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 俺の股間はなんとか沈静化できた。  プールサイドにあった時計を見ると、昼の12時を越えていた。  腹が減るわけだ。   「そろそろ昼メシにするか?」 「うん☆ なにを食べよっか」  流れるプールから少し離れたところに、フードコートがあった。  ラーメン屋、タコス屋、お好み焼き屋。それから、海ノ中道海浜公園が運営している売店。 「さて、なにを食うか……アンナはなにがいい?」 「うーん。えっと、とんこつラーメンとフライドポテトと……」 「王道だな。俺もラーメンにするか」  店員に声をかける。 「すいません。ラーメン二つとポテトを一つ」 「ありがとうございます! 合計で2000円になります!」  たっか! ま、いっか。経費で落ちるし。  と思って、防水ケースから少し濡れたお札を取り出す。  それをアンナが止めに入る。 「待ってタッくん。まだ追加したい」 「え……」 「あとは、カツカレー、唐揚げ、たこ焼き、焼きそば、フランクフルトを一つずつください☆」 「かしこまりました! 合計で5000円になります!」  二人分の食事代じゃねぇ!  忘れてた胃袋は、健康な男の子だったね。  多めにお金持ってきていてよかった……。    ※ 「ふぅ~ お腹いっぱい~☆」  そうは言うが、相変わらずアンナの腹はほっそいまま。  全然、腹が出ないところが、怖い。  この子の胃袋は、四次元ポケットに繋がってやせんか? 「ねぇ、タッくん。デザートにかき氷でも食べない?」  目をキラキラと輝かせる大食い女王。  まだ食うのかよ。 「構わんが……俺はラーメンだけだったのに、アンナはたくさん食べたろ? まだ腹に入るのか?」  俺がそう言うと、彼女は顔を真っ赤にして怒る。 「デザートは別腹っていうでしょ!?」  あなたの身体ってホントにどうなってんの……。 「了解した。じゃあ買うか」 「うん☆」  再度、売店に戻り、かき氷の種類を眺める。  かなりの種類がある。 「ん……あれは」  一つ気になった味がある。  それはブラックコーヒーかき氷。  コーヒー好きとしては、これは試してみたいな。 「俺はコーヒー味にしてみるよ」 「ん~ アンナは定番のイチゴ味かな☆」 「ま、それならハズレはないな」    店員を呼んで、注文する。 「あ、コーヒー味はミルクかけますか?」 「いや、そのままで」  コーヒー好きとしては、素材そのままの味を楽しみたいのだ。 「イチゴ味は、練乳かけますか?」 「いっぱい、かけてください☆」  なんか言い方が卑猥に聞こえるのは、俺だけでしょうか?  天使スマイルのアンナのお願いに応える店員。 「じゃあカノジョさんには、ピンクのシロップが隠れるぐらい、真っ白になるまでぶっ掛けてやりますね!」 「うれしい~☆」  いや、喜ぶなよ。アンナ。  できたてのかき氷を持って、テーブルに向かう。  座って、いざ実食。  真っ黒に染まった氷をスプーンですくう。  それを口に運ぶ。 「ん……ぶふっ!」  あまりのまずさに、地面に吐き出してしまった。  肝心のコーヒーが不味すぎる。  味が薄いし、コーヒーとはいえるものではない。  なんというか、駄菓子の味に近い。  注文したことを後悔した。  仕方ないので、氷が溶けるのを待って、液体にしてから一気に飲むことにした。  溶けるのを待っている間、向かい側に座っているアンナに目をやる。  俺とはちがい、嬉しそうにかき氷を食べている。 「あま~い☆ おいし~☆」  頬をさすって喜んでいる。  ま、この笑顔を見れただけでも、買った甲斐があったってもんか。      ※  かき氷を食べ終わると、急に激しい腹痛を起こす。  どうやら、あのコーヒーかき氷が悪さしたようだ。  トイレに行きたくなった俺は、彼女を一人プールサイドで待つように伝える。 「うん、わかった☆ このヤシの木の下で待ってるね☆」 「すまんな」  ちくしょう。  もう二度とあのかき氷は頼まんぞ。  しばらく便器と戦いを繰り広げる。  体重2キロぐらい落ちたんじゃないだろうか?  手を洗うと、鏡の前にゲッソリした自分を確認できた。  腹をさすりながら、トイレを出る。  アンナが待つヤシの木に向かう。  すると、なにやら甲高い女の悲鳴が聞こえてきた。 「や、やめて!」  声の方向を見ると、アンナが二人の男に囲まれていた。 「いいじゃん、お姉ちゃん。一緒に泳ごうよ」 「その髪、天然? 外国人なの? 観光なら俺たちが福岡を案内してあげる」  見るからにチャラ男って感じの輩たちだった。  初対面のアンナの髪を、汚い手で触りやがる。  怒りがこみあげてくる。 「い、いや!」  男の手を振りほどこうとするが、ナンパ男たちはしつこい。 「なんだよ? 別になにもしないって。ただ、俺たち連れがいないから寂しいだけだって」  そう言いながらも、アンナの前に立ちはだかる。  彼女は何度も逃げようとするが、男たちは先回りして、動きを止めようとする。  見ていてイライラする。  中身はあの伝説のヤンキー、ミハイルなのに。  なぜ女装すると、か弱い女の子として設定を貫こうとするのか?  前も映画見ている時、知らない男に触られても、結果的にそれを許していた。  殴ってやればいいのに。  あ~ 腹が立つ。  今もずっと二の腕を触られるが、困った顔していて、抵抗しない。  美しい金色の長い髪を、知らない野郎に触らせやがって!  そこまで、俺に正体をバレるのが嫌なのか……。  ブチンッ!  何かが頭の中で切れた音がした。  考えるより、身体が動く。 「おい、お前ら。その子を離せ」  ナンパ男の背後に立ち、冷えきった声で呟く。 「うわっ! なんなんだよ、お前!」 「タッくん!」  涙目のアンナが、俺を見つけて安堵する。  そして、俺の背中に逃げ込んだ。 「大事ないか? アンナ」 「うん……でも、この人たちがしつこくて」  怒りを抑えるために、拳を作る。 「お前ら、連れになにしてくれてんだ?」  睨みをきかせる。  だが、男たちもひるまない。 「なっ! 急に出てきてなんだよ、お前!」 「そうだよ! その子は俺たちと遊びたいんだよ!」  どこまでも身勝手な奴らだ。  しかし、こいつらアンナの股間に、おてんおてんがあると知ったら……いや、これはやめておいてあげよう。 「あのな、この子は俺と一緒に、取材……つまりデートをしているんだ。お前らとは遊ばないぞ。どこか、他の女の子を口説け」  あれ? 言っていて違和感を覚える。  そっか、アンナを女の子として表現しているせいか。 「はぁ!? じゃあ、なにかよ! お前みたいな根暗で童貞でオタクで、声豚みたいなやつとそのパツキンちゃんは付き合ってるとでも言いたいのかよ!」  おいっ! 言い過ぎだ!  見た目だけで、よくそこまで考察できたな。 「ああ……だよな、アンナ」  ウインクして彼女に話を合わせるように伝える。 「う、うん。タッくんとアンナは……つ、付き合ってるもん!」  顔を真っ赤にして、恥ずかしがるアンナ。  俺もなんだか恥ずかしくなってきた。  ナンパ男たちは顔を見合わせてこう言う。 「信じられるか? こんなイカくさそうな男とこの天然パツキン美少女が?」 「いーや、ないな。根暗なオタクがこんな超絶美少女と付き合えるなんて状況……ありえねーよ」  ちょっと待って。さっきからなんで俺だけそんなにディスられるの?  傷つくんですけど。  しばらく、俺とアンナを交互に眺める男たち。  まだ納得できないようだ。 「なら証拠を見せてくれよ」 「そうだよ、カップルならやることやったんだろ?」 「なっ、ナニを言っているんだ! お前ら!?」  予想外の言葉に激しく動揺する。 「証拠を見せてくれたらあきらめるぜ?」 「ああ、ラブラブなところを見せてくれや」  いやらしくニヤニヤと笑みを浮かべる。  クソがっ! こいつら、どうしても俺たちの関係を引き裂きたいのか!  ぐぬぬっ……と、歯ぎしりをする。  言い返す言葉がない。  なぜなら、彼らが言う証拠ってやつを提示できないからだ。 「アンナ。もういいよ、こんな奴らに付き合う必要はないぞ」  彼女は黙って俯いている。 「ほーら、彼氏じゃないのにブッてんじゃねーよ」 「できねーなら、彼氏失格だな」  俺を指差して嘲笑う。  その言葉を聞いて、アンナが急に首を上げる。 「あの……証拠見せます!」 「え?」 「タッくん、さっきのもう一回、しよ?」 「さっきの?」 「その……アンナを抱っこして」 「あ、あれを今ここでやるのか!?」 「うん……」  頬を赤くして、アンナが俺に抱きつく。  そして、俺は彼女を持ち上げて、ペッティング。  胸と胸、股間と股間、鼻と鼻、密接に繋がる。  それを見た男たちが、逆に悲鳴を上げる。 「キャーッ! なんてハレンチなの、あんたたち!」 「ヤるなら他でやりさないよ!」  そう叫んで、逃げていく。  勝ったな……。  だが、同時になにかを失くした気がする。  その証拠に、周りにはたくさんのギャラリーが出来ていた。 「タッくん。無理やりさせてごめんね。あんな風にタッくんが悪く言われるのが許せなかったから」 「いや、俺は構わんが……」  それより早く降りてくれない?  せっかく、沈静化した俺の股間が、また暴走しそうなんだが。  

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