「ルイセール」 ゼダスは、こちらを見て笑った。 「今回の作戦はお前が鍵だ――『禁呪』使い」 彼の言に、ぴくりと眉根が反応したのを、自分でも実感できる。 「そう恐い顔をするな。俺はお前が気に入ってる」 目の前の男は、二・三度こちらを叩いて、さらに階下へと消えた。 ふん――。と鼻が独りでに鳴る。 私をそう呼ぶなとは何度も注意を促したが、あの男はまったく学習しない、しようとしない。 自らの尺度を持つ者の、典型的な例だ。 だが、私には、彼がなぜにそうするのかを知る必要があったので、今回は特別に見逃すことにした。あの男のやり口には。注意を払っておかなければ、いずれ甚大な被害をおよぼす。少なからず、そんな ふうに私は思っていた。 なぜなら――。 彼は、この国で最も厳格である筈の、この牢の番兵を味方にできる機転があるのだから。私は、一人顎に指を当てた。 コルゴラバテは。丸ごと彼に買収された。毎回の戦果の半分を、兵士どもは受け取っていた。それでも、我々は充分に私腹を肥やせた。なにをどうやったのかは、私は知らない。そして、当り前のように 我々は(六百二十二名は)自由を約束された。 今は私もその一員だ。 少なくとも、他人を守るための『力』でさえ罪とする、侯国よりは。 こちらが、よい。 罪状二十人殺し。そして家屋九棟の破壊。 それがつまり、アセドアと。トキシトラという両者だった。 特に口にするのも煩わしい前者に至っては。生きた儘苦痛を与え、老若男女の区別なく命を奪うという、愚行を生業としてここへ来た。 デザーテアの一室。我が隊の副長を任せている、デュゼという男の部屋だった。 要するに死刑囚といっても内容はさまざまで、この男のように公的資金の着服といった度重なる些事 《さじ》でここに放り込まれた者もいる。額が額なだけに決して笑える話ではないのだが、それにしても両異常者とは雲泥の差である。 彼は、締まりのない表情をさらに崩して、へえ、と声を発した。ここを出たらもう一度パン屋を開くのだ、と意気込んでいたのだが、すでに遠い過去のことのように感じられる。 彼は、もう一度こちらへ確認を取った。 「つまり、命令があるまでは好きにしていていいんですね?」 「そうじゃない」 と私は繰り返した。 何度言えば分かるのだ、と前置きをして、 「敵兵が着くまでは、住人の監視。そして待機だ」 こちらの声に、彼は漸く理解の色を示した。そう伝えます、と背後の三人へと片手を振る。 彼らは、一様にその場を発つと、それぞれが別々の方向へと走った。へえ、とまたデュゼが口を開いている。
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