「……アセドア」 「お前は実によい――」 私の言に被せるように、声。 「ゼダスも、なぜお前を切り捨てるのか――」 「違うな。少なくとも、今回はお前の独断だ」 私は、やり返すように否定。迅速かつ注意深く、地に屹立する錘を抜く。 ゼダスの弁解を鵜呑みにするつもりはなかったが、なぜか、今は確信に満ちている。 「お前は――」 と開口。続きを喋らせてくれる訳もない。 二条の光。ただし先ほどよりも狙いは的確。 「愚鈍だな。アセドア」 わざわざ神経を逆撫でする言葉を選ぶ。この距離での攻防では、口を開く行為は自殺のそれに等しい。折れ飛んだ木々の枝が、遠くの地面で音を鳴らす。 衣服の裾も、多少ではあるが巻き添え。 動悸が早まり、摩滅する神経に拍車。 だが。 と私は再び開口。 「お前とは今日でお別れだ」 相手の顔が引き攣るのが見える。一瞬ではあるが。 自身は、右半身を引いて腕を遊ばせた。次の一手は、死に物狂いで躱す。 呼吸のペースを知られぬように、閉口。肩を成るだけ静止させる。 刹那。 左下から視界を覆うように、黒。蹴り上げた砂――と認識し、決めていた通りに前屈。その一連で、投擲。 短剣は、舞い上がった砂を煙幕にし、対象を目掛けて飛翔。 ぎゃっと短い悲鳴を導くに至った。 ついでに、拾った鉄塊を返却。ありがたく受け取れ。 こちらも手応えを感じさせるが、辺りは静寂。ただ一度だけ短く叫喚。 釐正してやる、と私は駆けた。人格、価値観、嗜好から望みまで。すべて、やり直させてやる。だが夜の闇に、敵は居なかった。 「気憎しルイセール。その首確かに奪い取る。それまでは、摂生しておけ」 闇が喋った。 背後で、数度枝が揺れ、同時に赤い髪が現れる。トキシトラ。 私が名前を呼ぶと、 「こんなことだろうと思った」 と腰に手。 「男って奴ぁ、自分の世界に入ると周りが見えない」 もっともな意見に、ぐいと額の汗を拭う。 「頭目連中待たせてなにやってんのさ。アセドアの馬鹿に腹を立ててんのは、私だって同じだってのに――。まったくあれだね、ゼダスはあんたのどこがそんなにいいのかね? あ、向こうから仕掛けてきたとかは聞く気ないからね。それこそ時間の無駄ってもんさ。待っててもいずれやってくるんだ、その時に人生を語んな」 先手を打たれて、ぐっ、と沈黙。確かに、もっと早くに片を付ける気だったが。首を左右へ。肩を竦めるこちらに対し、トキシトラは布を投げた。
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