ゼドウィックに花束を 
嘘を囲むテーブル 六

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 ふう、と溜め息を吐いて、私は額に指を当てた。彼は(一般人の常識で測っても)善人と呼んでいい人柄を有していたが、こういった事態に於いて、少々理解力に欠ける。対応力と判断力にもだ。  私は、自らの率いる部隊――五十名弱――が、よくも今まで失態を晒さなかったと、ほとほと感心した。  いや、と再度逡巡。  ほかの部隊の後片付けを任されていたのだから、それも納得のいく話だ、と二度ほど首肯しゅこう。  まったく。運のいいことこの上ない。  そんなこちらを尻目に、デュゼは両手をぽん、と鳴らした。 「隊長が居りゃあ、我々も大船でさ!」  こちらを鼓舞している心算だろうが、実は私の隊に単刑でここに放り込まれた者が居ないのは、私とゼダスだけが知っている。  ここへ来た当初、私の素性を知ったゼダスが、巻き込まれても支障がない人間を選択した結果である。私の『火』に。  そんなこちらをまじまじと眺め、デュゼは心配そうに表情を変えた。 「隊長。アセドアの旦那とまたなにかあったんで?」  二・三度首を左右させ、彼の言を否定する。もっとも、私としてはすぐにでもなにかあってもかまわない。  焚殺ふんさつすることができるなら、ほかのすべてを放ってそうしたい気分だった。常に。  だがゼダスは、アセドアを重要な戦力として認識していた。ここへ来る前、一度「アセドアが居ない」と彼に進言したが、 「腕を錆び付かせたくないんだろうよ」  と一笑された。  仲間は減ったら困るだろう、と食い下がってはみたが、 「奴は一人で百人はれる」  と再び無下にされた。  なんにせよ、私は奴が嫌いだ。顔も見たくない。金輪際。  奴の爬虫類を連想させる眼を思い出して、私は床を叩いた。 「だ……旦那……」  とデュゼが代わりに反応する。  私は、忘れてくれ、と彼に返して、その場に膝を立てた。  その時だった。  不意に階下で悲鳴が上がった。  なんだ! とデュゼと顔を見合わせ、急いで表へと足を走らせる。  独房の壁に。  まだ若い、女性の死体が貼り付けられていた。 「畜生! あの野郎!」  と赤い巻き髪が声を荒げる。トキシトラだ。どうやら『贄』は彼女の部隊の者になったらしい。 「殺してやる!」  そう叫んで、別の一人が剣を掴んだ。  その夜遅く、もう一つの死体が鉄扉に飾られた。

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