ゼドウィックに花束を 
嘘を囲むテーブル 十一

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 私は迎えの若者を促すと、一度だけ自らの配下を眺めて表へ出た。その際、佩帯はいたいしていたブローバをデュゼに預けて使いに続く。 「早目に目的地へ連れていってくれ」  相手を気遣い、告げる。端的に。  最も大きい家屋か、村の中心に当たる屋根を目指してもよかったが、できるだけ彼の役割をまっとうさせてやりたい。ここで自身が招集に遅れるようなことになれば、ゼダスのことだ。きっと足手纏いの烙印を押して『贄』に指定するだろう。目の前の青年は、静かな足取りで、私を村の一角へと導き、磔刑たっけい。  彼の首は、事態を把握せぬ儘、地を転がった。自らの頭部へと別れを告げた胴体が、数瞬遅れて、土を抱く。  来たか――。  私は、ちっと舌打ちをした。こんなに早く仕掛けてくるとは。少々予想外であった。奴を誘き出すためにブローバを置いてきたのだが、もう少し人気のない場所だと思っていた。  あらかじめ用意していた短剣を抜く。懐から。  間を置かずに金属音。二度続けて。 「アセドア!」  私は、声を上げた。二人切りで決着を付けよう、と口を開き掛け、再び防御。同時に、刃の薄い短剣に、ひびが走る。  ちっ、と二度目の舌打ちを敢行、ついでに疾走。村の外へ。  後方から、私の行く手を遮る軌道で、追撃。地を穿ち、『それ』は砂を巻き上げる。派手に。  鉄の。 「錘か――!」  私はものをめ付けた。驚嘆に値する。  これならば確かに脳天に穴を開けられるが……。 「こんなものを何十本と持ち歩いているのか――!」  否。いくらなんでもそれは考え辛い。  仕掛けてある。  直感的に、私は思った。  あらかじめ人目に付かぬように、隠しているとしか思えない。ストックを。  私は、できるだけ見晴らしのいい地形を目指した。  なによりも意表を衝かれたのは、アセドアにこれだけの腕力がある、ということだった。彼は、見た目にも、決して突出した体格ではないし、どちらかといえば細身な部類に入る。そして、刃物での殺生を主としているため、こういった類は、考えに入っていなかった。  頭上から、錘。  今度は、こちらの肩当てを掠める。怨恨の一撃。強かに背中を地面に打ち付け、私は転がりながら地を蹴った。  頭上の枝が、二・三度揺れる。  そこか、と思ったのも束の間、今度は背後で(元々目指していた方だ)煙が上がる。土砂の。  錯乱が目的か。それとも恐怖に歪む表情を見たいのか。敵は、わざと狙いを外した。  仄かに明るい村の方角が、一瞬闇で閉ざされる。  そして――。  それは、歪な影として、我が前に現出した。

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