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 俺はアンナの異常なまでのボリキュアへの愛情表現にドン引きしていた。  驚いていたせいで、自分が買おうとしていた写真立てをレジに出し忘れていた。  危うく万引きしそうになって、店員に声をかけられて気がつく。    アンナに続いて、俺もボリキュアストアのスタンプカードを作ってもらったが、押されたスタンプはたった一個。  作る必要なくね? と思いながら、俺は店員から小さなボリキュアがプリントされたレジ袋を受け取る。 「よかったね、タッくん☆ お揃いの袋だね☆」  嬉しそうにめっさ重たそうなビニール袋を6つも両手に持つアンナ。  軽々と持っていて草。 「お揃い?」 「うん☆ 同じボリキュアの袋だもん。今日は何でもお揃いでペアルックで恋人ぽいよね☆」 「あ、そだね」  いや、そんなペアルックの恋人見たことない。  ボリキュアストアで無事に買い物を終え、福岡マルコのビルから出た。  再び、外の渡辺通りに戻り、目的もなくただ歩き出す。 「少し腹が減ったな。アンナ、そろそろメシにするか?」 「そうだね☆」 「ふむ、どこで食うかな……」  俺は天神の様々なビルをながめる。  巨大な建物がたくさん並んでいて、どこにどんな店があるかがわからない。  スマホでアンナの好きそうな店でも検索しようかな? と思っている時だった。  誰かが俺の肩をポンポンと叩く。  振り返るとそこには、このおしゃれな若者の街、天神に似合わない格好をした女が立っていた。 「ねぇねぇ、そこのカップルさん。お昼ご飯探している感じかしら?」  そこにはスラッとした細身の紅い眼鏡をかけたお姉さんがいた。  サテン生地のブラウスにキュッとしたタイトスカート、それもかなり丈が短い。    俺は一瞬にしてその女性を危険視した。  こいつ、絶対ピンク系の勧誘だろ。  天神の店じゃない、絶対に中洲なかすだ。 「なんすか?」  ちょっと威嚇気味に答える。  だって俺ってば、中洲みたいな成人向けの街にいったことないし。  正直怖いよぉ。  俺がそんな対応したもんだから、その女性はちょっとうろたえていた。 「あ、いや、そのキミたち天神にあんまり詳しくなさそうだったから……」  やはり中洲か!? 「それがなにか?」  既に臨戦態勢をとった俺氏。 「ちょ、ちょっと。そんな怪しいお店の人間じゃないのよ?」  苦笑いがさらに怪しさを加速させる。  そこへアンナが俺に話しかける。 「タッくん、お姉さんが困ってるよ? お話だけでも聞いてあげて。かわいそうでしょ」  可愛い顔して俺の左腕を引っ張るもんだからドキドキしてしまった。  なんか今の俺ってば超彼氏感でてない? 「さすがカノジョさん! 話がわかるぅ~」  便乗する眼鏡女子。 「カノジョだなんて……そんな風に見えます?」  ボンッと音を立てて顔を真っ赤にするアンナ。 「見える見える! だってペアルックじゃん、お二人さん♪」  そう言ってお互いのTシャツを交互に指差してみる。 「恥ずかしいけど、うれしいかも~☆」  俺はクッソ恥ずかしいかも~ 「ところで、そんなお似合いのお二人にウチのお店で、素敵なお昼なんてどうかしら?」  眼鏡をクイッとなおして、ビラを差し出す。  アンナは絶賛妄想中で、頭を左右にブンブン振り回している。ので代わりに俺がビラを受け取った。 「ん? メイドカフェ?」 「そう! 今月オープンしたばかりのメイドカフェ『膝上15センチ』よ♪」  なにその店名……やっぱり中洲だろ。 「えぇ……それってカップルで行くところっすかね?」  俺が怪訝そうにじろじろと見つめると、呼び込みの女性は首を横に振る。 「そんなわけないでしょ? ここは天神で若者の街なんだから♪」 「は、はぁ……」  返答に困っていると、冷静さを取り戻したアンナがビラに食い入る。 「なにこれ? カワイイ☆」  ビラに描かれたメイドさんに惹かれたようだ。  アンナは基本かわいいものが大好きだからな。 「気になるのか?」 「うん! 行ってみたい☆」  目をキラキラと輝かせて俺を見つめる。  そんな顔されたら、彼氏役の俺は黙っているわけもいくまい。  ま、俺もメイドカフェなんて行ったことないし、取材になるかな。  ここは一つ経験してみることにしよう。 「すんません、この店まで連れて行ってもらっていいすか?」  俺がそう言うと呼び込みの女性は拳を作って喜びをかみしめた。 「しゃっあ! 新規ゲッツ!」  詐欺ぽいなコイツ。 「じゃあ、ペアルックのカップルさんご案内~♪」  人気の多い渡辺通りで大声で叫ぶ眼鏡女。  クソが、目立つからやめろ。    ※  眼鏡女が先頭に立ち、渡辺通りを歩く。  先ほどいた福岡マルコより、港よりの北天神へと向かう。  この辺なら俺でも少しわかるな。  前にほのかと中古ショップ『オタだらけ』に買い物にいったし。 「さ、ここよ!」  眼鏡女が立ち止まった場所はオタだらけのすぐ隣りにあった。 「案内されるまでもなかったな……」  だってオタだらけとか、俺のホームじゃん。 「え、知ってたの? 彼氏さん」  目をキョトンとさせる呼び込み。 「いや、店は知らないっすけど、場所的には……」 「ならさっそくお店に入って『食いログ』とかに高評価をお願いね♪」  そう言うと呼び込みのお姉さんはスタコラサッサーと去っていった。  ていうか、高評価するかは俺が決めることなんだわ。  誰がお前の指示に従ってやるもんか。 「すごーい、これがメイドカフェなんだね☆」  何やらテンションが高いアンナさん。 「みたいだな」 「タッくんはメイドさんと会うの、初めてかな?」  どこが不安そうに俺を下から見つめる。 「ん? 初めてだが」  俺がそう答えるとアンナはホッとしたようで、嬉しそうに微笑んだ。 「よかったぁ」 「なにがだ?」 「タッくんの初めてはアンナと一緒がいいもん☆」 「あ、そうなの……」  その思い出って別に誰でも良くないっすか?  だって仮にもデートですよ。  ボリキュアストアといい、なんか天神ぽくないし、カップルぽいことなにもしてないよ。  これ取材になってんのかなぁ……。

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