ゼドウィックに花束を 
嘘を囲むテーブル 五

作品に栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。

「ルイセール」  ゼダスは、こちらを見て笑った。 「今回の作戦はお前が鍵だ――『禁呪』使い」  彼の言に、ぴくりと眉根が反応したのを、自分でも実感できる。 「そう恐い顔をするな。俺はお前が気に入ってる」  目の前の男は、二・三度こちらを叩いて、さらに階下へと消えた。  ふん――。と鼻が独りでに鳴る。  私をそう呼ぶなとは何度も注意を促したが、あの男はまったく学習しない、しようとしない。  自らの尺度を持つ者の、典型的な例だ。  だが、私には、彼がなぜにそうするのかを知る必要があったので、今回は特別に見逃すことにした。あの男のやり口には。注意を払っておかなければ、いずれ甚大な被害をおよぼす。少なからず、そんな ふうに私は思っていた。  なぜなら――。  彼は、この国で最も厳格である筈の、この牢の番兵を味方にできる機転があるのだから。私は、一人顎に指を当てた。  コルゴラバテは。丸ごと彼に買収された。毎回の戦果の半分を、兵士どもは受け取っていた。それでも、我々は充分に私腹を肥やせた。なにをどうやったのかは、私は知らない。そして、当り前のように 我々は(六百二十二名は)自由を約束された。  今は私もその一員だ。  少なくとも、他人を守るための『力』でさえ罪とする、侯国よりは。  こちらが、よい。  罪状二十人殺し。そして家屋九棟の破壊。  それがつまり、アセドアと。トキシトラという両者だった。  特に口にするのも煩わしい前者に至っては。生きた儘苦痛を与え、老若男女の区別なく命を奪うという、愚行を生業としてここへ来た。  デザーテアの一室。我が隊の副長を任せている、デュゼという男の部屋だった。  要するに死刑囚といっても内容はさまざまで、この男のように公的資金の着服といった度重なる些事 《さじ》でここに放り込まれた者もいる。額が額なだけに決して笑える話ではないのだが、それにしても両異常者とは雲泥の差である。  彼は、締まりのない表情をさらに崩して、へえ、と声を発した。ここを出たらもう一度パン屋を開くのだ、と意気込んでいたのだが、すでに遠い過去のことのように感じられる。  彼は、もう一度こちらへ確認を取った。 「つまり、命令があるまでは好きにしていていいんですね?」 「そうじゃない」  と私は繰り返した。  何度言えば分かるのだ、と前置きをして、 「敵兵が着くまでは、住人の監視。そして待機だ」  こちらの声に、彼はようやく理解の色を示した。そう伝えます、と背後の三人へと片手を振る。  彼らは、一様にその場を発つと、それぞれが別々の方向へと走った。へえ、とまたデュゼが口を開いている。

応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません