イルカショーは中断を余儀なくされ、ひなたは医務室に連れて行かれた。 その後、医務室から出てきた彼女にケガはなく、無事だっということで、俺もホッとしたのだが。 「あぁ~ もうっ! 最っ低! せっかくのおしゃれが台無し!」 顔を真っ赤にして、怒りを露わにする。 着ていた服はびしょ濡れになったので、職員からもらったブカブカサイズのメンズTシャツを着ていた。 それから、ズボンはスタッフが着用している制服。 靴は清掃などに使う長靴だ。 「ひなた。大事ないか?」 「大有りですよ! せっかくのデート気分が最悪っ! 私を押した奴、誰なんですか!?」 「わからん……顔は見えなかったが、女だったな」 「どうせアレですよ! 私とセンパイが仲良くしているところを見て、どブスで非モテな女が嫉妬から、やりやがったんですよ! 絶対ブスの性格悪い女ですよ!」 酷い偏見だ。 まあ、ここまでやられたら、仕方ないか。 俺はとりあえず、ひなたの機嫌を直すために、昼食を提案した。 レストランは地下一階にある。 あまりにもひなたの格好が浮いていて可哀想だったので、俺は昼食を奢ることにした。 「なんでも食っていいぞ。どうせ出版社から経費落ちるみたいだしな」 「ホントですか!? じゃあ、私ドルフィンプレートとドルフィンパフェ食べたいです!」 テンションが少し上がったので、一安心。 だが、ひなたが頼んだメニューは、幼児向けなのだが、いいのだろうか? 俺は無難にハンバーガープレートを注文した。 地下のレストランは先ほどのイルカショーのプールと直結しており、食事を取りながら、大きな水槽の中で、泳ぐイルカやクジラを楽しめる。 頼んだ食事が出来上がるまで、テーブルで向かい合わせに座り、水槽を眺めて待つ。 「近いでしょ? カワイイ~♪」 「本当だな。小学生の時に遠足か何かで来たことがあるが。こんなレストランとは知らなかった」 俺がそう言うと、ひなたは何故か笑い出す。 「アハハ! センパイったら世捨て人みたい! おっさんぽいですよね、たまに。言う事が」 「は? 俺は夏休みとか、ずっと一人で映画館を毎日楽しんでいたぞ? リアルを楽しんでいる。だから、ちょいリア充だろ?」 だって、世界中の映画を夏休みに全部観まくるんだぜ。 世界一周旅行しているようなもんだろ。 その発言に、ひなたが苦い顔をしてみせる。 「えぇ……センパイって、ずっとそんな夏休みの過ごし方していたんですか?」 「まあな。小学生の4年ぐらいから。かれこれ8年間楽しんでいるぞ。もちろん冬休みもな」 ドヤ顔で自慢すると、ひなたはうっすらと目に涙を浮かべ、俺の手を優しく掴む。 「センパイ、かわいそう……もう、一人ぼっちにしませんから。私がついているんで。いつでも連絡してくださいね。孤独死しますよ」 「いや、楽しんでいるって……」 「それはセンパイの心を正常に保つための、精神療法ですよ?」 ファッ!? 「もう、映画に逃げちゃダメです。私とたくさん取材して、早く人間性を取り戻しましょう」 えぇ……俺ってそんなに重度の患者だったの?
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