色々とあったが、無事に期末試験は終了した。 暗記に苦戦していたミハイルもちゃんとテストを書けたようだし、まあ後は結果を待つのみだ。 試験の答案用紙は来月の終業式で返却されるらしい。 だが、宗像先生が言うには、「基本、点数じゃない」「単位取得の条件はその生徒の誠実さ」だとか……。 意味がさっぱりわからん。 結局は、先生たちの選り好みで単位が決まるのだろう。 真面目に頑張っている俺たちって、果たして高校通ってる意味あるんだろうか? 試験が終わったことで、レポートもないし、ラジオの通信授業もお休み。 終業式こそ、来週に控えているが、もうほとんど夏休みといっても過言ではない。 それぐらい毎日、暇を持て余していた。 もちろん、新聞配達は休みがほぼないので、忙しいといえばそうなのだが……。 仕事のときだけ、外に出て、人と必要最低限の話をする。 家に帰っても、母さんや妹がいるけど、特に話すこともない。だって変態だから住んでいる次元が違いすぎる。 執筆の方もだいぶ前に書き上げたから、特に今は書くこともない。 毎日、ポカーンと口をだらしなく開いては、大好きなアイドル声優のYUIKAちゃんのPVプレイリストをただ見つめる。 「ハァ……」 PVで歌っているYUIKAちゃんは、元気よく浜辺で踊っている。 海かぁ、ぼっちの俺からしたら程遠い場所だな。 そうため息を漏らしたその時だった。 スマホのブザーが鳴る。 着信名は『アンナ』 「おっ!」 思わず声に出てしまう。 『もしもし、タッくん? 今、ちょっといいかな』 相変わらずの優しい口調だ。 テンションが上がる。 「おぉ、久しぶりだな。こっちは大丈夫だ。どうしたんだ?」 『あのね、急で悪いんだけど……明日取材しない?』 妙に甘えた声だな。 「取材か。俺の方は構わん」 ていうか、待ってましたと言わんばかりに、前のめりになる。 拳もグッと握って、勝利宣言。 『良かったぁ☆』 「で、今回の取材はどこにする?」 『あのね、ミーシャちゃんからプールの割引券をもらったの。場所は海の中道で……』 ちょっと待て。それ自分でゲットしたってことだろ。 いちいち、別の人格を使って誘うなよ。 「プールか……」 余り良い思い出がない。 小さい頃、クソ親父の六弦に、まだ幼い俺を災害救助の練習と称しては、深い大人用のプールに投げ込まれた覚えがある。 それが海の中道っていう印象。 海の中道ってのは、福岡市と志賀島を繋いでいる砂州のことだ。 名前通り、海と海に囲まれた街で、主にリゾート地として栄えている。 またアンナが言っているプールってのも、恐らく国営の海の中道海浜公園の一部。 『アインアインプール』のことだ。 今は6月も終わりに近い。 プール開きということか。 気乗りしないな。 暑いし、俺はあまり泳ぐの好きじゃないし……。 俺が黙りこんでしまうと、アンナが受話器の向こう側で心配していた。 『タッくん? 嫌なの? プール……』 「あ、ちょっと苦手なんだ……」 『そうなんだ……じゃあ変えようか。アンナ、水着買ったけど……』 「えっ!?」 思わず、大声で叫んでしまった。 アンナの水着姿だと!? そんなこと言われたら、絶対に見たいに決まってるじゃないか! 一瞬にして、気分が上昇。 「待った。やっぱり行くわ」 『ホント? 苦手だったんじゃないの?』 「ごほん、あれだ。俺は作家だろ。ここ数年、プールも行ってないし、ちゃんとそういう景色とか、人たちをこの目で焼きつけないと、取材にならないと思ってな……」 理由を正当化しておいた。 『そっかぁ☆ なら良かった! じゃあ明日の10時ごろに、博多行きの電車で待ち合わせしよ☆』 「了解だ」 電話を切った瞬間、俺はその場で飛び跳ねた。 「アンナの初水着キターーーッ!!!」 前回はラブホのスク水。あくまでも、コスプレだったからな。 あれはアレで好きだったし、今でもスマホからPCに転送して、毎日楽しんでいるのだが、また良き思い出が増えるんだな……。 なんてたって、今回は本物の水着だ。 ビキニか、ハイレグか、それともティーバック!? か……夢が広がるなぁ。 よし、スマホのSDカードの空き容量をちゃんと確認しておこっと。
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