運動会も無事に? 終えた俺は、眠るミハイル姫を抱えて、赤井駅に逃げ込んだ。 あとは知らん。 急いで学校から飛び出たので、三ツ橋の体操服を着たままだ。 もちろん、ミハイルもブルマをちゃっかりと着こなしている。女子以上にお似合い。 終電ギリッギリで、列車に乗り込む。 ミハイルはかなり疲れていたようで、ずっと俺の肩の上で眠っていた。 席内駅について、彼を揺さぶり、起こす。 「ほ、ほぇ? タッくん……」 瞼をこすりながら、女の子のような甘ったるい声で話す。 おいおい、アンナちゃんとごっちゃになってるぜ。 「ミハイル。お前の駅に着いたぞ。さっさと降りろ」 「うーん……やだ~ タッくんとまだ一緒にいるのぉ……」 「ったく」 仕方ないと思い、彼を自宅に連れていこうと考えた。 だが、この前の時みたいに無断外泊するのは良くない、絶対にだ。 なぜならば、母親代わりのヴィクトリアにぶっ殺されるからな。 とりま、連絡しておこう。 「しかし、電話番号をどうしたものか……」 ミハイルのスマホから電話でもかけてみるかな? いや、他人の所有物を勝手に触るのは、好きじゃない。 どうしたものか……。ん、待てよ。 そう言えば、以前かかってきた見知らぬ市外局番は、ヴィクトリアの店からだったな。 よし、そこにかけたらいいよな。 思い出した俺はすぐに電話をかける。 『トゥルルル……ブチッ。はい、パティシエ KOGAでございますぅ~♪』 なんだ、この猫なで声は? 番号間違えたかな? 「あのぉ~ 古賀さん家で間違いないっすか?」 『はい、そうですよ~ いつもお世話になっておりますぅ♪』 若い女の声だ。しかし、あのアル中ヴィクトリアとは全然態度も声も違いすぎる。 「俺、ミハイルくんと同じ高校の新宮ていうんすけど……」 『あぁ!? んだよ、坊主か! チッ』 急に態度が激変したんだけど? 弟のミハイルと同様で、多重人格なのかな……。 『用はなんだ? さっさと言え! こちとら、晩酌中なんだよ!』 てめぇはシラフの時がねーのかよ。 「あ、あのですね。今、電車なんすけど、ミハイルが起きなくて……今日、俺ん家に泊めてもいいっすか?」 『ああ……いいぞ』 すんなり了承してもらえたな。 『ただし! 条件がある!』 「は、はい。なんでしょう?」 『ミーシャをちゃんと風呂に入れて、歯を磨かせること!』 「……」 幼児じゃねーんだよ。 とりあえず、ヴィクトリアに連絡を入れたので、俺は真島駅でミハイルを下ろすことにした。 もちろん、この間もずっと眠っていて、俺はお姫様だっこでホームを歩く。 ※ 「ただいま~」 母さんの美容院はもう深夜で閉店していたので、裏口から入った。 家の中は静まり返っていた。 二階までミハイルを抱きかかえて昇る。 自室に入ると、薄暗い部屋の中、妹のかなでがノートパソコンとにらめっこしていた。 ヘッドホンをして、ニヤニヤ笑いながら「ウヒヒヒ」と気色の悪い声をあげる。 どうやら、新作の男の娘同人ゲームを楽しんでいるようだ。 モニターには、おてんてんを縛り上げられたショタっ子が、頬を赤くして悶えていた。 それを見て、かなでは満足そうに、マウスをクリックしまくる。 「ハァハァ……抜けますわぁ~」 息を荒くし、視線は画面のまま、手だけを床に下ろして何かを探している。 しばらく手をバタバタさせ、近くにあったティッシュ箱を掴むと、ちゃぶ台の上に乗っける。 「そろそろですわね……うっ!」 まさか……ウソでしょ? と思った瞬間だった。 「チーン!」と鼻をかんだのであった。 「はぁ、花粉症は応えますわねぇ~」 なんて紛らわしい妹なんだ。 俺がその光景にドン引きしていると、やっとのことで、こちらに気がつく。 「あらぁ、お帰りなさいませ。おにーさま♪」 「お、おう。ただいま……」 「ん? ミーシャちゃんをお連れになったのですか?」 未だ夢の中のミハイルを指差す。 「ああ、疲れて寝てしまってな……今夜は泊まらせることにしたよ」 「そうですの……。ところで、ミーシャちゃんはなんでブルマ姿なんですの?」 「これか、まあちょっと学校でな…」 もう説明すんのがめんどくさい。 俺がなにを言ったわけでもないのに、かなでは合点がいったようで、手のひらを叩く。 「なるほど! 校内でしっぽりがっつり、ヤッちゃったんですのね♪ 貫通おめでとうございます♪」 中学生の女子が言うセリフじゃない。 「お前は何を勘違いしてるんだよ……」 「え? ついにお二人は結ばれたとばかり……」 どこをどう結ぶんだよ。 妹とはいえ、話していて疲れる。 「悪いけど、今日は下のベッド、ミハイルを寝かせてもいいか?」 俺のベッドは二段ベッドの上だからな。移動させるのに苦労する。 「いいですわよ♪ じゃあ、おにーさまはかなでと上のベッドで、童貞を捨てましょ♪ 一晩かけて」 「はいはい。かなでは一人で寝てくれな。俺は男同士、ミハイルと一緒に寝るから……」 そう吐き捨てると、抱きかかえていたミハイルを、ようやくベッドの上に寝かせる。 気がつけば、深夜の1時近い。 俺もあと数時間すれば、朝刊配達の時間だ。 少しでも寝ておかないと、持たない。 体操服をきたまま、ミハイルと一緒に眠りについた。 ※ 何か、身体が重い。 「あいたた……」 変な寝かたをしていたのか、肩が痛い。 ふと、隣りを見ると、そこには長いブロンドの美少女が……。 ではなく、古賀 ミハイル。 すぅすぅと寝息を立てて、まだ夢の中だ。 肩の痛みの原因がわかる。ミハイルだ。 彼が俺の右肩に抱き着き、顎をのせている。 しかも、逃げられないように、細い脚で俺の太ももをロックしていた。 時折、ミハイルの膝が股間へグリグリしてくる。 目覚めたら、体操服にブルマ姿の可愛い子が、襲ってくるんだもの。 健康的な男子なら、ナニかが反応しちゃうよね♪ 「ミハイル、おい……ミハイル」 間違えが起こる前に彼を起こす。 「ん……タクト? あれ、なんでオレん家にいるの?」 「違う。ここは俺の家だ」 「あ、ホントだ。タクトのベッドだ……」 状況をまだ把握できてないようで、ボーッと俺の目を見つめる。 キッスしちゃいそうなぐらいの至近距離で。 「おはよ☆ タクト☆」 瞳を揺らせて、優しく微笑む。 頼むからやめてくれ。 抱きしめて、チューしたくなっちゃうだろ。 「ああ、おはよう。ところで、俺は今から朝刊配達に出るから……その身体から離れてくれないか?」 俺がそう言うと、やっとのことで、自身がベッタリと身体をくっつけていたことに気がつく。 「う、うん……ごめんな。オレ寝相が悪いから…」 頬を赤く染めて、恥ずかしそうに掛布団を被る。 なんか事後っぽい態度とるのやめてね。 俺は何もしてないよ? とりあえず、ベッドから出ると、体操服を脱ぎ捨て、仕事用のジャージに着替える。 その間も背後からずっと視線を感じる。 何度か振り返ると、俺の着替えるところを恥ずかしそうに、見つめている。 目元まで布団で顔を隠していた。 「じゃ、いってくるわ」 「あ、うん……いってらっしゃい☆」 うーむ、なんか同棲しているカップルみたいだな……。
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