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「じゃ、タクト。ちょっと待っててね☆」  ミハイルはそう言うと、俺に背を向ける。  小さな桃のような尻をプルプルと震わせて、小走りで去っていく。  自身の家でもある『パティスリー KOGA』に入っていったのだ。  三ツ橋高校の体操服にブルマ姿で、地元の席内を歩くわけにも行かないので、彼の自宅に寄ったわけだ。  今日は姉のヴィクトリアがシラフのようで、店を通常オープンしていた。  窓から店の中を確認すると、子供連れの主婦たちが客として訪れている。  普段はアルコール中毒で、下着姿でうろちょろする破天荒なねーちゃんだが、ニコニコ優しく微笑んでいる。  さすがだ。  嫌な顔せず、ショーケースからケーキをトングで取り出す。  ミハイルと女装したアンナぐらいの二重人格だ。  やはり血は争えないなぁ……。  俺がそう感心していると、隣りから声をかけられる。 「お待たせ☆」  白い歯をニカッと見せつけて、太陽のように眩しく微笑むミハイル。  本日のヤンキーファッションだが、胸元に大きな星がプリントされたタンクトップ。  パンクなデザインで、なぜか左右にチャックがついている。  たぶんおしゃれなのだろうが、俺からすると脱がせる前提のエロいデザインに感じた。  布地も少なく、ミハイルの華奢な肩が露わになっており、丈もへそ上という短さ。    そしていつもの如く、下半身は白くて細い脚が拝めるショートパンツ。  防御力がほぼゼロだ。  俺がスライムでも今の彼に襲い掛かれば、勝てそう。  性的なバトルで……。  しばらく、その光景に目が釘付けになっていると、彼が怪訝そうに俺をみつめた。 「タクトってば、ボーッとしてどうしたんだよ?」  ムッとした顔で、下から俺をのぞき込む。  腰を曲げているため、タンクトップが緩み、胸元が見えそうになる。  誘っているんでしょうか? この人……。 「む、いや。なんでもないんだ……」  頬が熱くなるのを感じた。 「変なタクトぉ……。あ、ひょっとして、昨日のたいそーふくがそんなに嫌いだったのか?」  手のひらを叩いて、一人で合点する。  いや、ちがうから。  どっちも好きです……なんて言えるわけないだろが。 「違うよ。ま、とりあえず、ネコカフェに行こう」 「うん! 早く行こうぜ☆」  そうそう、今日はそれが取材なんだから。  デートじゃないのよ、タッくんたら。  相手はアンナちゃんじゃない。  男のミハイル。  だから、ノーカウント。  席内商店街を抜けて、以前ミハイルと買い物をしたショッピングモール、ダンリブの建物に沿って旧三号線に向かう。  ダンリブの反対側には、100円均一の『タイソー』とドラッグストアが並んでいる。  交差点を使って渡る。  俺らオタク。つまりは犯罪者予備軍の天敵であるお巡りさんがお出迎え。  道路を横断すると、目の前には交番があり、交差点に一人のポリスメンが立っていた。  険しい顔で、辺りを見張っている。  ミハイルとは顔見知りのようで、 「おぉ、ヴィッキーんところの弟じゃねーか」  随分となれなれしく話すじゃないか……。  ダチとしては、ちょっと嫉妬を覚える。 「あ、お巡りさん。おつかれっす☆」  ミハイルも手を振って、笑顔で答える。  なんだよぉ~ ヤンキーならそこは警察にイキってみせろよ。  ムカつくなぁ。  隣りでイラつく俺をよそに、ミハイルは世間話を始める。 「今からネコカフェに行くんす☆」  てか、警察には敬語使うのな。 「そーか。気をつけて行ってこいよ。ん? 珍しいな。ミハイルのダチか」  やっとのことで、俺に気がつく。  一応、挨拶をしておく。 「あ、同じ高校の新宮です」 「高校? あー、ひょっとして、一ツ橋高校か?」 「そうです。なんで分かったんすか」  俺が不思議そうに問いかけると、何を思ったのか、そのポリスは大声で笑い出す。 「ハハハッ! だって、本官もあそこの卒業生だからなぁ」 「え……」 「今は警察なんてやってんけど、昔はヴィッキーぐらいヤンチャしてたからさ。一ツ橋ぐらいしか、入学できなくてよ」  そんな偏差値で、よく警察官になれましたね。 「はぁ…」 「ま、本官もヴィッキーも、もういい歳だからさ。今じゃ仕事あがりにウイスキーをストロング缶で割るぐらいしか、できないけどよ……丸くなったもんさ」  いや、もっと酷くなってますよ。  酒をお酒で割るなんて、ヤンチャどころじゃない。  さっさと、アルコール外来か、病院にブチこむレベルだ。 「おっと、長話しちゃいけねーな。一ツ橋って言うと、どうしてもヴィッキーや蘭たちと悪さしてた頃を思い出しちまう」  一人で勝手に語って、満足してんじゃねー。  お前は席内を守る側であって、絶対に飲酒運転とかすんなよ、クソが。   「お巡りさん! オレたち早くニャンニャンに会いたいの! もういい?」  ミハイルが頬をプクッと膨らませる。 「わりぃわりぃ。もう行っていいぞ」  おでこをかきながら、申し訳なそうにミハイルに頭をさげる。  すれ違いざま、お巡りさんが低い声で俺にこう言った。 「あ、一ツ橋といったら、日葵のバカがいたよな?」 「え……」  日葵って、俺の担当編集の白金 日葵のことだよな。 「あいつ、たまに酔っぱらってウチの交番に夜中遊びに来るんだよ……。んで、鉄砲をパクって近くの海岸で撃ちまくるんだ。ストレス発散とか抜かして……。いつか逮捕したいから、見かけたら教えてよ♪」  そう言って、笑顔で俺に伝える。  目が笑ってない。すごく怖いです。 「も、もちろんです!」  背筋がピンと伸びる。 「うんうん、いい子を見つけたな。ミハイル」 「だろ? オレのダチだからさ☆」  やべぇ、白金と会っているところをこのお巡りさんに見られたら、俺まで逮捕されかねない。  さっさと、担当をチェンジしてもらおっと。
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