顔ハメ看板部へようこそ!
【図書室で案を考える、そして】

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・ ・【図書室で案を考える、そして】 ・  さて、僕と来栖先輩はまた部室を出て、階段を下りて、ついていって、ついていって、ついていって…………合唱部の教室だった。  いや! そう思いましたけどもっ! だんだん合唱部っぽい歌声が大きくなってくるなぁと思いましたけどもっ!  あれこれもしやっ、と思いましたけども! あまりにも自信満々に進んでいったからぁっ! 「また教室を交換していたか、合唱部め」  と来栖先輩が言ったので、僕は 「いやいや百歩譲って美術部はそうでも、図書室と音楽教室は教室の規模が違うので交換はしていないですよ!」 「確かに一理ある考え方だが、俺はこの高校二年目だぞ。イチローより半年早くいるんだぞ」 「いや一年です。僕、半年前から一年生やっているわけじゃないです。留年していないですっ」 「ゴメン、結構馴染んているから出会ってつい半年くらいかなと思ってしまった」  と来栖先輩が言ったところで僕はドキッとした。  そして、 「馴染んで……って! いますかっ!」  馴染んでいるという言葉が嬉しすぎて、つい変になってしまった。  僕が誰かと馴染むなんてこと、今まで一度も無かったので、勘違いとは言え、すごく嬉しかった。  というかどんな勘違いだ、まさかわざとそう言って、僕を喜ばせて下さったのでは……!  そうだとしたらすごく優しい先輩だ、僕が今まであまり周りに馴染めていない人生だったことを見抜いて!  今、来栖先輩は考えられないほど間抜けな表情を浮かべているが、きっとそうに違いない! 「馴染んでいますかね! 僕っ!」 「あぁ、めちゃくちゃ馴染んでいるぞ! バシンとツッコんでくれてすごい心地が良いぞ!」 「どうもありがとうございます!」 「こっちの台詞だろ!」  そう言って明るく太陽のように笑った来栖先輩。  この部活に入って良かったなぁ。 「で、何するんだっけ?」  この部活に入って良かったのかなぁ……僕は答える。 「とりあえず僕が昨日、ホームルームで受け取った学校の地図を見て図書室へ行きましょう」 「最新のヤツだな!」 「いや多分図書室だけは場所変わっていないと思いますっ」  そして図書室に着くと、思っていた以上に広かった。  確かに地図の段階から結構広く表示されているな、と思っていたが、いざ来てみるとかなり広い。  普通の教室の八倍くらいあるように見える。  さすがデカい高校だけある。  この高校、本当にクラスも学科も多いし、部活動も把握しきれないくらい多いみたいだからなぁ。  僕は言う。 「ここからモチーフ探すの、逆に大変ですね……」 「でもやりがい! やりがいしかないな!」 「来栖先輩がポジティブで助かります。いや本当に……」 「じゃあいいの見つけたら教えてくれよな! 手分けしていくぞ!」  そう言ってどこかに行きそうになったので、僕はなんとか止めて、 「ところで来栖先輩、いいのって何ですかっ? そのいいのを決めずに来ましたけども大丈夫なんですかっ?」 「まあ大丈夫だろ! いいのって見た瞬間に衝撃を感じるから大丈夫だ!」  そう言って来栖先輩はとりあえず奥のほうへ走っていった。  明らかに小説と書かれた棚のほうへ走っていった。  来栖先輩は走り出すとダメかもしれない、と思った。  僕は図鑑の棚から見始めた。  しかし当然漠然とした”いいの”には出会えない。  やっぱりある程度、あたりを付けてから行動するべきだったのでは、と思い始めていた。  動物、魚、植物、料理、いろんな図鑑を見ても、イマイチ、ピンとこない。  それはもしかしたら、僕に顔ハメ看板の引き出しが少ないからかもしれない。  やっぱりもっと商店街で顔ハメ看板を見たかったなぁ。  顔ハメ看板。  つまり顔だ。  顔を出す、看板。  それが顔ハメ看板。  そうなりたいという願望を叶えることが基本的な行動理念の一つ。  でも人によって、なりたいというモノは別々だ。  観光地に行けば、とある観光地に狙っていけば、その観光地に興味があるわけだから、その観光地でしか味わえない恰好で写真を撮りたいという願望は一致する。  しかし美術部の画に興味がある人が来て、文学部の同人誌に興味がある人が来て、単純に食事に来る人が来て、人の需要は一致しない。  そんな統一性の無い人々がみんな喜ぶ、顔ハメ看板とは。  いや統一性はある。  普通に食事するなら普通の食事処に行けばいい。  ラッシーさんのお店に来るということは、いろんな変わったモノを見たい人だ。  絵画だってプロの絵画ではなくて、若い感性を持った学生の絵画を見たい人。  同人誌だってそういうことだ。新しい何かが見たい人がやって来るんだ。  というと顔ハメ看板も新しい何かがいい。  誰かの恰好になるのではなくて、キャラクターと一緒に撮りたくなるのではなくて、看板が主役というよりも撮られる人が主役のような顔ハメ看板を。  その時、一つの案が浮かんだ。  僕は図鑑の棚から離れたその時、来栖先輩が僕を見つけて、こう言った。 「イチロー、まずはモチーフ選びからだ。まだ漫画の出番じゃないぞ。三枚考えないといけなくて、まだ一枚も浮かんでいない」  しかし僕はこう答える。 「いえ、来栖先輩。漫画を作りましょう」 「いや顔ハメ看板部は漫画部じゃないぞ。同人誌は作らないぞ」 「そうじゃないです。顔ハメ看板で四コマ漫画を作りましょう!」 「それはそれは縦長のモノを作る気だな!」  いや、 「そうじゃなくて、一枚一コマです! ラッシーさんも三枚じゃなくて、三から四枚って言っていたじゃないですか!」 「なるほど! そういうことか! で! 詳しくお願いしますっ!」  もう来栖先輩がこう言うのはいつもの流れだ。  それにはいちいちツッコまず、説明を始めた。 「何かになる、何かと撮る、じゃなくて、自分が主役になる顔ハメ看板を作りたいんです!」 「何だかまだまだ分からないが、よしっ! 一旦部室に戻るぞ!」  僕と来栖先輩は部室に戻り、僕はみんなに説明をし始めた。  またいつもの並びで席に座ったが、僕の席には来栖先輩が座り、僕が黒板の前に立った。  僕は、一枚一コマの四コマ漫画の顔ハメ看板を作るという考えを説明した。  理子さんは嬉しそうに、 「つまりぃ、ハメる人がぁ遊ぶ顔ハメ看板ということぉん? それいいと思うぅ! さすがイチローぅん!」  しかし大場先輩は少し表情を曇らせた。 「しかし、本来、顔ハメは、看板が、主役」  それに対して来栖先輩も同調する。 「確かにそう習った!」  そして大場先輩が続ける。 「ハメた、人間は、看板を、邪魔しない、表情を、することが、第一だと」  本来はそうなんだ。  ということは僕の考えは真逆だ。  看板じゃなくてハメる人が主役という考え方だから。  やっぱり良くなかったのかなぁ、と思ったその時だった。  来栖先輩が叫んだ。 「確かに作法としては陣の言う通りだ! だがここはイチローの新しい考え方を推したいと思う!」  それに大場先輩も頷く。 「そうだな。そっちほうが、みんな、楽しんで、もらえそうだ」  理子さんも同調し、 「作法は作法としてリスペクトしてぇん! 私たちは自由に遊びましょぅん!」  ということは。 「イチローの案に決定!」  そう言ってジャンプするようにイスから立ち上がると、来栖先輩は黒板の前へやって来て、 「ここからは俺が仕切るから任せとけ!」  と僕の肩を叩いたので、いつもの席に戻った。 「でもぉん、このままイチローが仕切ったほうがぁん、話が早いんじゃないのぉん」  と理子さんが言うと来栖先輩は情けなく、かつ、しんみりとしたお通夜の顔で理子さんを見たので、 「ぃやでも元気の良ぃ来栖先輩の司会っぷりもぃぃわぁん」  と空気を読んでそう言うと、来栖先輩は菩薩のように微笑んだ。  いやそこはオーバーリアクションじゃなくて、菩薩なんだ。  そして来栖先輩は喋り始めた。 「さて、わざわざお集まりいただき誠に有難うございます。今日は、そうですね、四コマ漫画の案を考えるのですね。よろしくお願いします」  いや菩薩感が出ちゃってる。 「来栖先輩の元気な姿を見たぃん!」  と黄色い声援を理子さんが送ると、少し猫背だった来栖先輩は背筋が伸び、 「よしっ! じゃあ良い四コマ漫画を作っていくぞ!」  と、いつもの張り切り声に戻った。  それを見て聞いて、ホッと一息をついた理子さん。 「何度も撮りたくなるような看板を考えるぞ!」  声を上げる来栖先輩。  いやでも、何度も撮りたくなるような看板、というと、相当面白くないとダメだろうなぁ。  でも面白い四コマ漫画なんて果たして思いつくのだろうか。  僕は大きな不安と、何か間違っているようなトゲを感じていた。  理子さんは首を傾げながら、 「何度もぉ、撮りたくなるような看板ってぇ、どういう看板かなぁ」  と言うと来栖先輩は勿論といった感じに、 「やっぱり面白い看板だろうなぁっ! というわけでオナラを主軸にしたいっ!」  理子さんはそれには嫌な顔をしながら、 「えぇー、ちょっと下品じゃないのぉん」  大場先輩もそれに同調する。 「確かに、食事も、出すところで、オナラは、安易、というか、不用意な安易、というか」  しかし来栖先輩はハイテンションで、 「食事も出す! オナラも出す! 顔を出す! ウケを出す!」  僕は少し悩んでから、こう言う。 「設置してある看板でその勢いが出るのならいいですけども、出ませんよねっ」  それに大場先輩は首を横に振りながら、 「勢いが、出たところで、だ」  来栖先輩は少しムッとしながら、 「じゃあ逆に聞くが、みんなが面白いと思うモノって何だ? 逆に聞いたが」  僕はツッコむ。 「全然逆じゃないですよっ、正当な流れですよ」 「やっぱり私はぁ、イチローが楽しくて好きぃ!」  そう言ってイスを近づけ、僕の手を握ってきた理子さん。  いやでも、 「それは個人的な気持ちというか、いや個人的に僕のことを好いてくれていることはすごく嬉しいけどもさっ」 「嬉しぃぃん?」 「うん、友達からそんな好かれたことないから、すごく嬉しいよ」  そう言うと何故か少し不満そうな顔をしながら理子さんは、 「友達かぁん、そうだよねぇん、友達だもんねぇん……」  と言ったので、どうしてだろうと思ったが、もしかするともっと踏み込んだほうがいいのかなと思った。  いやでもまだ出会って二日で”そんな”言い方をしたら迷惑かもしれない。  やめよう。  ネガティブに考えることは、やめよう。  理子さんが僕に思い切りぶつかってきてくれているんだから、僕もぶつかるんだ。  だって理子さんの不満そうな顔なんて見たくないから。 「いや! 親友だね! 僕たち!」  つい大きな声が出てしまい、来栖先輩と大場先輩はポカンと口を開けて、僕のほうを見た。  う~、やってしまった……恥ずかしい……穴があったら入りたいと思った。  すると、理子さんは僕のことをイスに座りながら、抱きついてきて、 「言わせちゃってゴメンねぇん……でも言ってくれて私も嬉しぃよぉん……でもホントはぁ……いやでも、うぅん、今はそれが最上だねぇん」  と言ってくれた。  でもホントは、って何だろうと思ったけども、今はそれが最上だと言ってくれたし、良かったんだ、と、ホッと息をつくと、 「ちょっとぉん、イチローぅ、えっちな息を耳に掛けないでよぉん!」  と言って僕から離れて、顔を真っ赤にした理子さん。 「いやいや! 息を耳に掛けたつもりは無かったんだって!」  と慌てて喋ると、来栖先輩が、 「イチローはえっち、と……」  と言いながら黒板にメモし始めたので、 「何でそれをメモしているんですかっ! というかえっちじゃないですよ!」  僕は焦りながらツッコむと、来栖先輩は 「いや、とにかく出てきた情報は全てメモして四コマに生かしたいな、と思って」 「ここの情報は全くいらないですよ!」  と何だかすごく焦ってしまい、額から汗がぶわっと吹き出した。  その様子をじっと見ていた大場先輩がポツリとこんなことを言い放った。 「オマエたち、コロコロ表情が、変わって、面白いな」 「面白がらないで下さいよ! 来栖先輩の変なところを止めて下さい!」 「来栖は、いつも、変だから、止めようが、無い」  そう言うと来栖先輩は少し怒りながら、 「変じゃない! 俺は決して変じゃないぞ! ほら! 陣! 俺を止めろ!」  と言いながら手を大きく広げた。 「いや、どういう、ことだよ」  大場先輩は呆れるようにそう言うと、 「陣の力で俺を抱き締めて止めるんだ! 今、止めないと俺爆発しちゃうからな!」 「何故、急に、爆発に、舵を、切ったんだ」 「たまには構ってくれ! 出来れば可愛がってくれ! 俺を何かのキャラクターだと思え!」 「また、馬鹿みたいなこと、言い出したな、全く」  そう言うと大場先輩は立ち上がり、来栖先輩のことを抱き締めた。 「よし! 爆発が止まっ……いててててて! 陣! 強い! 抱き締める力! 強い!」 「来栖が、うるさい、からな」 「イタイ! イタイイタイイタイ! 爆発する! 爆発しちゃう! これは!」  『お助けーっ』と言ったような情けない表情で大慌ての来栖先輩。  その光景に僕と理子さんは爆笑してしまった。  それを見た大場先輩が、 「良かったな、イチローと、理子が、爆発したぞ」 「いやいやいや! イタイ! 爆発しちゃダメなんだよっ! そして俺も爆発しちゃいそうだよ! ギブ! ギブ!」  やっと大場先輩が来栖先輩を抱き締め終えた時には、口からヨダレが垂れるくらい疲れ切った来栖先輩がそこにいた。 「面白い顔でしたよぉん! 来栖先輩ぃ!」  理子さんが手を叩きながらそう言うと、来栖先輩は 「そんな面白いは望んでいない!」  と言った時、僕はあることを思いついた。 「そうですよ! 顔ですよ!」  来栖先輩は手で制止のポーズをしながら、 「大丈夫だ! イチロー! 俺は面白い顔をしていない!」  いや、 「そうじゃなくて、四コマ漫画の案ですよ!」  そう僕が言うと、大場先輩が僕のほうに身を乗り出し、 「良い案が、浮かんだのか、教えてくれ」  僕は拳を強く握りながら、 「面白い四コマ漫画を作るんじゃなくて、面白い四コマ漫画を作ってもらうんです!」  理子さんは頭上にハテナマークを浮かべながら、 「どういうことぉん?」 「顔の演技、顔の面白さで四コマを作るような台詞にするんです!」  僕は黒板の前に行き、考えた案を書き始めた。 「こんな感じでどうでしょうか!」 『1:A「ヤバイ……」    B「どうしたんだよ」  2:A「大事なモノが無くなった」    B「えぇっ?」  3:A「どうしよう」    B「そんな顔するなよ……」  4:A「……」    B「いやそれはどういう表情だよ!」』  大場先輩が大きく頷いて、 「なるほど、これは、シンプルで、良いな」  理子さんも納得して、 「オチで好きな顔が出来るのもいいわぁん」  来栖先輩も手を叩いて喜び、 「おぉ! これなら何度でも撮りたくなるような看板になっているな!」  みんなが喜んで下さったのは嬉しいけども、僕にはこの懸念があった。 「でも一人で来たお客さんは楽しめないところが良くないですよね……写真はラッシーさんに撮ってもらうにしても」  そう言うと、来栖先輩と大場先輩はニコニコした。  何でだろうと思うと、 「そこは、心配、するな。やりようは、ある」  と大場先輩が言い、今度は大場先輩が黒板に画を描き始めたので、僕は一旦席に戻る。  そして大場先輩が言う。 「顔ハメ看板の、穴に、蓋を、付けて、蓋に、画を描けば、一人でも、楽しめるように、作れるんだ」  そんな方法があるなんて想像も付かなかったので、僕は驚いた。 「あとはそうだな、大事なモノのくだりも、もう少し遊べそうだな」  そう言って来栖先輩は、二コマ目のAの頭に吹き出しを描き始めた。  そこに財布の画を描いた来栖先輩。 「こう描けば財布を無くした顔ができるわけだな、そして……」  と言うと、また画を描き始め、今度は指輪の画を描いた。 「こう描けば指輪を無くした顔ができるわけだ、微妙な違いだが、演技を変えることができる!」  僕はよく分からず、 「いやでも画は一つしか描けませんよっ」  と言うと、大場先輩が優しくこう言った。 「その場合は、紙芝居の、紙のように、好きな画が、描かれた紙を、置けるように、作ればいい」  理子さんが驚きながら声を上げる。 「なるほどぉん! そして裏面にぃ、画が描かれた紙をストック出来る部分を作るわけですねぇん!」  みんなで、どんどん案を出し合って完成に近づいていく様子がすごく気持ち良かった。  今まで生きてきた中で一番、一体感を抱いた。

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