2034
13 特区へ再び

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 さくらによるマイクロチップ摘出手術は無事成功した。  春もヨシキも左手の親指と人差し指の間あたりにマイクロチップが埋められていた。さくらが医者仲間から特別に取り寄せた医療用具で皮膚に大きな傷をつけることもなく簡単に取り出すことができた。 「すごい。さすがさくら先生だ。傷ひとつないね」 ヒナタはとても嬉しそうに言った。 「あたし手先はとても器用なのよ。で、ヒタナこれからどうするつもりなの?」 「うん。特区に戻って、事件の真相をあばきたいと思ってる。自分の正当防衛も証明しなきゃならないし。ここにいてもいずれ僕や春さんを追って警察が来ると思うし」 「あたしはどうすればいいの?あたしだってマイクロチップ摘出に関わっちゃったんだから同罪よ」 「うん。可能ならさくら先生にも一緒に特区に来てもらいたいと思ってる。あっちに自警団の人達とか仲間がいるんだ。彼らとそのほかにも出来るだけ多くの人にマイクロチップのことを伝えていくから、さくら先生にはみんなのマイクロチップを摘出してもらいたいと思ってる。特区の住人って思考停止した終わった人達ばかりだと思ってたんだけど、どうもそうでもなさそうなんだ。オレが事件に巻き込まれた時に意外に周りにいた人たちが助けてくれてさ。そう感じたんだ。」 「あたしにあっちで闇診療所を開けってこと?」 「うん。でもすごく危険なことでもあるから、無理にとは言わない」 「でもあたし達ってどうやって特区に入るのさ?前回は頼まれたライブがあったから特別に入れたわけでしょ」 「実は親父があっちの実力者と接触したみたいで何か取引したみたいなんだよね。朝倉何とかさんとか言ったっけかな。それでもし本気で行くなら頼んでくれるって」 「まじかぁ。親父さんも自分の息子をわざわざ危険な目に合わせるようなことをよくできるね」 「もう巻き込まれちゃったからやるしかないかなと。ただ待ってても濡れ衣着せられて終わるだけだから」 「普通に考えたら断る話なんだけどね。ヒナタに言われるとなぜか断れないね。覚悟決めたよ。不思議な子ね君」  それから1週間後、朝倉大覚現の手配した黒塗りの車がヒナタ達を迎えに来た。 「ヒナタ様、こちらの車でご希望の場所まで送り届けます」 「スーパー特区六本木までお願いします」 ヒナタとさくらと春とヨシキはスーパー特区へと向かった。 「春さん達も来たのね。二人は山麓に残ったほうがいいんじゃないの?みんな助けてくれるわよ」 車の中でさくらは心配そうな顔で言った。 「ヒナタくんがこういう事態に陥ったのは私のせいでもあるから。戻らないわけにはいかないの。あたしも覚悟決めたの」  そう語る春の瞳にはかつての武士のような力強さが宿っていた。

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