抗戦を試みた兵士は縛り上げられ、見せしめとして高い場所に吊るされる。 戦功を立てる気でいた三下が、それを投石して謗る。 彼を殴り倒し、私はゼダスを探した。 包囲網も完璧だったらしく、薄汚れた長衣の者が、目の前を通る。 一人。二人。三人。十四人。別の方角からもまた、一握り。 犠牲者は、出ていないようだった。今の所。 撫で下ろし、同時に、対処の的確さに感嘆した。 衣服の埃を払い、乱雑に散らかった一角を目指す。半狂乱の住民が、噴煙を背に罵詈雑言。もっともだ。私は目を伏せた。 彼らからすれば、突然に訪れた災禍だ。不平と不満を隠せない。それらを取り仕切るのは、また|野卑 《やひ》な相貌の一団。生涯を通じて関わりたくはないだろう。翹つ住民を横に、さらに奥を目指す。街の中心部は――。鳩のある場所は、もうすぐだった。 自身にとっては懐かしく、唾棄したい景色。 あの時も、ここは真っ先に湖へ逃げた。街を監視する機構の社。王都への報告を常とする正義。本 来ならば、その身を盾に住民を守らねばならぬ者達は、その責務を忘れ、文字通り己が保身に走った。 巨獣の存在を放置し、我先にと湖へ向かったのである。 苛立ちを。 隠せない。 ゼダスは、真っ先にここを抑える筈だった。鳩は、発たせただろうか。王都へと、この惨事が伝わらねば、意味はない。 退路を断たれた衛兵が、武器を投げ出し命乞いを繰り返していた。 ゼダスは、それらを無視して縛り上げ、塔状の建物に括り付ける。部下に命じて。 私は、劫初のできごとに蓋をした。それらを、ここで打つけてもなににもならないし、できれば王都の騎士団に取っておきたい。 「片は付いたな」 とゼダスは首を回した。 住民用にバグバレスとフィルモルーニの隊を残し、あとは集結、というのが次の指令だった。そんな名前の連中だったのか、と一人腕組み。 こちらの姿を視認し、ゼダスは剣を鞘に収めた。 「よう、右腕。割と早かったな」 とにやける。 「統率が取れていなかったな。予想通りだが」 わざと、衛兵に聞こえるように、発言。命だけは助けてやる、と別の一人が冷やかした。 「俺としてはこの儘祝杯を上げたいんだが――そうだな。隊の頭どもを集めてまだ説明しなきゃなんねえ」 ゼダスは、左手を振って部下に指示。すぐさま数人が、伝令を持って走る。 「鳩は?」 「発った」 「予定通りだな」 「ここからが正念場だ」 我々のやり取りに、丁度いい屋敷がありました、と報告が横槍。恐らく、会議用に探させていたのだ ろう。 片手を上げて、ゼダスは応える。
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