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【理子さんと僕2】

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・ ・【理子さんと僕2】 ・  部室を出て、廊下をまっすぐ行くと美術部の教室、だと思う。  昨日、美術部の教室だと思う前を通った時に、戸が開いていて、通り際に覗いた時にデッサンをしていたので間違いない、多分。  しかし来栖先輩は部室の前の階段を下り出したので、僕は驚いて声を出してしまった。 「ん? 美術部ってこっちだぞっ」  そう言いながらガッツポーズをする来栖先輩。  何のガッツポーズだろうと思いながらも来栖先輩についていくと、ついていくと、ついていくと……合唱部の教室だった。  いや! そう思いましたけどもっ! だんだん合唱部っぽい歌声が大きくなってくるなぁと思いましたけどもっ! 「部室を交換したのならば教えてくれればいいのに。菅沼め」  多分来栖先輩の思い違いだと思うんだけどなぁ。 「じゃあ美術部はどこだ? 菅沼……じゃなくてイチロー」 「今、僕のこと美術部さんの菅沼先輩と勘違いしていたんですかっ!」 「雰囲気とか、良いツッコミを飛ばすところが似ているんだ」  いや! 「良いツッコミて! そう言って下さるのは嬉しいですけども!」 「で、美術部はどこだ?」 「美術部は……多分……」  と言いながら僕は、あの昨日、デッサンをしていた部屋に案内した。  教室の中に入ると、扉の一番近くに座っていたメガネを掛けたクールな女性へ来栖先輩が話し掛けると、菅沼先輩と思われる人が、 「来栖じゃん。どうした?」 「おぉ、菅沼! ここ美術部か!」 「デッサンしてんだろ。どう見ても美術部だわ」  いやこの人が菅沼先輩か! いや全然雰囲気は似ていない!  僕メガネ掛けていないし、こんなオトナっぽくてクールな感じじゃない!  それにこんな水色に髪の毛染めていないし、そもそも性別も違う! 菅沼先輩は女性!  来栖先輩が言う。 「カフェの話、どうした?」 「……相変わらず言葉数が少ねぇな。悪い意味で」 「そりゃ言葉が少ないのは良い意味じゃないだろ! ハハハハッ!」  大笑いの来栖先輩。  何がそんなにおかしいのだろうか。  菅沼先輩が呆れながら、 「いや言葉数が少なくても良い意味はいる。陣がそうだろ。ボクはオマエが馬鹿だと言ってんだよ」  あっ、菅沼先輩って女性だけども一人称はボクなんだっ。  まあそういう人もいるだろうなぁ、この亀本高校はとにかく人が多いから。  髪の毛の色も、来栖先輩は赤だし、菅沼先輩は水色だし、そもそもこっちは変な部活だし、いろんな多様性を認めている高校らしいし。  馬鹿と言われた来栖先輩はハハッと笑ってから、こう言った。 「馬鹿て! もっとコミカルに言えよ! コミカルに!」 「何でコミカルならいいんだよ。早く用件言え。それとも隣の新入生が説明してくれんのかよ?」  そう、少々冷たそうな目でこちらを見てきて、ちょっと怖い。  でも今は来栖先輩という味方だっている。  そんなに挙動不審にならず、ちゃんと言うんだ。 「ラッシーさんに顔ハメ看板部を紹介して頂きましたよね、その話で来ました」  そう言うと、今度は菅沼先輩が大笑いをした。  何か変なことを言ってしまったのかと思い、恐々していると、 「いやホントに新入生が説明するんかい。馬鹿な先輩で大変だな。ボウズ」 「いえ、いつも空気を明るくして下さって優しい先輩です」  そう僕が真面目に答えると、少し考えるような間があってから菅沼先輩が話し出した。 「んっ、そうだな。悪い。尊敬する先輩のことを悪く言ってしまって悪かった」  と言って反省しているような表情を浮かべたので、 「いえいえ、全然、僕は大丈夫ですっ」  と少し悪くなってしまった空気をどうにかしないと、でもどうやって、と、思いながらあわあわしていると、 「何! イチローは俺のことをやっぱり尊敬しているのか! やったぜ! いぇい!」  と来栖先輩がジャンピング・ガッツポーズをしたので、ついつい僕も、菅沼先輩も笑ってしまった。 「そうだな。コイツはそうだもんな。いやいや。まあ分かった分かった。話進めるからな。ボウズ……じゃなくて、オマエの名前は何だ?」 「平井一郎です。みんなにはイチローと呼ばれています」 「そのままだな。まあそれが一番分かりやすいか。じゃあイチロー。基本的にオマエに話していくからな」  と言った菅沼先輩。  僕はちょっと戸惑いながら、 「いや、あの、来栖先輩にもっ」  と言うとそれを遮るように菅沼先輩が、 「そこはもう先輩を立てなくていい。無駄話の多さはもう分かっているはずだ。まあいいや。普通に話していくわ」 「はい、よろしくお願いします」 「確かにラッシーに顔ハメ看板部を紹介したのはボクだ。顔ハメ看板は芸術だからな」  ここで来栖先輩が嬉しそうにカットインする。 「だろうな! 素晴らしいだろ!」 「オマエの相槌はうるせぇ。で。それがどうした。イチロー」 「まず紹介して頂き、どうも有難うございます」 「いや礼儀正しいな。まあまあ。うん」  少しめんどくさそうに頷いた菅沼先輩。  どうやら早く本題に入ってほしそうだ。  僕はすぐに話し始めた。 「で、ラッシーさんにイメージを教えてほしいと言ったら自由に作ってほしいと言われました。しかしなかなか案が浮かばず、悩んでいました。そんな時に美術部さんの作品とコラボレーションしたらどうだろうという案が出まして。なので伺ってみました」  とツラツラ一気に喋ったところで、ちょっと分かりづらいかな、と自分で思ったその時、来栖先輩がこう言った。 「分かりやすく、かつ短く言うと、あ~~~~~~~~~~~~~ってなって、うわぁっ! うわぁっ! うわっ! うわぁぁあああああ! で、でもさ! そういうことだろ! 美術部と! 美術部へ! よしっ! コラボ! 案! だっ! いぇい! うぉぉおおおおおおお! という感じなんだ!」  いや! 「全然短くなってなかったですよ! むしろ僕より長かったですよ!」 「でも分かりやすくなっていただろう」 「もう抽象的につぐ抽象的で難解以外の何物でも無かったですよ!」  と僕がツッコむと、少し遠くを見ながら来栖先輩は、 「芸術肌ということか……まあそうだもんなぁ……」 「そんな良い感じに言ったわけではないですからっ!」  とツッコんだところで、菅沼先輩が、 「何だよ。オマエら。良いペアかよ。やっぱり顔ハメ看板部は面白いな」 「だろぉっ?」  と、すごく自慢気の来栖先輩。 「いや多分褒められていないです!」  僕は少々悲しくなりながらツッコむと、菅沼先輩は顔を少し横に振ってから真顔で、 「イチローのことは褒めている。来栖のことは馬鹿にしている」  と言ったので来栖先輩はデカい声で、 「何故同じように褒めないんだ! 俺は褒められると伸びるほうだぞ! そう日頃言っているだろ!」  僕はツッコむ。 「そんなことを日頃から言わなくても大丈夫ですよっ」  そして菅沼先輩は来栖先輩をあしらうように、 「あぁはいはい。来栖は画が巧い巧い。これでいいだろ」 「はい! 良い!」  そこで”良い”と答える感性すごいなぁ、と、素直に思った。  そして菅沼先輩が一瞬舌をペロッと出してから、こう言い放った。 「まあ話は分かった。だが。答えはノーだ」  僕は落胆しながら、 「……やっぱり、自分たちの課題は……自分たちで考えろ……ということですか……?」  と聞くと、菅沼先輩は一息ついてから、 「そんなメンドい教師みたいなことを言うつもりはない。全くもって方向性が違うんだ」  と言うと来栖先輩は慌てながら、 「どういうことだ? 教師って面倒なのか?」  菅沼先輩は強く溜息をついてから、 「オマエが面倒だわ。あのな。ボクたちの絵画は売るんだ。オマエたちの顔ハメ看板は客寄せだろ?」 「そういうことですか……」  僕は頷くと、来栖先輩が騒ぎながら、何故かキョロキョロしながら、 「どういうことだ! 誰か! 誰か説明をするんだ! できるだけ分かりやすく説明をっ!」  と言ったので、僕は 「説明を求める時の声の大きさすごいですねっ、天にも届く勢いですね」  と言うと、来栖先輩はへへっと笑いながら、 「神様に教えてもらったほうが早いかなと思って」  菅沼先輩は冷たくこう言い放った。 「いや。イチローから教えてもらえ。ボクより早い」  というわけで僕はすぐに説明をすることにした。 「あのですね、美術部さんの絵画は無くなるモノで、顔ハメ看板はずっと残るモノなんです」 「えっ! 顔ハメ看板を壊さず、ずっと置いてくれるのっ? やったぁっ!」 「いやそこの喜びはいいとしてっ、絵画は無くなるので、そことコラボしても意味無いんです」  すると来栖先輩は手をポンと叩いて、 「……なるほど! 大体分かった! 八十パーセントは分かった! あと二十パーセントちょうだい!」 「その二十パーセントがどの部分かはよく分かりませんが、無くなるモノとコラボしても元ネタが売られて無くなってしまうので、何とコラボしていたか分からなくなるんです」  そこで菅沼先輩が割って入る。 「まあ。運良く売れればの話だがな」 「ちょうどその二十パーセントでした!」  と言った来栖先輩へ、菅沼先輩は小馬鹿にするように、 「今の説明は五十パーセント分あったわ」  まあ僕は分かりやすいように、総括する。 「というわけで、もしかしたら他に声が掛かった文芸部もそうかもしれませんね。基本的には売ってなくなる、と」  それに頷きながら菅沼先輩が、 「まあ。文芸部なら何度も同じモノを刷るから、多少はコラボできるかもしれないが。一過性は一過性だろうな」  と言うと来栖先輩はうんうんと深く頷きながら、 「なるほどなぁ! 最後の言葉は一切分からなかったが、多分そういうことで合っているんだろう!」  菅沼先輩は少し顔を引きつらせながら、 「オマエ、一過性という言葉も分からないのかっ?」 「あぁっ! なんかあれか? サーカス一家みたいな意味か?」 「サーカス一家よりも普遍的な言葉だわ。一時的なヤツって意味だ」  と菅沼先輩は冷たく言い放つと、 「ならそう言えよ! 菅沼葉子!」 「それはそう言わなくていい。フルネームで言わなくていい」  と言ったところで、僕は何気なくこう口にした。 「だからヨーチンなんですね」 「えっ。。。」  と言葉を漏らした菅沼先輩。  それに対して僕は『しまった』と思った。  ついラッシーさんがしきりに言っていた菅沼先輩の呼び方、ヨーチンを言ってしまうなんて。  他の美術部のみなさんが、僕の”ヨーチン”でクスクス笑っていた。  菅沼先輩は長い溜息をつくと、メガネをクイと上げながら、こう言った。 「おい。来栖。オマエの後輩。ドSだぞ」 「エスってたまに言うけどもなんだ、スーパーの略か?」 「そういう言葉も知らないのかよ。まあスーパーだな。もはやスーパーだわ。合ってる合ってる」 「また合ってしまった……今日は頭良いかもしれないな」  と嬉しそうに自分で自分を感心しているような来栖先輩に、僕はツッコむ。 「いやサーカス一家の時、完全に間違えていましたよ!」 「それを忘れていた。それが俺の敗因だ」  そのやり取りを見た菅沼先輩は笑いながらこう言った。 「いやまあ。良い組み合わせだな。本当に」  そして僕のほうを見て、 「来栖にはドSくらいがちょうどいい。ただ。ボクにはもう刃を向けないように」  そう言って恥ずかしそうに笑った菅沼先輩。  怒られると思っていたが、笑って許してくれたようだ。  良い先輩で助かった。  ただ、ただだ、最初の目的で言えば、何も達成することはできなかった。  何故か来栖先輩は妙にゴキゲンだったが、僕は成果無しでスゴスゴ部室に帰ってきた。  それにしても来栖先輩は、どこにそんなゴキゲンになる要素があったのだろうか。 「帰ったぞ!」  来栖先輩は勇ましく手を挙げて凱旋。  顔ハメ看板部に教室に入ると、木の香りがぶわっとしてきた。  どうやら板をノコギリで切る練習をしていたらしい。 「もぅ! 腕が疲れたんだからぁん! 体力を補充しなきゃぁん!」  と言って僕を強く抱き締めてきた理子さん。  いやそんなに強く抱きしめたら腕が疲れるでしょっ。 「で、どうだった」  大場先輩の問いに来栖先輩は、 「俺の敗因は忘れるところだった」  すぐさま大場先輩は僕のほうを向いて、 「意味が、分からない。イチロー、頼む」  僕はいつの間にか完全に説明担当になっていた。  一旦理子さんから離れて、説明をした。  絵画は無くなるので、コラボしても、元ネタが無くなるから意味が無い、と。 「そうか、確かに、そうだな。また一から、考え直しか」  と大場先輩が溜息をついたが、来栖先輩はかなり元気に、 「いやでも悩んでいても仕方ないから、とりあえず今度は図書室行こうぜ! イチロー! そこで何度も撮りたくなるような看板のモチーフを探してくるぞ!」 「えぇん! またすぐどこかぃっちゃうのぉん!」  そう言って僕の手を握ってブンブン振り回す理子さん。  いや腕の力まだまだいっぱいあるじゃないか。 「じゃあ理子さんもくる?」 「ぃくぃくぅん!」 「ダメだ。理子は、ここで、練習、してろ」 「えぇーもぅー! じゃあおんぶしてぇ!」  そう言って中腰になっていた大場先輩の背中に抱きついた理子さん。 「じゃあ、ちょっと、おんぶ、してやるから、そうしたら、また、練習、するんだぞ」 「あっ! じゃあ抱っこにしてぇん! ゆりかごダンスのように抱っこにしてぇん!」 「はいはい、分かった、分かった、抱っこに、して、揺らしてやる」  そう言うと、大場先輩は理子さんをお姫様抱っこをして、優しく揺らし始めた。  大場先輩も面倒見の良い先輩だけども、理子さんはちょっと甘えすぎじゃないかな、と、ちょっとモヤッとした。  いやモヤッとすることは無いんだけども。ちょっと僕が真面目すぎるのかな。  でも大場先輩も嫌がっていないし、それでいいのかぁ。

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