っててさ。多すぎてたまに高校の駐車場に置いておくわけ。その時にちょっとな♪」 ちょっとってなんだよ。 「つまり?」 「スペアキー作って置いたんだよ。このこと、内緒だぞ~ 新宮!」 誰にも言えるか! 宗像先生が三本のハイボールを飲み終えた頃。 「さ、そろそろ……大人の魅力ってやつを取材に行くか! 新宮!」 「どこに行く気ですか?」 「そうだな。まずは、大人のデートを知りたいだろ? なら、パッチンコだ!」 「……」 こいつ、そういうことかよ。なんとなく察してきた。 「もちろん、デートなんだから、経費で落としてくれよな♪」 なんてウインクして、誤魔化そうとしていやがる。 宗像先生は、アンナやひなたのようにデートを楽しむわけではなく、経費でタダになるからと、俺を利用したに過ぎない。 クソがっ!
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