ゼドウィックに花束を 
嘘を囲むテーブル 十九

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「さて、本題から話そう。昨日の件を覚えているか?」  ゼダスの言に、私は眉根を顰めた。村が一つなくなったのだ。忘れる訳がない。さらに、五十人の仲間が巻き添えとなった。消そうとしても消えない記憶である。 「尊き犠牲に感謝を――」  わざとらしく、天を仰ぐ。皆一様にそれに倣うが、口の端はひく付いている。馬鹿馬鹿しくて、私は無視した。そんな心情を表すかのように、右手の爪が、手の平に食い込む。我乍われながら、自制が利かない。血が滲んで、やっと、我に返った。他者に見えぬように、舐め取る。  まだだ――。感情を爆発させるのは、しろあるじを倒したあとでいい――。  必死に、怒気を殺す。  そんなこちらを知ってか知らずか、 「王都に宣戦を布告した――。つまり、鳩はもう発った。諸君、八日後には騎士団が着く」  と大仰な身振り。 「いよいよか」「待ってたわ」「全滅させてやる」と相の手。 「そこでだ。これを制し、勝利するために俺は策を弄した。分かるか?」  ゼダスが先を続ける。トキシトラの顔は、心持ち青く感じられる。 「昨日、訪れた村を見て――奴らは、どう思うだろう? 損壊した家屋、踏み荒らされた畑、そこを彩 る数々の死体――そして、我々の仲間。奴らは、こう考える筈だ。『なんと纏まりのない集団だろう』 と。『所詮、寄せ集めは寄せ集め』と。そして、その儘アルツォネルゼへと南下してくる」 「つまり?」と私は訊ねた。 「奴らが湖を囲んだ時点で――我々は、『門を開ける』。当然、奴らは食い付く。なにせ、俺達は『纏 まりのない集団』だからだ」 「皆殺しにされるぞ。その隊は」と赤ら顔。 「なに、心配ない。連中にそんな時間はないさ。そんな暇があったら、必死で街へ雪崩れ込むだろう。 そうだな――精々身柄を拘束される程度だろう」 「質問」  とトキシトラ。 「その役は誰の隊が?」 「フィルモルーニ、お前やれ。美味しい所取りだぜ? 門を開けて、あとは突っ立ってりゃいいんだ。 『その時が来る』まで」 「その時?」 「そうさ。連中が街へ入ったら、内部から崩せ。策は、こうだ。この街の守衛の鎧を着けていけ。ただ し、半数だ。そして、騎士団が橋門を潜ったら、付近の奴らを片っ端から切り捨てろ。遠慮は要らねえ。それを見て、奴らは混乱に陥るだろう。寝返ったと思った囚人と、守衛の鎧に身を包んだ連中が突然牙を剥くんだ。当然さ。さらに言やあ、騎士団は守衛を助け出してくれた連中だと思ってるんだ、お前らを。迷わず街へ入ってくるだろうよ」 「成るほど」私は呻いた。

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