「ね~え、タッくん……タッくんてば……」 目の前には一人の少女がいる。 「たっくん、起きてよ☆」 「ああ、ミーちゃんか……おはよう」 俺がミーちゃんと呼ぶ彼女は緑の瞳を輝かせ、金色の髪はポニーテールにして大きな赤いリボンでまとめている。 しかも、かわいらしいフリルのエプロンをかけている。 これで猫耳つければ、最高かよ。 「おはよ☆ 朝ご飯できたよ?」 「もうそんな時間か」 「顔を洗っておいでよ。私、リビングで待ってるね☆」 そう言うと彼女は俺の頬に軽くキスをする。 「お、おう……」 俺は戸惑いながらも、言われるがままに歯磨きと顔洗いを済ませ、リビングに着く。 「うん! スッキリしたね☆ 今日もタッくんはタッくんだね☆」 「そういう君はミーちゃんだな」 「「ふふふ」」 見つめあって互いを確認するとイスに座る。 「今日もあっついね~」 そう言って彼女はエプロンを隣りのイスにかけると、胸元があいたキャミソール姿になった。ちなみにイチゴ柄。 パタパタと襟元で仰ぐ。その度に透き通った美しい白肌が垣間見える。 もう少しで胸が見えそうだ。 「……」 俺が呆然と彼女を見つめていると、「タッくん、早く食べないとお仕事遅れちゃうよ」と朝食を早くとるように促される。 「あ、いただきます」 「どうぞ☆」 テーブルに並べられたのはホットサンド、サラダ。コーヒー。 ホットサンドに手をつけると、俺好みの卵の味付けだということがわかる。甘いやつ。 「おいしい?」 彼女は俺のことを愛おしそうに両手で頬づいて眺めている。 「ミーちゃんは食べないのか?」 「私はあとがいい」 「なんで?」 「だって、タッくん。今からお仕事でしょ? 帰ってくるまで長いこと会えないじゃん、寂しいから目に焼き付けときたいの」 「そ、そうか……」 「ほら……ケチャップついてるよ」 ミーちゃんは俺の口元からケチャップを細い指で拭う。 それを自身の桜色の唇に運んだ。 「間接キス☆ って、もうこんなのじゃときめかない?」 「……」 「ねぇ、タッくん……私のこと、今でも愛している?」 「もちろん……だよ、君ほどかわいい子はこの世で見たことがない」 「もう!」 そう言うと彼女は頬をふくらませた。 「なんだ?」 「なんだじゃないでしょ? 私の質問に答えてない! もう一度聞くよ? 私のこと愛している?」 むくれる彼女に俺は苦笑する。 「すまない……言い忘れていたよ。俺はミーちゃんを世界で一番愛している」 「嬉しい☆」 そう言うと彼女はテーブル越しに俺の唇を奪った。 「ん……」 「だぁぁぁぁぁ!」 なんだ今のクソみたいな夢は!? 俺がなぜ、あんなやつと……。 あいつは……あいつは、まごうことなきヤンキーで正真正銘の男の子! 古賀 ミハイル。 俺は「やりますねぇ~」の動画を見すぎた影響が出たのか? と自身を疑った。 スマホを見ると午前3時を示していた。 もう少しでアラームが鳴るところだ。 「仕事、行くか……」 俺はアラームを解除すると、簡単に着替えを済ませ、家族を起こさないように静かに家を出た。
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