この村が駐屯地として選ばれたのは。 とどのつまり、脚環鳩の居らぬ村だったからだ。もう少し付け足すのならば、アルツォネルゼに四半日と近く、また、深い森に覆われているからである。 村の人口も百人足らずと、酷く閑散としている。 ここよりも多くの木々を有する場所といえば、夜都か大陸の東端ぐらいしかあるまい。 私は、暗闇にひっそりと身を潜ませた。 隣でデュゼが同じような仕種を見せるが、私は声もなく彼を制した。 あとは、ゼダスからの指示を待つだけである。 ぐしゅん、と後方からくしゃみが聞こえる。緊張感もなにもあったものじゃない。と私は呻いた。 デザーテアを発って早二日。部隊は、人気のない寒村を目指した。当初の予定通り。 それは、我々の城からすれば、半日の半分行き過ぎた場所であったのだが(つまり王都に近い)、計画上、ここは重要な拠点として扱われていた。 ゼダスは、わずかな兵をコルゴラバテに残し、我々を率いて森へ進行した。 現在、村では人々がその身を拘留されている頃だった。 「隊長」 デュゼが、辺りを気にして声量を抑える。 「我々の仕事はなんなんですかね?」 彼は自らの置かれた状況に、疑問を抱いているようだった。 私にしてもそれは同様だったので、知るか、と小さく声を発する。 この村は。 客観的に見ても、大したポイントではなかった。 まず、王都との連絡も取れず、なにかあった場合、アルツォネルゼまで早馬を要した。 次に、人口も少なく、兵力を募ろうにも農民、もしくは炭坑夫しか居ない。 休む、という用事がなければ、無視しててもなんら影響はない場所だった。 それにしても――、と私は呟く。 ここより北の王都では、さらに見通しの悪い森が広がっている。一体、ゼダスはそれらをどうするつ もりなのか、と訝る。 脚環鳩の発着場となる『報の社』よりさらに半日。磁気の狂った地と岩肌の露出した足場が、鉄壁の盾となって外敵の侵入を阻む。おまけに、二千を越える騎士団も付いてくる、と 我々にはかなり不利だ。 だが私は、思考を中断した。 あの男はやると言ったらやる。いいか悪いかは別として、それなりの策は用意している筈だった。 遠くに、大きな鐘の音。 村を、陥落させた合図だった。 少し痺れた両足で、強く足元を踏み締める。 「行くぞ」という自身の声に、五十の兵隊が続いた。
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