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 夜臼先輩から、合法的に買い物を済ませた俺とアンナは、仲良くかぼちゃの馬車の前で、アイスを食べることにした。  一つのアイスを交代でパクッと食べては、相手に「ハイッ」と口に向ける。  あれ……普通に、間接キスどころか。唾液交換してない?  な、なんだか、興奮してきた。  アンナと言えば、そんな俺のやましい気持ちなど知らず……。  イルミネーションを子供のように、喜んで見ている。 「キレイだねぇ、タッくん……。なんか『夢の国』の世界みたい~☆ こんな景色を見ながら、タッくんと一緒にアイス食べれて、幸せぇ☆」  そう言いながら、視線は落とさず。 「ペロッ、んふっ。ペロペロッ……ごっくん!」  というエロい咀嚼音。  ヤバいヤバい、俺の理性さんがどこかに旅立ちそうだぁ!  アイスは夜臼先輩の計らいで、左側がチョコ、右側がバニラだ。  だが、アンナの視線は、イルミネーションに釘付けのため、『境界線』からはみ出て、食べてしまう。  真っ白なバニラのクリームに、赤い口紅の色が混ざる。  こ、これは!  自然現象によって起きたラズベリーアイスだ。  思わず、生唾を飲み込む。 「ハイッ。タッくんの番だよ?」  コーンを口元に近づけるアンナ。 「ああ。い、いただきますぅ!」  なぜか敬語でかぶりつく。  舌の中でとろけるバニラクリームと、ほのかに残るルージュの香り……。  なんてこった。  超おいし~♪ 「どうしたの、タッくん? やけに嬉しそうだね?」  見透かされたように感じたので、咳払いでごまかす。 「お、おっほん! いやぁ、幻想的な夜景と共に、食べるアイスは格別だと思ってな。小説の取材に使えそうだ」  そして、俺のおかずにも! 「なら良かったぁ☆ アンナも一緒に来た甲斐があったよぉ」  無邪気に笑う彼女に、妙な罪悪感を感じる。    ※  アイスを食べ終えて、しばらくイルミネーションを眺めたあと、俺たちはホテルの中に入った。  ホテルにも土産屋が数件あって、アンナが見ていきたい、と言ったからだ。  彼女は店の中で、主にお菓子やぬいぐるみなどを物色していた。  俺と言えば、こういうのにあまり興味がないから、ちょっと離れた場所から、アンナを見つめている。  ふと、振り返ると、ロビーが目に入る。  夜の10時を過ぎたせいか、辺りは静まり返っていた。  フロントも夜勤のスタッフが一人いるぐらい。  客はみんな自室に戻ったのかも。  そう考えていると、二人の人影が目に入る。  フロントの反対側にチェックインなどの際に、客が待機するスペースがある。  ソファーがいくつもあって、そこで受付や会計を待つ時に使うものだ。  今は夜遅いから、もう客などいないのだが。  浴衣姿の男女が二人。  スキンヘッドの大男とショートボブの小柄な女。  少し離れた距離で、肩を並べて座っている。 「ん、あれ。リキとほのかじゃないか……」  そう呟くと、いきなり背後から誰かが囁く。 「ホントだ……リキじゃん」    振り返れば、怪しく微笑むアンナが。 「アンナ? お前、なんでリキの名前を知っている?」  さりげなく、突っ込んでおく。  俺の問いにうろたえだすアンナ。 「え、え、え? リキくんのことは、ミーシャちゃんから聞いてるから、ね。面識はないけど、昔から友達だって……」 「なるほど」  そういうことにしておいてやるか。  ということで、今から俺たちは、『ステルスミッション』を開始するのであった。
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