気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!
183 バカヤロー! サプライズってのはこうするんだよっ!

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 音楽の試験……というか、ただのカラオケ大会は無事に終了した。  もちろん、宗像先生の言った曲の採点が「5点以上」はみんな余裕でクリア。  全員がホッとしたのであった。    ※  帰りのホームルームがはじまる。 「えぇ~ 諸君! これにて本日の試験は終了だ! だが、再来週に二回目の試験が残っているからな。気を抜くなよ。んで、次回の体育の実技なんだが、前に三ツ橋から寄付してもらった体操服を持ってくるように!」  いや、あれパクッたやつじゃねーか。  それを聞いてなぜか隣りで喜ぶミハイル。 「そうだった☆ タクトの好きな服だもんな、ちゃんと着てくるよ☆」  ええ……ブルマで学校に来るの?  ちょっと、さすがにしんどい。 「それはやめておいた方が……」 「え、なんでぇ?」  上目遣いして、緑の瞳を輝かせる。 「ま、まあ、ミハイルがいいなら良いんじゃないか?」 「うんうん☆」  マジでいいの?  もう人格が破綻してない……あなた。  こうして、第一回目の期末試験は終わりを迎えるのであった。  俺はテストの成績に自信があるのだが、ミハイルが心配だ。  音楽の試験に関してはクリアしているけど、ペーパーテストの方がな。  かなり苦戦していたように見える。  試験を終えて、安心しきったのか、ミハイルは帰り道、歩きながらウトウトしていた。  よっぽど疲れているんだな。  帰りの電車内でも、俺の肩の上に寄っかかると、スゥスゥと寝息を立てていた。  ふーむ、一体なんのバイトしてんだろうな。  気にはなるが、本人が内緒にしてほしいみたいだし。  ま、暖かく見守るとしよう。  ~次の日~  俺は毎々新聞へと来ていた。  無給なんだけど、店長のこだわりで、仕事に使うバイクを洗車しないといけないからだ。  店長曰く「日頃乗せてもらっているんだから、バイクちゃんにもご褒美をあげないと」らしい。  別にペットじゃねーし、馬でもないのに……。  だが、長年やっていることなので、文句一つ言わず、黙ってバイクちゃんをブラシで磨いていく。 「ほぉ~れ、ピカピカになったぞぉ~ また今週も頼むな」  なんて愛着も湧いていたりする。自ずと名前もつけたりして。  その名も『サイレント・ブラック』  カッコイイ名前だ。バイクの色はブルーなんだけど……。  ブラックの方が様になるだろ?  その時だった。  ズボンのポケットに入っていたスマホが鳴りだす。  お決まりの可愛らしい歌声、アイドル声優のYUIKAちゃん。  着信名は……ミハイルか。 「もしもし」 『あ、タクト! 今、仕事中?』 「ああ、もう少ししたら配達に出るけど……」 『仕事終わってからでいいから……今日会えない?』 「構わんが…」 『よかった☆ じゃあ、オレも仕事に戻るからまたあとでな!』   と言って、一方的に切られてしまった。  電話の向こうで何やらガヤガヤとうるさかったな。  仕事中だと言っていたので、職場か?  まあ、とりあえず、俺も今から配達に行くか。  彼に会えることが嬉しくて、俺は猛スピードでバイクを飛ばした。(もちろん法定速度で)    ※  夕陽が落ちだしたところ、俺はミハイルに言われて、彼の地元である席内に来た。  メールでは、以前一緒に行ったことのあるスーパー、ダンリブで待ち合わせだという。  なぜ、彼の自宅ではないのだろうか? と疑念を抱いたが、まあ行ってみるとするか。  ダンリブに入って、しばらく店の中をウロチョロする。 「あいつはまだ来てないのか……」  そう呟いた瞬間だった。  背後から聞きなれた甲高い声が聞こえてくる。 「いらっしゃいませ! またのごりよーお待ちしておりますっ!」  なんだ、このバカそうな店員は。  振り返ると、そこには今まで見たこともないぐらいの美人店員が立っていた。  タンクトップにショートパンツ。  そのうえに『ダンリブ』とプリントされた青いエプロン。  小さな頭を三角巾で覆っている。  金色の髪は後ろで一つにまとめていた。  時折、垣間見えるうなじに色気を感じた。 「み、ミハイル?」  そう。あのヤンキーが甲斐甲斐しく働いていやがる。  腰の曲がったおばあさんの客に丁寧に対応。 「あ、ばーちゃん。オレが荷物持つよ☆」 「すまんねぇ……あらぁ、ミーシャちゃんじゃない。ダンリブに就職したの?」 「ううん☆ 短期のバイトだよ☆」  就職したら、この店潰れそう。  だって客にタメ口じゃん。クレームの嵐で店長壊れそう。  ミハイルはおばあさんのカートに乗っていたカゴを、軽々と持ち上げ、レジまで誘導する。  レジ打ちさえしないが、カウンターの中で、他の女性店員と一緒に商品をスキャンしたり、ビニール袋に詰め込む。  そして、客が去る際はしっかりとお辞儀をする。  お客様が見えなくなるまでだ……。  どこの老舗デパートだよ。  ヤンキーのくせして、けっこう真面目なんだな……。  俺がその姿に呆然としていると、彼がこちらに気がつく。 「あっ! タクト☆ 来てくれたんだ!」  そう言って、レジカウンターから出てくる。  太陽のような眩しい笑顔で手を振るというオプション付き。  くっ……なんだか、仕事あがりの嫁を迎えに行っているような錯覚を覚えるぜ。  しかもエプロン姿だもんな。  制服フェチとしては、たまらねぇぜ……。 「ハァハァ……やっと会えたね☆」  そう言って額の汗を拭う。  顔をよく見れば、昨日より目の下のクマが酷くなっている。 「ああ。ミハイルのバイト先ってダンリブだったんだな」 「う、うん……短期だから今日までなんだ☆」 「へぇ」 「それで、その……」  急に顔を赤らめてモジモジし出す。  なんじゃ、聖水か?  お花畑なら店にもあるだろうが。 「どうした?」 「これっ!」  そう言ってエプロンのポケットから小さな箱を渡される。  綺麗に包装されていて、リボンがついていた。 「ん、なんだこれ……」 「いいから受け取って、タクト!」 「はぁ……」  とりあえず、言われるがまま、箱を受け取る。  リボンの紐に何やらカードが挟まっていた。  メッセージが添えられていて、 『タクト、18歳のお誕生日おめでとう☆』  とある。  あ……今日って俺の誕生日だったのか。  万年ぼっちだったから、忘れてた。 「これ……もしかしてプレゼントか?」 「う、うん……」  頬を赤くして、恥ずかしそうにしている。 「開けていいか?」 「いいよ…」  リボンを外し、包装紙を丁寧に開けていく。  箱を開けると中には、キラキラと輝く万年筆が入っていた。  見るからに高そうだ。 「こんな高級なものを俺に?」 「うん……色々考えたけど、タクトは小説家だから。それがいるだろうって思ってさ」  アナログゥ~!  俺ってそんな文豪じゃねーよ。  しかも今時ペンで書くやつなんているか?  だが、こんな高級なもんをもらって、返すわけにも文句を言うわけにもいかんしな。  実はパソコンでタイピングしているなんて、口が裂けてもいえないよ。 「ありがとな……ミハイル」 「ううん。タクトに初めてあげる誕生日プレゼントだから☆」  やっと緊張がほどけて、優しい笑顔に戻る。  ニカッと白い歯を見せて。  クソがッ! 抱きしめてやりたいぜ!  生まれてここまで想われたのは、お前だけだ。男だけど! 「そっか……大事に使わせてもらうよ」  なんだか悪いことをした気分になる。  ていうか、バイトを短期でする意味って……まさかっ! 「ミハイル。もしかして、このプレゼントのために、バイトをしたのか!?」  思わず彼の細い肩をギュッと掴む。  瞬間「キャッ」と可愛く声をあげる。 「う、うん……だって、ちゃんと自分で働いて、自分のお金でタクトに……プレゼントしたかったんだもん」  そう言うと、今度はダンリブの床ちゃんがお友達に追加されてしまった。    ヤバい。泣けてきた……。  ミハイルママが俺のことを思って、夜なべしながら、試験勉強して、朝も早くからスーパーでバイトかよ!  自分がちっぽけに感じる。 「タクト、その万年筆でたっくさん小説書いてくれよな☆」  なんだろう……急にこのプレゼントが重たく感じてきた。

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