メルヘン・ヴェルト ~世界に童話を~
第01話「ハッピーバースデイ・ダウングレードワールド!」

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「ハッピーバースデイ・ダウングレードワールド!」  花火が上がった。  オレのツレである女の両手から。ド派手に、カラフルに、空高く。  左の耳元に造花である青色の朝顔を一輪さし、空と同じく晴れやかに笑っているその姿は実に愛らしい。  愛らしく、世界が変わってしまった事を祝っている。  ……一年、か。  世界が一変して一年――  始まりは一人の少女だった。 『人形に育てられた』少女が発見されたのは今からぴったり一年前。  一周年記念だから花火が上がり、オレはこうして思い出している。  日本のとある田舎の小さく古びた神社で発見された日本人と思われる少女の右手にはどこの誰を模して造られたのか全長三十センチメートルの少年の人形。人形の肌は白く、しかし目は黒く、髪に至っては透明であった。  もちろん、動くはずもなし。  だが、しかし。  少女はこう言うのだ。 「この“チャーミング”にワタシは育てられたの」  ――と。  もしチャーミングが狼だったならばまだ納得も出来よう。人が獣に育てられたと言う事例は少なからず存在するから。  けれども少女が右手に握るのは間違いなく人形で。物言わぬ、動かぬ人形で。  なに、仕方あるまい。  少女はまだ幼子であった。七歳程度であった。  大人たちは少女の幼さに加え精神的に病んでいるのだろうと結論づけた。それが納得の出来る解答であった。みんなを納得させられる解答であった。  だが、しかし。  問題はそこで終わってくれなかった。  少女のもう一方の手、左手。そこに篝火さえなければ終わっていただろう。  小さな金の檻に閉じ込められた蒼い火。なにを燃料に燃え続けているのか一切わからない熱を持たぬ火。  少女は静かに、その火を地上に落とした。  燃え広がる火。  大地を焼き、樹々を焼き、都市を焼き、動物を焼き、虫を焼き、魚を焼き、終いに人すらも焼き尽くした。  ところが誰も死なずに。  ただ『世界が焼かれた』。  日本が誇るスカイツリーは水晶にとって代わられ、コンクリートは木材にとって代わられ、樹々は白亜の石材にとって代わられ。 『世界のレイヤーが一枚、或いは数枚焼かれたのだ』  と結論づけられたその現象は科学によって彩られた現代社会をファンタジーの世界に入れ替えてしまった。  少女は人形と共に姿を消し、人間は夢でも見ているかのような世界にただ取り残されて。  そんな世界にオレたちは今、きている。

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