ゼドウィックに花束を 
嘘を囲むテーブル 十六

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 森は、すでに抜けている。  王都を囲むそれとは違い、足場もそれほど悪くはなかったため、大した時間も要せずに脱し切った。王都をぐるりと囲むものは、さらに労を要する。おまけに、『ほうやしろ』では常に兵達が常駐しており、審査にも時間が掛かる。夜間も襲撃に備えてしっかりと機能しているので、怪しい者など、近寄る術もない。入る者を選別し、さらに入ったら入ったで方角のみならず、時、認識、決断を狂わす自然の迷宮。  そんな場所ではないため、誰一人弱音を吐かなかった。脱落者皆無は、でき過ぎだ。  デュゼの命で、私の三十余の兵が隊列をす。アルツォネルゼの橋を突破するため、二列の縦隊で団の最後尾に付く。切迫した表情が随所で見られるが、いつもと同様に我々は片付けに専念するのみである。戦意を喪失した残兵に、逃げ惑う人々。それらを拘束して任は終わる。  地平に、朝焼けに染まった街が見えた。  ゼダスは右手に剣を持ち、自らが率先して先頭に立つ。的確な指示を飛ばす、各隊の長。疾駆する一団を、清新な景観が包んだ。  遅滞を生じさせることもなく、二つの隊が左右へ展開。外囲の者達を、一様に統御し、後に街民に加わらせる。不備があってはならぬ。人っ子一人逃す訳にはいかないのだ。  微動する大地に、ゼダスの怒声。熟達した者達を先頭に、一団は眼前の橋へと殺到した。  唐突に、口を開ける街門。  なぜだ!  私は当惑した。白旗でも上げようというのか? それにしては早過ぎる。  戦いの趨勢を決する、大事な場所である筈だった。戸惑いを隠せない儘、清澄な水を渡る。石畳を踏み抜き、囚人の軍勢が散開。所狭しと各々に剣を振るい、縦横無尽に街を駆ける。  点在していた警備の兵は捕らえられ、そこかしこで家屋が炎上。住居を失った街民は自らの庭で混迷し、それを尻目に一団は進行。我々は片っ端から身柄を拘束。でき過ぎている。  執拗な破壊を繰り返す同胞に、私は実務を停滞させる。  気後れしたデュゼを傍らに、受難に喘ぐ人々を見た。  倒壊する尖塔。炭化した住居。地を染める赤。  過去に再会を告げるこちらを見て、デュゼは「爺臭いですね」と苦笑。 「失礼な」  と、私は返し、地に触れた手を戻した。 「この世界には六触七踏りくしょくななとうといってだな――愛着を深めることによってそれをより熟知できるという……」 「やっぱり爺臭いですぜ」彼の失笑を買い、それを尻目に再度座する。ついでに、壁面に手。  そんなこちらとは無関係に、分岐の多い街中は、狂猛きょうもうな一団によって、占拠されていた。

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