メルヘン・ヴェルト ~世界に童話を~
第18話「少女に――チャーミング⁉」

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「全員の顔覚えとけよ、ギフト」 「言われんでも」 『家』に着いて夕食時。全員が注文をすませて適当な椅子に座すこの時、この島にいる参加者全員、老若男女問わず一堂に会す。欠席は病気や重症以外では許されないから必ず総元締めもここに居るはずだ。  オレの記憶力は普通だがそれでも顔くらいは覚えられる。名前と一致させるのは難しいが。そもそも自己紹介してくれるのなんて二割程度だし。 「――で、お前の話はマジか?」 「マジだよ」  同じ卓についているオレとカノとフォゼ。そのカノにフォークの先を向けられる。そう言う風に人を指すのって良くないと思うぞ? 「グリムが紛れ込んでいる。それも運営側からの刺客として? 笑えねー」 「そのグリムはパっと見、人と変わらなかったんですよね?」 「そう。つまり――危険度リスクSだ」  グリムの最上位。人と変わらぬ姿を持つ完全なる心を獲得した人形。  Sはまだ手の指で数えられる程度しか確認されておらず実のところオレはSと対面したのは初めてだった。 「マインもフォゼもそうさ。そもそもマインらは対グリム組織に属してないから自分からグリムを探すってパターンもないしな」 「遭遇した経験は?」 「最下級のCなら何度かな」  Cの数は多い。数百体は確認されていて暫定ネームすらつけられていないのが殆どだ。 「でもC相手でもおれたち逃げましたよ。『ロスト・パラベラム』に来るまでは対人用の武器しか持ってなかったから戦いようがありませんでした」 「しかたねーだろ。魔法士の知り合いもいねーし心奪われて廃人になんてなりたくないからな。  ギフトはどうなん?」 「オレはじゅ――」  言葉を切った。  あぶな……「準魔法士だから」って素直に言いそうになった。オレ正直者。 「知り合いに『日雷―ひがみなり―』の魔法士がいるから一緒に戦った経験が何度か」  うん、ウソは言ってない。完璧。 「他の連中も似たり寄ったりだろうな。  大丈夫かここにいる連中。ハンターに全滅にされる未来が想像されるんだが」 「いや、オレたちはテスト中とは言え対グリム用の魔法具を与えられているんだ。無残に一方的にやられるだけじゃないさ」 「魔法具――銃が一級品なのは認める。けどマインらはバトルの素人だぜ? 銃に振りまわされないか?」 「それは、まあ」  オレは戦い方を習っている。けど確かにカノたちを含めた罪人は凶悪犯とは言え戦い方なんて知らないのが普通か。  ……いっそこの二人にはオレの正体を明かして戦い方を教えるか? や、ダメだな。オレは今テストを受けている身だ。課せられているルールを逸脱したならば失格、からの『ギフト・バレット』没収もありうる。  石見がらみと共にいられなくなるのは勘弁だ。 「せめてハンターを特定出来れば良いんだがな」 「一人は簡単だ。オレが遭遇したやつは『レイ・ガン』って銃を持っていた。その形状も記憶しているよ。 『家』じゃ部屋に置いているだろうけど外に出たら積極的に探しに行く」 「こっちから戦いに行くんですか?」 「先手必勝ってやつ」  それも気づかれずに倒せるなら一番良い。『レイ・ガン』の弾は追尾して来るから見つかったらヤバさ満点だ。 「お~良いぜ、付き合ってやんよ」 「え? 良いのか? 総元締めの方は?」 「五十メートル内に入ったら優先的にぶっ殺す。けどる前に狩られたらアウトだろ。だから五十メートル外ならハンターをる方を優先するさ。  フォゼも良いな? OKだな?」 「拒否権はないんだね……」 「ないな」  この二人、ずっとこんな感じで暮らしてきたのかな? 大変だなフォゼ……。  あてがわれている部屋へと戻り、オレはベッドに横になる。照明を点けてはいない。今日はドッと疲れたからもう寝るつもりだ。あまり動くと傷にも障るし。  カーテンのない窓から外を見やると満月が見えた。銀の月光が部屋の中に入って来る程に明るくて、照明なしでも影が出来ていた。 「ん?」  満月、凸凹で丸っこい月。  その真ん中に――何者かが浮いていた。 「――⁉」  跳ね起きるように上半身を起こしベッドから飛び降りて窓に顔を寄せる。月をジッと見る為に目を凝らし、確認。  魔法士の中には飛翔魔法を扱える人がいる。  グリムは羽持ちが多いから浮く事が可能。  鳥類ならば宙に留まったりも出来るだろう。  月の真ん中に浮く何者かはそのいずれかであるはずだ。  それを確認しようと思ったのだが……違った。 「嘘だろ……」  あまりの驚愕に、オレは一人呟いた。  もの凄く遠くにいるが間違いない。  あれは……あれは―― 「少女に――チャーミング⁉」  かつて、人形に育てられたと言う少女がいた。  日本の田舎、そこにある小さく古い神社で発見された少女は日本人だと思われた。黒髪で、黒い瞳で、肌色は白でも黒でもなく、なにより日本語の発音が正しかったからだ。  その少女は人形を握りしめていた。全長三十センチメートルの少年の人形。人形の肌は白く、しかし目は黒く、髪に至っては透明で。  世界を焼いた少女と初めて人の前に現れたグリムの一体。  共に姿を消して一年が経つ。 「それが……なんで⁉」

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