ハンチング帽を被り、サングラスにマスク姿。夏だというのにトレンチコート。 「あ」 俺がこいつだと思った瞬間、物凄い力で手を引っ叩かれた。 ひなたと繋いでいた方の手だ。 強制的に二人の手は遮断される。 「いってぇ!」 「痛い!」 互いにその痛みに驚いているのも束の間。 「フン!」 とハンチング帽がドスの聞いた声をあげると……。 ズボン! と何かが水の中に落ちる音が背後から聞こえてきた。 振り返ると、後ろにいたはずのひなたがいない。 イルカさんが「クエ?」なんて首を傾げている。 一匹しかいないはずのプールにもう一匹、活きのいい大きなメスが。 「きゃあああ! うぼぇ! ぐ、ぐえぇええ!」 ひなたがプールから顔を出して、泳いでいた。口から水を吐きながら。 かなり深いのに、上手いことバタバタ手足を動かして、どうにか水中に浮いている。顔だけ。 「ひなた! 今助けるぞ!」 咄嗟に俺がプールサイドに駆け寄ろうとしたが、脚がピクリとも動かない。 なぜならば、誰かが俺の左腕をがっしりと掴んでいるから。 そして、グイッと強引に出口へと引っ張られていく。 「ちょ、ちょっと! なんなんだ! お前は誰だ! 俺は連れを助けに行かないとならないんだ!」 「……」 だが相手は沈黙を貫く。 物凄い力で、俺の腕をがっしりと掴み、自由を許されない。 なんて馬鹿力だ。 女の握力じゃないぞ? 気がつけば、かいじゅうアイランドから出て、水族館に戻ってきてしまった。 両足はずっと地面に擦り付けられて。 ようやく、解放された俺は、犯人の女に向かって激怒する。 「お前! 一体なんなんだ! 俺たちに恨みでもあるのか!? 事によっちゃ、警察を呼ぶぞ!」 俺が威嚇してみるが、相手は一切動じることはない。 「ふふ……」 不気味に笑い、余裕さえ感じる。 しばしの沈黙の後、何を思ったのか、その女は被っていたハンチング帽を取って見せる。 すると、隠されていた美しい金色の長い髪が肩にかかる。 サングラスもマスクも取る。 キラキラと輝く宝石のようなグリーンアイズ。 ピンク色の小さな唇。 「タッくん、アンナだよ☆」 「え、えええ!?」 不審者は、僕のメインヒロインでした。
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