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 ホームルームは無事終えた。  数分後に一時間目の授業が始まる。  どんな怖い教師が来るか、俺はガッチガチに固まっていた。 「はい、みんな席について~」  若い男性教師だがやる気なさそうだな。  教師という立場でありながら、ロン毛だし、無精ひげだし。  太っちょお兄ちゃんで、汗かきまくっているしね。  見た目からしてオタク側に近い。 「え~、現代社会をはじます。教科書を開いてください」  とは言ったものの、大半が教師の脱線話で三十分もダラダラと話し続ける。  結局、なにが言いたいんだ。  この教師は、大半がニュースで流れている時事ネタばかりじゃないか。 「じゃあ、次回のアメリカ大統領選挙における有力候補は誰だと思う? ニュースとかでトラ●プは否定的だけど、もう一人は?」  は? なんだそのクイズは? バカにしているのか? 「はーい!」  斜め後ろの花鶴がうれしそうに手をあげる。 「お! きみ、わかる?」  なんかビッチなギャルが手を挙げて嬉しそうだな、この教師。 「わっかりませ~ん!」 「え……」 「ここあ、お前笑わせるなよ」  千鳥がツルピカに頭を光らせて笑う。 「だって、流れ的に誰も手をあげなさそうだし~ ここは一本ウケようかな~って」  おい、教師絶句しているぞ? ウケとれてないけど? 「はい、じゃあ正解は……」  と、そこでチャイムが鳴り、答えを言いたげな教師は悔しそうに教室をあとにした。 「はぁ、なんなんだ。このスクリーングってのは?」  ため息をつきながら、教科書を入れ替える。 「でも……私は安心したよ」とクスクス笑う北神。 「なにが?」 「だってさ、私も中学校あんまりいけてなくてさ……」 「なんだ、お前も不登校か?」 「え? 新宮くんも?」  目を輝かせて、顔面すれすれまで近寄る。キスしちゃいそう。 「ああ……」 「わぁ、嬉しい。ますます大好きになっちゃった」 「……」  え? 今なんつった、この子? 「な、なにが?」 「この学校♪」  ですよね~ そこで『新宮くんのこと!』とは言いませんもんね~ 「なんだ。タクトは、ふとーこうかよ」  メンチをきかすミハイル。  不登校で何が悪い!  さてはお前、いじめっ子だな。 「ご、ごめんなさい……古賀くん」  おびえる北神の姿はまるで小動物のようだ。 「は? なんでおまえに名前で呼ばれないといけないんだよ」  いや、それを言うならおまえたちの『ダチ』認定はいつおりるんですか?  やっぱケンカですか? 「ご、ごめんなさい……古賀くん、ハーフでしょ? だから覚えやすくて」 「おまえ……二度とそんなこと言うなよ」  ドスのきいた声だ。俺でさえ怖い。  そう言い残すと、席を黙って立ち上がり、教室から出て行った。  ていうか、どこが怒るポイント? ワタシ、ワカラナイネ~ 「わ、私……謝ってくる。せっかく仲良くなれそうだって思ったのに……」  泣いてしまったよ。どうすんのよ、これ。ミーシャさん? 「あ~、今のは北神……なんだっけ?」  背後から千鳥が声をかけてきた。 「ほのかです……」 「あれは確かにミハイルの前では禁句だよ。俺があとで説明しとくから、もう泣くなよ」  頼もしいこって。でもどのワードが激オコポイントなの? それ教えておかないとまた地雷踏むよね? 「そうそう、あーしもあれはよくないと思うよ」 「ごめんなさい……今度から気をつけます」  いや気をつけるもなにも、どこを気をつけるの? 「いいってことよ、ほのかちゃん」  もう下の名前で呼ぶのか、千鳥。  馴れ馴れしい男は嫌われるって母さんが言ったけどな。 「あ、あのお二人は?」 「あーしは花鶴 ここあ。んでこっちのハゲが千鳥 力ね」 「だから俺は剃ってるってんだろ!」  安いよ~ 安いよ~ 新鮮なゆでダコだよ~ 「そいから、あーしもほのかでいい? あーしがここあで、こっちはリキって呼べばいいよ」 「あ、了解です」  俺をまたいで自己紹介タイムやるのやめてくれるかな? 「てかさ、タメでっていいての、ウケるんだけど」  いや、ウケない。まったくもって。 「そうそう、俺らもうダチじゃん」  おい! 今の流れでどこからダチ認定なんだよ!  なんで俺だけミハイルに殴られる必要があったんだ! 「うん! じゃあ後でL●NE交換しよ」 「い~ね、ほのかってどこ住んでんの……」  と、会話が盛り上がっているところで、俺はその場にいるのが耐えられなくなった。  こういう流れが一番、ぼっちにはこたえる。  黙って席から離れ、廊下に出た。  あのまま、いれば絶対に「あれ? お前いたの?」という禁句を放たれることになるからな。  さあ、俺がお花を摘みにいきますかね~

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