そうこうしている内に私の足は砂地を捕らえ、そこで何度か時を刻んだ。 ああ旦那、早いですね、ゼダス殿なら奥ですよ、と口々に囚人が吼える。 まったく。こいつらはなぜにこうも他人に愛想を振り撒くのか。少しは牢の中で謙虚に過ごそうと、思うがいい。 溜め息を吐きつつ、両の手で首元を摩る。どんな健康効果があるのかは私も知らないが、体が欲するのだからそれはそれで有効なのだろう。と、結論したら、奥の房からなにやら怒声が聞こえた。 「いいからルイセールを呼んでこい!」 その声に複数の悲鳴が重なる。 私の名だ。声の主はゼダス。焦らなくてもここに居る。 石壁を数回叩き、私は彼の視線を待った。この階で――否、この『城』で最も大きな部屋だ(中で仕切りの部分を崩し、二部屋で一部屋となっている)。 自身の姿に、ゼダスは大袈裟に両腕を広げ、そして配下に命じて扉を開けさせた。 「待ってたぜ。我が剣」 剣は止めろ。お前のものではない、と返して、私は鉄格子を潜った。 アセドアは居ない。 ここではないいずこかで、また『供物』を求めているのか。私の杞憂を一笑に付し、ゼダスはこちらの肩を抱いた。 「まあ座れよ、相棒」 彼の言に、赤い巻き髪の女が酒を用意する。ゼダスの女だ。名は確か、トキシトラとかいったか。部隊の一つも任されていたような気がする。 ふん、と視線も合わさずに、トキシトラは踵を返した。水だった。 とことん嫌われているらしいな、と彼は笑った。ゼダスは、ここのすべてを牛耳る、老獪な男であった。それでいて、自らが先頭に立ち剣を振るう、好戦的な野獣でもあった。 肉付きのよい体格が、今にも爆ぜそうな筋肉を私の首に絡ませる。 座れって、作戦会議だ。 そう告げると、欠番だらけの首脳会議を開始した。もう三日も、議論は進展をみない。私にしても、それに関しては同じような意見しか口にできてなかったので、背後の壁に凭れ掛かり、今朝の夢に付いて考えることにした。 とはいっても、内容が余り頭に入っていないので、浮かんでくるのは別のことばかりである。特に、煩い周囲の討論は、こちらに過去の事柄を思い出させた。
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