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 プリクラを撮り終えたアンナは、満足そうにしていた。  スマホの時計を見れば、『12:34』  腹が減った……。  よし店を探そう!  と、いつもなら『一人のグルメ』を楽しむところだが、本日はアンナちゃんもいるからな。  ソロプレイはできない。 「アンナ、腹すかないか?」 「え? タクトくんにまかせる……」  なぜ顔を赤らめる?  普通に「腹が減った……」とつぶやき、ポカーンとすればいいのに。 「肉は嫌いか?」 「ううん、アンナは好き嫌いないよ☆」  へぇ、いい子でしゅねぇ~  ボクはチーズがきらいでしゅけど……。 「ならば、ハンバーガーにしよう」 「アンナ、大好き☆」  そら、ようござんしたね。  カナルシティの一階に向かう。  中央部には噴水があり、一時間に一度ぐらいで噴水ショーがおこるらしい。  正確なことは知らんけど!  噴水広場の目の前にその店はある。  可愛らしい女の子(JSぐらい?)が看板のハンバーガーショップ。 『キャンディーズバーガー』  お財布にも優しく、味も日頃通っている大手チェーン店などに比べれば、うまい。   「ここでいいか?」  アンナに訊ねると「うん」とニコッと笑顔で頷く。  まったく、ミハイルのときも、これくらい素直であれ! 「いらっしゃいませ~」  これまた取り繕ったような笑顔の若い女性店員が、お出迎えである。 「店内でお召し上がりですか?」 「ああ、俺はBBQバーガーセットで、飲み物はアイスコーヒー」 「え、タクトくん、もう決めていたの?」  そげん、驚かんでもよか。  なぜかと問われれば、俺がいつも映画帰りに寄る店の一つだからだ。  俺はここでは、これしか頼まん。  選択肢が広がれば、広がるほど人は時間を無駄にしてしまうものだからな。 「え、え……アンナはどうしよっかな」  あたふたするアンナ。  困った姿も見ていて、可愛らしいな。 「お決まりになっていないのでしたら、ほかの方にお譲りくださいますか?」  笑顔だが、ことを円滑に進めたいと、睨みをきかせる店員。  背後を見れば、確かに他にも若者の長蛇の列が……。  ここは紳士の俺が、どうにかせねば! 「アンナ、俺と同じのにしたらどうだ? BBQならば失敗はありえない」 「そ、そうだね☆ タクトくんの同じのください!」  若干、笑顔がひきつる店員。  確かにその頼み方はひどいぞ。 「すまんが、BBQセットを二つ。飲み物はどうする?」 「アンナはカフェオレで☆」 「だそうだ」 「かしこまりました」  笑顔だが、なんか威圧的だぞ?  まさかと思うが、俺とアンナがイチャこいているカップルにみえるんか?  ~数分後~  一つのトレーに、二人分のハンバーガーとポテト、そして飲み物がのっていた。  厨房の奥からむさい男性店員が「ういっす」と体育会系な挨拶で、雑に差し出す。  なぜ男はいつも厨房なのだろうか?  男女差別じゃないですか!?  ま、そんなことはさておき、トレーは俺が持ち、対面式のテーブルに運ぶ。  二人分しかなく、いわゆるお見合いするような形でアンナと見つめあう。  アンナは時折、はにかんで、俺の顔色をうかがっている。 「さて、食うか」 「うん☆ いただきまーす☆」    俺はハンバーガーの包装紙をとると、てっぺんのバンズを持ち上げた。  パティのうえにフライドポテトをならべて、蓋をするようにバンズをのせる。  完成、『俺流なんちゃってニューヨークバーガー!』  これは某ハリウッドスターが映画の劇中で、ホットドッグとフライドポテトを、ケチャップとマスタードだらけにしていたシーンがあり、それからインスパイアされた俺流メニューである。 「タクトくんってそんな食べ方するの?」  首をかしげるアンナ。 「ああ、うまいぞ」  俺はバーガーを、手で軽くつぶしてから、ほおばる。  これも食べやすくたべるコツのひとつであり、どっかの某日本俳優が映画の劇中で語っていたものだ。  うろ覚えだがな。 「アンナにもしてみて」  目を輝かせるアンナ。  まるで、餌をほしがる犬のようだな。  ちょっと可愛いからほっぺを触らせなさい。  仕方ないからアンナにも『俺流なんちゃってニューヨークバーガー!』を作ってやる。  というか、はさむだけだから俺がやる必要性があるか? 「ほれ、食べるときに少しバーガーをつぶすのがおすすめだ」 「なんで?」 「食べやすいし、そのなんだ……アンナのような、小さな口でも入りやすくだな」  なんか言い方がエロいと、感じたのは俺だけか? 「そっか☆ じゃあやってみる」  俺の言われるがままに、食べるアンナ。  瞼をとじて小さな唇で、ハンバーガーをかじる。  男の俺とは違い、かじった部分が狭い。  それぐらいアンナの顎が細いということなのだろう。 「んぐっ……んぐっ……」とミハイルのときみたいな、エロい音をたてる。 「おいしーーー!」 「だろ?」  ドヤ顔で決める俺氏。 「タクトくんってなんでも知っているんだね☆ アンナの知らないことばっかり」 「そ、そうか?」  いわゆる、男子をすぐに「すごぉい」とほめちぎる清楚系ビッチにみられる言動である。  だが、いわれて嫌な気分ではない。  むしろ、他のメンズからの視線が突き刺さる。 「見ろよ? イチャつきやがって」 「ムカつくぜ!」 「金、暴力、せっかちなお母さん!」  なんか最後のやつは「イキスギィ~」だったな。  思えば、このハンバーガーショップにも、一人でしか食べに来た事ないな。  俺はアンナを見つめながら、不思議な錯覚に陥っていた。  目の前のこいつが、本当に彼ではなく、彼女に見える。    ミハイルの遊びに付き合っているとはいえ、俺はなぜ別人として、アンナとして接しているのだろうか?  どうかこの時が、永遠であってほしい。  そして、このままミハイルがアンナに、男が女に生まれ変わってほしいと願っていた。
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