ゼドウィックに花束を 
嘘を囲むテーブル 九

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 人々を惨殺したのはこちらと同格の、名も覚えていない男だった。ゼダスから任された五十の兵が、彼の指示の元、村を片っ端から血で染めていた。  そろそろだな、と背後で長の声。  またもトキシトラが合わせて笑う。 「殺せ。奴らも」  ゼダスは、自らの直属に命令。  私がその場で振り返ったのと。私のあとに続いていた数名の部下が振り返ったのと。本隊二百名が矢を放ったのは、ほぼ同時だった。  その雨が止む頃、トキシトラとその配下五十名が、村の別隊を強襲。嗷々ごうごうと惨殺が繰り返され、肝膾きもなますに造られた『仲間』が倒れる。  私は。私の部下達は。  呆然とその光景に目を奪われた。 「まあ役に立たねえ連中だったし、丁度いい」  ゼダスは、私の傍へと歩を進めた。 「お前とは違って、奴らは無能だ」  ぽん、と私の肩に、手。  こうでもしないとほかの足を引っ張り兼ねない――。それに――作戦でも使う。光栄だろう。  それらの言葉に、 「そんなことは聞いていない!」と私は叫んだ。  出し抜かれたのは明々白々だった。  我々が森で息を潜める間、彼らは嬉々として村を襲った。だがそれはいい。事前に聞かされていたことであったし、多少の変更も認めよう。しかし。無辜むこの人々を手に掛けるとは聞いていないし、苦慮の一つもなく味方を裏切るとは何事か。あまつさえ、私の部隊にまで火の粉を飛ばすとは。  否――。  火の粉などと可愛いものではない。一括ひとくるめに敵と味方を撃殺げきさつし、鯨飲馬食げいいんばしょくに生を喰い散らかす。喘鳴ぜんめいすら上げずに世を去った者達を、彼らの無念をなんと暁悟ぎょうごする?  少なくとも、七名が彼の手に掛かり、十名が傷を負った。  私の部隊は。貴様にとって『都合の悪い』部隊は、その戦力を激減させられた。いざという時に寝返るとでも踏んだのか? ほかに比べて実行力を削ごうと考えたのか?  悪魔に魂を売った者よ。己が野望と兌換だかんに他者の明日を捧げた者よ。ここはお前の居るべき場所ではない。  私は、自らの懐に手を入れた。 「ルイセール」  ゼダスは、再び私をなだめた。 「お前の気持ちは分かる。だが聞け。ここは戦場だ。誰もが明日を望み、未来を勝ち取る場所だ。そのために、あの五十人は命を捨てた。不要だった。金のみに価値を見出す輩は。そういう連中を集めたんだ。王都との決戦に、私利私欲は要らぬ。違うか?」  見え透いた嘘を。  ならば私の部隊はどうなる? なぜろくに剣も振るえぬ連中が殺されたのだ? それも『誰か』の陰謀によって、だ。 「アセドアに会わせろ」  と私は言った。

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