メルヘン・ヴェルト ~世界に童話を~
第11話「『ロスト・パラベラム』ってあの島だよね?」

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☆――☆ 「キス、まだみたいね」 「そんな残念そうに言わんでくださいスゥさん……」  工房に戻り、学校、そして妖精たちとの顛末を話したのだがスゥさんの反応はこれですよ。意外と大変な事態だと思うのですがキスの方が大切なんすか……。 「ま、若いものね。張りきって明日にしましょうか」 「「いやしませんて!」」 「じゃ、わたしは魔法石まほうせきの精錬に戻るわね。一時間自由にしてて良いわよ。一時間。なんなら二時間」 「「なんの時間⁉」」 「じゃあね~」  ひらひらと手を振って、隣室へと入っていく。  静かに扉が閉じられるとし~~~~~~んと超静かになってしまった。あ~耳鳴りが聴こえる。  精錬は魔力を使って行うもので刀の鍛錬のようにリズムの良い音が響くと言うわけではない。厳かに、冷静に、魔力を編んで純度をあげていくのだ。それには相当高い集中力を必要とする。こっちで音をたてるなんてご法度である。……いや、たてる気なんてないけどね? 「ねぇ」 「うへい⁉」  ……しまった、石見がらみに声をかけられて変な音が出てしまった。声とも言えない音が。 「……ふっ、ぷくく」 「笑うなよ」 「どっから出たのさ今の」 「ノドから口からですが?」  必死に笑いをこらえている。大声を出せないから口を手で押さえてガマンしていらっしゃる。  目に涙が溜まっていますが? 「……してみる?」 「は?」 「キス」 「へ? おい、ちょっと」  石見が迫ってくる。  一歩オレに近づいて、二歩近づいて、オレは半歩下がって足をソファにぶつけてしまってその上に倒れ込んで。  そんなオレの上に石見が乗っかって。  石見の綺麗な顔が――近い。三十センチメートルはきっているだろう。それだけ近くにいても毛穴の見えない顔。笑いをこらえていたせいで潤んだ瞳。瑞々しい唇。が、どんどん近づいて―― ピロン 「「うわぁ⁉」」  焦りまくっていたところに珍妙な音が響いた。腕輪型のデジタルガジェット【縁―よすが―】にメールが届いた音だ。オレと石見のガジェットで同時に鳴ったから多分お仕事関係。  緊急かもだから早く見なければならない。ならないのに、オレも石見も見つめ合ったまま固まってしまう。  近い近い近い近い近い! って、オレが汗しているのは良い。しかし迫っていた石見まで汗かきまくっているのはなぜだ? 「……石見、一度ついた勢いを殺せずに暴走列車になってたな?」 「……はい」  素直で宜しい。素直な子、可愛い。顔が朱い。それも可愛い。  だから。  思わず。  手が出た。 「あの……糸掛いとかけ?」 「……はい」 「……手が当たっていますが……胸に」 「……はい」  いやもうホントに思わず。  ……柔らかいなぁ。 「まだはや~~~~~~~~~~~~~~~~い!」 「いてぇ!」  頭突きされた。ビンタでもキックでもなく頭突きですよみなさん。 「スカルがヤバい! ヤバいよスカル!」 「そこまで頭堅くないもん!」 「「って、シー!」」  オレと石見、互いの口を手で塞ぐ。  隣ではスゥさんが作業中なのだ。騒がしくしてどうする。……いや、スゥさんの思い通りかもだが。 「と、とりあえずメール見っか」 「う、うん」  頭が冷えてきたところでソファに座り直し、乱れていた服も整える。手を胸にあてて呼吸と気恥ずかしさも整えて、メールを開いた。 「えっと……。 【糸掛さま、石見さま。 『ロスト・パラベラム』へ向かい“卒業生”を一人迎えてください。                 <日雷―ひがみなり―>より】  ――――――――か」  石見の開いたメールを見てみる。名前の順が逆になっているだけで内容は同じだった。 「『ロスト・パラベラム』ってあの島だよね?」 「ああ、ゴ――」 「おっと」  石見の指がオレの唇に触れる。蔑称だから言うな、と言う合図だ。  そうだな使っちゃいけないよな。 「しかし、あの島に入るのか……」 『ロスト・パラベラム』がどんな場所かを考えるとかなり気が滅入る。滅入るが行かねばなるまい。卒業生――新たなる魔法具を出迎える為には。 「スゥさんの仕事を待って、すぐに行こう」 「うん」

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