「ふ~ん、ふ~ん♪」 鼻歌交じりで赤坂 ひなたは洗面所で着替えている。 もちろん、ドアは閉めてあるのだが……。 なんか気分は童貞を捨てた感がある。 事後というか……背徳感がパネェ。 「お待たせしました!」 勢いよく引き戸を開く。 あーら不思議、立派なリアルJKの出来上がり! 相変わらずの校則違反しまくりなミニ丈。 このJKが先ほどまで俺の股間とリンクしていたとは……(服の上からだが) 思わず生唾ゴックン! 「じゃ、じゃあ、帰るか」 俺の身体は回復しつつあった。 少しの頭痛が残っていたが、赤坂から鎮痛剤をもらい、効きはじめたのだろう。 まさかこの俺が制服を着たJKとラブホに入るとはな……。 確かに取材の一つになるだろう。 だが、相手が赤坂というのが引っかかる。 「どうしたんですか? センパイ?」 「い、いや……別に」 なんとなく、頬が熱くなる。 「変なセンパイ」 赤坂にホテルの支払いを聞くと「入るときに払った」という。 金額を聞き、俺が財布から野口英世さんを数枚渡す。 なかなか彼女は受け取ろうとしなかった。 理由を尋ねると「貸しにしておきます」と答える。 なんでじゃろ? 「本当にいいのか?」 「はい。今度、センパイと取材できる日が楽しみです♪」 「え?」 「だって私も取材対象の一人じゃないですか~」 笑顔がこわっ! 「そ、そうか……」 俺と赤坂はホテルの部屋から出る。 細い廊下を真っすぐ歩くとエレベーターが見えた。 歩きながらいたる所に扉が配置されていることに気がつく。 各部屋の上には番号が割り振って有り、ナンバープレートが点灯している。 見たところ、俺たちを含めてこの階は満室のようだった。 そんなにおせっせしたいか!? エレベーターのボタンを押し、なんとなくドキドキする。 赤坂をチラ見すると、彼女も同様に頬を赤らめている。 きっと俺を助けたい一心で、ラブホに入ったのだろう。 帰るときの恥なんざ、頭になかったんだろうな。 チンッ! とエレベーターがご到着。 「あっ……」 全く知らないカップルだった。 大人しそうな若い女性と、ひ弱そうな男。 特に男の方は赤坂が制服を着用しているせいもあって、「変なものを見てしまった」という顔で驚いていた。 互いにすれ違いざまに「すみません」と会釈し、エレベーターを出入りする。 というか、俺たちが出たばかりなのに、もう入室するのか? ラブホってそんなに回転率高いの? 儲かりそう……よし起業しよう! ラブホから出ると、『先ほど』の現場に舞い戻った。 福間と赤坂が揉めていた道路だ。 アスファルトに目をやると、俺の血痕がわずかに残っていた。 「腹減らないか?」 「あ、そう……ですね」 別に腹が減っていたわけじゃない。 ただ、なんとなく気まずい雰囲気から逃げたかったんだ。 めんどくさいので、俺の行きつけの店にする。 ラブホの目の前のラーメン屋、『博多亭』 というか、元々ここで一杯食べていくつもりだったからな。 「ここでいいか?」 「え……はじめてなのに、ラーメン?」 ラーメンじゃ不満ってか! 「なんだ? 赤坂は豚骨ラーメン食べたことないのか?」 「ありますよ! 博多っ子なら食べるに決まっているじゃないですか!」 ならば、純情であれ! 「じゃあいいだろ?」 「いいですけど……もっとムードが……」 ぼそぼそと喋るので、俺はめんどくさくなってきた。 「なら帰るか?」 「あっ、待って! 食べます!」 「あー言えばこう言うヤツだな」 「センパイって女子に冷たくないですか?」 「別に」 「いじわる!」 ~10分後~ 「うーん、ここのラーメン、おいしいですねぇ♪」 満面の笑みでラーメンをすする赤坂。 さっきのムード重視発言はどうした? 良い顔でラーメン食いやがって。 なんだか、紹介した俺まで嬉しくなっちゃうだろ。 「フッ、この天才が見つけた秘境だからな」 「そこセンパイが自慢するところですか? 素直にこのお店のラーメンが美味しいって分かち合えばいいのに……」 ええ、強要されたくない。 「あ、餃子も食べたくなってきちゃった」 「食えばいいだろ?」 「だって……」 なぜか頬を赤らめる。 「大将! 餃子を一つ!」 「ヘイ、ありがとうございます!」 俺が頼み終えると赤坂は不服そうな顔をする。 「どうした?」 「女の子が餃子を食べるときはもっと慎重にしてください!」 「なんで?」 「ホンット! センパイってデリカシーがないんですね」 なにそれ? 美味しいの? 「いいですか? 餃子を食べたらニンニクの匂いがつくでしょ?」 「だったらどうした? ラーメンにもニンニクをたっぷり入れたらうまいぞ?」 そう言って、俺は近くにあった下ろしニンニクをラーメンへ大量にぶち込む。 「はぁ……センパイに言った私がバカでした」 「ヘイ! 餃子お待ち!」 店の大将が俺たちのテーブルに餃子を置く。 「うわぁ! 美味しそう!」 怒ったり、喜んだり、忙しいやつだな。 「ところで赤坂」 「はい? なんでしょ?」 「お前の家はどこだ?」 「ブッ!」 吹き出す赤坂。麺と汁が俺の顔にブッ掛かる。 「きったねぇな!」 「げほっげほっ! だってセンパイ……うちに…来たいんでしょ?」 「アホか」 俺は持っていたタケノブルーのハンカチで顔を拭く。 「もう遅いだろ? 送るっていってんだ」 「え……どうして?」 目を丸くして箸を止める。 「そりゃ、お前が女の子だからな……」 ラーメンがうまい! うまい! 「女の……子……」 絶句している赤坂を無視して、俺は大将に「替え玉、バリカタで!」と注文追加。 「ズルいですよ……こんなときだけ女の子扱いなんて……」 なにをモジモジしとるか? 麺が伸びるぞ。 「別に。俺はこう見えて紳士だからな。マナーだろ?」 「私はそんな扱いされたことないですから……」 そうか、こいつも曲がったことが大嫌いな性格だったな。 まあこんな可愛げのないボーイッシュなJKは女の子扱いされないのも理解できる。 「誰と比較しているのか知らんが、俺は赤坂を女の子として対応している」 言いながらも、大将が湯切りで持ってきたホカホカの替え玉をスタンバイ! 替え玉をスープに入れてもらい、ズルズルとすする。 やっぱうめえわ、この店。 「赤坂っていうのやめてください……女の子として扱ってくれるなら、下の名前で」 口に手をやり、頬を赤らめる。 「え?」 「あの……ひなたって呼んでください!」 いきなり叫ぶので、ラーメンを吹き出しそうになってしまった。 「りょ、了解……ところで、早くラーメンを食べろ。伸びるぞ」 「あっ、勿体なか!」 そこで博多弁使うかね……。 俺と赤坂……じゃなかった。ひなたはこのあとめちゃくちゃ替え玉しまくった。
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