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・ ・【あるんの里】 ・  車内。  大場先輩が次の目的地の名前を言う。 「次は、道の駅の、あるんの里、という、ところだ」 「ミチノエキだとっ! 大丈夫か、そんなビチャビチャなところへ行って!」  何だか来栖先輩のイントネーションと台詞がおかしい。  台詞はいつもおかしいが、特にイントネーションがおかしかった。  とりあえず僕はツッコむ。 「道の駅は別にビチャビチャじゃないです! 暑さ対策のミストがあったとしてもです!」  そこで理子さんが何か分かったかのような顔をしてから、こう言った。 「もしかするとぉん、駅を液体の液と勘違ぃしてぃるんじゃないのぉん」  それに対して来栖先輩は、 「理子! そりゃそうだろ!」  僕は即座にツッコむ。 「いやその液じゃないです! 電車とかの駅です! リキッドじゃなくてステーションのほうです!」  来栖先輩はちょっとムッとしながら、 「イチロー! 難しい漢字は大学生になってからだろ!」  と言ったので、僕は若干焦りながら、 「英語です! めちゃくちゃ英語でした!」  菅沼先輩は溜息をつきながら、 「英語で言っても、こんな馬鹿は分からないだろう。これはイチローの落ち度だな」 「いや菅沼先輩! 落ち度こっちなんですかっ!」  僕の疑問は一刀両断する菅沼先輩。 「百パーセント、イチローの落ち度だな。普通に電車とかの駅だけで良かったのに、話が長くなった」 「ちょっとぉん! 菅沼先輩、イチローを責めないで下さぃっ! イチローを責めていいのは私だけぇん!」  そう言って理子さんは僕の首元をツンツン指で突いてきた。  いや、 「意味無く僕を責めることもダメだから!」  でもツンツンを止めない理子さん。  ちょっと、くすぐったいなぁ。  それを振り返って見ていた菅沼先輩は、 「仲が良いな」  と言って、またお菓子を食べ始めた。  いや結構お菓子食べるなぁ。  と、流れが一段落したかと思ったら、来栖先輩が、 「いやじゃあ謎のビチャビチャじゃないんだな! いやでも本当にそうなのかっ?」  と、ぶり返してきた。  ぶり返しがちだなぁ。  というか謎のって何だ?  ……そうか、未知の液か。  道の駅を未知の液だと思っていたのか。  何だ、未知の液へ行くって。  そこが”あるんの里”という名前ってどういうことだ。  えっと、 「道路とかの道に、電車とかの駅で、道の駅です!」  来栖先輩は頭上にハテナマークを浮かべながら、 「道に、駅……いやどういうことだよ!」  僕はなんとかツッコむ。 「とにかくそういう施設があるんですよ! 商業施設です!」  と言ったところで、また菅沼先輩がカットインしてきて、 「イチローはまたミスを犯したな。商業施設じゃなくて買い物するところだ」  いや! 「もうそれなら菅沼先輩がツッコんで下さいよ!」 「面倒なんだ」 「とぃうかぁん! イチローを犯していいのは私だけぇん!」  そう言って理子さんは僕の耳にふぅっと息を吹きかけてきて、ゾクゾクした。  というか! 「ちょっと! 犯してという日本語もよく分からないし、それが息を吹きかけるって何でっ!」 「言葉も体も私が開発してぃくからねぇん!」  そう言って笑った理子さん。  来栖先輩も言葉が分からないほうだけども、僕も実際理子さんの言葉が分からない時があるなぁ。  勉強しなきゃ。 「まあ犯すとかそんな日本語よりも、イチロー。ボクたちにはお菓子だろ」  そう言って菅沼先輩は茎わかめの袋を僕にくれた。 「ありがとうございます。そうですね、僕もお菓子派ですね」  とお礼を言うと、理子さんは嬉しそうに、 「もぅ! イチローはキャンディーボーイなんだからぁん! 可愛ぃ!」 「いやこれキャンディーじゃなくて茎わかめ!」 「私はイチローの下半身の茎をペロペロしたいなぁん!」 「僕の下半身に茎なんてないよ! 人間しかないから!」  そんな会話をしつつ、僕たちは、道の駅、あるんの里に着いた。  ラッシーさんが車内から出て、開口一番、 「いいぜ! いいぜ! 食と農のテーマパークだぜ! しっかり買い物していくぜ!」 「ラッシー! その前に顔ハメ看板だ! ここの顔ハメ看板は……ゆるキャラ! の! 子供!」  来栖先輩が言った通り、確かにゆるキャラの子供、というか赤ちゃんだった。  ゆるキャラが負ぶい紐で赤ちゃんを背負っているのだが、その赤ちゃんの顔に穴が空いていた。  大場先輩はそれを見て、 「決して、ゆるキャラには、なれない」  その言葉を受けて理子さんは、 「そうぃぇば、何でゆるキャラの顔ハメ看板ってぇ、ゆるキャラ自体には穴が空ぃてぃなぃのぉん?」  と言ったので、僕は思っていることを言った。 「多分ゆるキャラになりたいという願望を叶えるよりも、ゆるキャラと一緒に写真を撮りたいという願望を優先しているんじゃないかな」  それに同調する大場先輩。 「オレも、イチローが、言った、通りだと、思う」  納得した理子さんはちょっとニヤつきながら、 「でも赤ちゃんになりたいってぇ、ちょっとぉ業が深いねぇん。とぃうわけで赤ちゃんはイチローがなるとぃぃのぉん」  と言ったので、僕はちょっとドキっとしながら、 「えっ! それ何らかの悪口じゃないよねっ!」  理子さんは首を横に軽く振って、 「赤ちゃんみたいに可愛ぃってことよぉん、猫顔で可愛ぃもん! イチローはぁん!」 「まあ、別に僕は可愛くないけども、悪い意味じゃないならいいや」  そう言って僕は顔をハメて、デジタルカメラを持った理子さんから写真を撮ってもらうことに。 「赤ちゃんだから笑ってぇん! 笑ってぇん!」  僕は精一杯笑うと、 「ちょっとぉん! イチローぉ! 可愛ぃすぎぃん!」  と言って、理子さんがむしろ僕より笑っちゃって、全然写真を撮ってくれない。  さすがに、この看板でずっといるのは恥ずかしいなぁ、と思ったその時、シャッターを押した。 「ちょっ、マジでイチロー可愛ぃ……この少し恥ずかしそうな顔が最高ぉん……」 「いや笑っている時に撮ってよ! ちょっと顔がズレた時に撮らないでよ!」 「うぅん、これは永久保存版ん……」 「面白い顔だからって残さないでよ!」  と僕は少し強めにツッコむと、理子さんは 「違う違うぅん、面白いとかじゃなぃから残すねぇん、すぐに転送しちゃぉぅ!」  そう言って理子さんはデジタルカメラから自分のスマホに写真を転送した。  理子さんに言われるがまま、僕がデジタルカメラを操作して、理子さんは自分のスマホを操作して。  まあ悪い意味じゃないのならばいいけども、ちょっと恥ずかしいなぁ。 「まだまだ、顔ハメ看板は、あるぞ」  大場先輩が指差すほうには、ハエトリソウの実写の看板があった。  大場先輩が続ける。 「ここは、植物園が、併設されて、いるから、ハエトリソウの、顔ハメ看板も、あるぞ」  しかし僕は少し困惑しながら、 「……大場先輩、ハエトリソウは看板なだけで、顔ハメ看板じゃないんじゃ……」  それに来栖先輩が大きな声で、 「いや! イチローよく見ろ! 穴が三つ空いているぞ!」  ハエトリソウの看板の真正面まで歩いていくと、なんと穴が三つ確かに空いてあったのだ!  しかし理子さんは困りながら、 「でもぉん、ハエトリソウの上部に空ぃた真ん中の穴はぃぃけどもぉん、その下に、穴を線で結ぶと二等辺三角形になるように空ぃた穴はちょっと小さぃかもぉん……」  でも小顔の理子さんなら大丈夫だろうなと思っていたが、どうやらその小さな穴は顔を出す穴では無いらしい。  看板の後ろ側に行った来栖先輩が説明書を読んだのだろう、大声でこう言った。 「下の二つの穴は手を出す用の穴だ!」  僕は驚愕しながら、 「えっ! 顔ハメ看板なのに手を出せるんですかっ!」  そこで大場先輩が冷静に、 「実際、他県には、ヘソを、出せる、顔ハメ看板も、あるからな」  確かに、 「そう言えばそんな話、前に来栖先輩も話しましたね」  すると、やけに理子さんが嬉しそうに、 「やぁん! イチローのヘソを見たぁぃん!」  いや、 「ヘソはいいとして、手が出せるってすごいですね!」  と、僕が言うと、理子さんが僕の手を握りながら、 「私もぉイチローに手を出しそうぅっん」  僕は慌てながら、 「いや殴らないでね! 理子さん!」  理子さんは何故か不満げな表情を浮かべながら、 「そっちの手じゃなぃんだけどなぁん……」  何だろうと思う暇も無く、来栖先輩がデカい声で、 「じゃあ早速俺がハマるから写真を撮ってくれ! 連写で!」 「いやまあ連写では撮りませんが、普通に一枚撮りますよっ」  デジタルカメラを持っていた僕が写真を撮るわけだけども、ハエトリソウから顔を出す来栖先輩……いやシュールだな!  ハエトリソウに捕まっているどころか、もはや顔と手以外、既に溶けている状態じゃないか!  そして来栖先輩の無表情! 無表情と相まって、もう死んでる顔じゃないか! まあそうなんだろうけども! 「はい、キウイ」  僕は写真を撮り、駆け寄ってきた来栖先輩に写真を見せると、来栖先輩はさらに上機嫌になった。 「こんな顔ハメ看板はあまり無いから楽しいなぁっ! こうやって看板が画じゃなくて写真というのも面白いな!」 「巨大資本が、成せる、技だな」  僕たちは一通り顔ハメ看板を撮り終え、あるんの里で買い物をした。  僕はハエトリソウのストラップをウキウキしながら買って。  理子さんは天然蜂蜜を買ってうっとりして。  来栖先輩は即決で野菜コロッケを買って一気食い。  大場先輩は旅館の部屋でつまむ用のミニトマトを買って。  菅沼先輩はポン菓子を買いだめして。  ラッシーさんは一番迷った挙句、結局何も買わなかった。  次は山から徐々に海のほうへ。  昔ながらの街並みが見れるところだ。

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