俺とミハイルは二人仲良く『朝帰り』した。 自転車を壁に立てかけて、裏口から自宅に足を踏み入れれば、そびえたつ2つの影。 「なにしてたの~ お兄様? ミーシャちゃん?」 不敵な笑みを浮かべるかなで。 「ホント~ 二人で夜中にナニをしていたのかしら?」 BL本を片手になにをいっているんだ、琴音母さん。 「な、なんでもないぞ!」 「「え~ ないわ~」」 かなでと母さんは、お互いの顔で『ねぇ』とうなづきあう。 「おばちゃん、かなでちゃん! オレがタクトを待っていただけだよ……仕事から」 「仕事ねぇ~」 「お外で待つ必要ありますか? ミーシャちゃん♪」 「そ、それは……」 もう勘弁してやってくれよ、変態母娘どもが。 「ミーシャちゃん。せっかくだから、朝ご飯食べていきなさい」 母さんは痛いBLエプロンをかけると、二階にあがった。 追うように妹のかなでも階段へと足を運ばせる。 しかし、なぜか俺たちへ笑顔で親指を立てている。 意味不明ないいねボタン。 「さあ朝飯でも食うか、ミハイル」 「う、うん」 なんか事後のような、ぎこちなさだな……。 ただコーヒーを飲んだだけなんだが? 「ところでミハイル」 靴を脱ぎ、階段前の『玄関』で訊ねる。 「なんだ? タクト」 ミハイルも二階へとあがる。 「その……かなでと『パジャマパーティー』なるものはしたのか?」 「うん、ちょー楽しかったぞ☆」 普通の妹のパジャマパーティなら、安心なのだが……。 「一体なにをしていたんだ?」 リビングのテーブルに腰をかける。 「んとっ……なんか女の格好した男の子がいて……」 ミハイルは口に人差し指をあて、視線は天井。 なにかを思い出しているようだ。 「ちょっと待て……それって『かなでのゲーム』か?」 「そうだよ? なんか女みたいな男の子がヒロインのラブストーリーだった」 「……」 なんてことをしてくれたんだ、妹よ! 「すまない……ミハイル。妹に代わって兄の俺が謝る」 深々と頭を垂れる。テーブルにゴツンとあたるほどだ。 「な、なんで謝るんだよ? けっこうその……エッチなシーンがたくさんだったけど、かなでちゃんの趣味だもんな。オレはいいと思うぞ☆」 か、神だ……JCがエロゲをやっている時点で、人生積んでいるのに……。 なんて心広い御方なんじゃ……。 「クッ……ミハイル。礼を言うぞ」 「ど、どういうこと?」 「あれも一応女なのでな……」 なんかちょっと泣けてきた。 「ミーシャちゃん!!!」 張本人がキタコレ。 「かなで。お前『パジャマパーティ』したそうだな?」 「ええ、しましたけど」 「初めて家にあがる友人に、貴様はなんてことをしてくれたんだ?」 「なんのことです? かなではただ自分の趣味をミーシャちゃんと分かち合いたいだけですわ」 分かち合っちゃダメなの! 「さあ、朝ご飯の登場よ!」 今日の朝ご飯は母さんお手製のホットサンドだ。 「召し上がれ♪」 「「「いただきまーす」」」 俺、ミハイル、かなでの三人はそろって手をあわせる。 ホットサンドはレタス、厚切りベーコン、きゅうり、薄焼き卵と具だくさんだ。 パンをギュッと潰すように、握って頬張る。 かじった反対側からケチャップとマヨネーズが、皿の上にポタポタと零れ落ちた。 ミハイルに目をやると、小さな口でリスがどんぐりをかじるように食べている。 顎も細いため、食べづらそうだ。 「はむっ……うぐっ、うぐっ、んん…」 なんで、この人の租借音はこんなにもいやらしく聞こえるんですかね? 食事を終えると、母さんが「ミーシャちゃんを駅まで送りなさい」と命令。 ま、命令されなくても、俺も送るつもりだったが。 真島商店街を抜け、すぐに真島駅が見えてくる。 とぼとぼと二人して歩く。 心なしか、ミハイルは元気がなさそうだ。 「なあタクト」 「ん? どうした?」 「タクトのL●NE……教えて」 「すまん、俺はL●NEはやらないんだ」 「そ、そっか……」 肩を落とすミハイル。 既に俺たちは駅の改札口の前だ。 「じゃ、じゃあ電話番号かメルアドは?」 「それなら構わんぞ?」 「じゃあ、交換しよ!」 すぐさまスマホを差し出すミハイル。 「そんなに焦らんでも、俺のアドレス帳が増えることはないぞ? 家族と職場以外は誰も登録してないしな」 事実である。 「オレがはじめてなんだな!?」 妙に食い気味だな。 「まあそうなるな」 「そ、そっか……」 なぜ笑う? お前のアドレス帳も家族だけか? 俺は人生で初めて友達とかいう生き物、存在と連絡先を交換した。 「じゃあ、帰ったらすぐ電話すっからな!」 「え……」 「あとでな☆」 ミハイルは満面の笑みで、駅のホームへと去っていく。 途中、何度も振り返っては、俺に手を振っている。 しかし、俺も彼が電車に乗るまで見守っていた。 胸に穴があいたような感覚だ。 これは……さびしいのか……。
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