作品に栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。
 俺はかくして18歳を無事に迎えることができた。  ていうか、ミハイルとアンナに祝ってもらえてウルトラハッピー! な年だったぜ。  ちょっと今までの人生があまりにも孤独だったせいか、彼と彼女からもらったプレゼントを毎日眺めては、涙を流していた……。  アンナの作ってくれたパジャマを着て、胸ポケットにミハイルがくれた万年筆を入れ、執筆活動に勤しむ。  書ける書ける! スラスラと映像が文字に変換されていく。  ラブパワーだな。      ある日、博多社の担当編集、白金 日葵から電話がかかってきた。  電話に出ると、いつもふざけているロリババアがかなり慌てている。 『あ、DOセンセイ! 大変です!』 「どうした? お前の合法ロリ風俗店就職が決まったのか?」 『んなわけいでしょ!』  されたらいいのに。今よりだいぶ稼げるんじゃない。 「なんだよ。ちょうど筆がイイ感じで進んでいたのに……」 『ホントですか!? ならちょうどいいです!』 「なにがだよ?」 『今月号の‟ゲゲゲマガジン”で発表したセンセイの拙作‟気にヤン”が大反響で、発刊以来の重版決定となりました!』  拙作て自分で言うもんじゃないの……。 「重版?」  耳を疑う。  白金がとうとう頭がイカれちまったんだろって思った。 『なので、長編書いてください! 単行本発売決定で、すぐに8万文字必要です! 期限は2週間! では、おなーしゃす! ブチッ……』 「ちょ、ちょっと……」  一方的に切られてしまった。  それにしても、俺の作品が久しぶりに単行本化するのか。  書いたのがラブコメってのが、ちょっと癪だけど、まあ悪くない。  よし、書こう。  今の俺なら来週までに8万文字なんて、訳ないぜ。  なぜなら、アンナのパジャマとミハイルの万年筆があるからなっ!  タイピングしていく指の速さがグンと上がる。  その時だった。  自室の扉がバタンと、大きな音を立てて開く。  妹のかなでだ。 「ただいまですわっ!」 「おう、おかえり……」  俺は振り返りもせず、机の上でパソコンとにらめっこ。  自身に追い込みをかけているからだ。 「おにーさまったら、顔も見てくれないなんて……てか、そのパジャマ……ダセッですわ」 「……」  この時、俺は思った。かなで、いつかぶっ殺す。  ~2週間後~  連日連夜、原稿に終われていた。  ちょくちょく白金とオンラインで打ち合わせ重ね、構成を見直したり、キャラをもっと深堀したりとまあ、作家らしい仕事をこなす。  その間、新聞配達も朝と夕方にやるから、仮眠を取る暇があまりない。  徹夜の日々であっという間に、原稿の期日になる。  もちろん、この天才作家のことだ。ちゃんと間に合わせたさ。  ネットで原稿を白金に送り、あとは全部出版社に丸投げ。    ふとカレンダーに目をやる。 「あ、今日はスクリーングだったか……」  原稿のことばかりで、すっかり忘れていた。  一ツ橋高校の二回目の期末試験。  寝不足だが、あんな幼稚なテスト余裕だな。  あくびをかきながら、リュックサックを持って家を出た。  小倉行きの電車に乗り、車内のロングシートに腰を下ろすと、すぐに夢の中に入る。  しばらくすると、どこかの駅に止まった。  振動で目を開く。すると、ミハイルが隣りに座っていた。 「ミハイル……」  ゆっくり身体を起そうとするが、白い手が俺の瞼を覆う。 「タクト、疲れてんでしょ? オレが起すから寝てて☆」  耳元でそう囁く。  その声はとても優しく、俺の疲れも吹っ飛んじまうぐらい愛らしい。 「た、頼む…」 「いいよ☆」    ※  スマホの振動で目が覚める。  気がつくと、俺は身体を横にしていた。  枕にしてはやけに柔らかい。  なんだろうと思い、顔を下にずらす。  すると、ぷにぷにと何かが唇に当たる。 「キャッ!」  ミハイルの声?  ということは、これは……。  太ももだ!  クンクン、思わず香りを堪能してしまう。  だって、こいつが悪いんだ。  毎回ショーパンなんて履いてやがるから、細くて白い太ももが露わになっちまうだろ。誰でも匂ったり、その感触を確かめたりしたいのが、人間!  自身の唇で太ももの柔らかさを確認しつつ、鼻で石鹸の甘い香りを楽しむ。  徹夜した甲斐があったてもんだ。  癒されるぅ~ 「ちょっ……タクト! なにふざけてんの! もう赤井駅だよ!」  自分で膝枕させておいて、頭を叩いてきた。  まったく困ったツンデレのダチだな。 「すまん。ここ連日徹夜していててな……寝入ってしまったようだ」  しれっと言い訳をしておく。 「そっか……タクトも試験勉強?」  話しながら、車内から出てホームに降りる。  赤井駅を出ても、話は続く。 「俺は、試験勉強じゃなくて執筆の方だ」 「え、新作を書いてんの?」 「以前にアンナを……モデルにしたラブコメの短編があってな。それが人気らしくて、いきなり単行本化だそうだ」  クソがっ! なんで俺が書いた処女作『ヤクザの華』は売れないんだよ!  俺の思惑とは裏腹に、ミハイルは瞳をキラキラと輝かせる。 「スゴイじゃん! おめでとう、タクト☆」  ニカッと白い歯を見せて、微笑む。 「う、うむ……。今回の作品に関しては、ミハイルにその、感謝してる」 「オレに?」 「ああ。アンナという取材対象を紹介してくれてな」  一応、礼はしておく。  って、目の前にいるやつなんだけど。 「そ、そんな……まだ本も発売されてないのに。気が早いよ……」  言いながら、顔を赤くしてモジモジしだす。 「でも、オレからアンナにちゃんと伝えておくよ」  伝えるもなにも、今面と向かって俺があなたに言ったじゃない。  なにこの、面倒くさいやりとり?  一ツ橋高校に着くまで、ミハイルは終始、頬を赤くしていた。  どうやら自分のように喜んでくれているらしい。  ま、そりゃそうだよな。  小説ていうか、ただの日記みたいなもんだ。  言わば、合作だ。  俺とミハイル、アンナの……。  
応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません