2034
15 サクラが消えた

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 明け方、ヒナタはさくらが突如般若のような形相でヒナタに襲いかかってくる夢を見た。さくらは刃物でヒナタの心臓をひとつきすると、そのまま部屋を出ていった。ヒナタは血まみれのままさくらの後ろ姿を呆然と眺めていた。  ヒナタは恐怖で目が覚めた。 「夢か」と安堵して、隣を見てみると、春のアパートの一室で一緒に寝ていたはずのさくらがいない。時計を見ると朝の5時だった。アパートの鍵は空いていた。携帯も財布も荷物はそのまま置いたままだった。  夢の中で見たさくらはもはやさくらではなかった。その目つきはヒナタに見覚えのある別の者を思い起こさせた。 『クリーチャー?まさかさくらさんがクリーチャーに!?え、でもさくらさんはマイクロチップを埋め込んでないのになぜ?』  ヒナタには予知夢と言っていい、近い将来に起きることを夢見る能力があった。それは結構な確率で現実化していた。 『いやまさかそんなはずはないよな』  ヒナタは慌てて外に出た。  朝方の六本木は夜の仕事終わりの飲み屋の店員や酔っ払った客などが陽気にはしゃいでる声やら、眠たそうな顔で早朝出勤のサラリーマンが急足で歩く革靴のカチカチした音やら、動き出した地下鉄の金属音やらが響き渡っていた。 『朝から賑やかなとこだな』 ヒナタは2時間ほど周囲を歩き回ってさくらを探したが、見つけることが出来なかった。 「だめだな。感が冴えないな。都会は雑念が多すぎるのかな」  春のアパートに戻ると、警察がいて、ドア越しに春に何かを訪ねている様子が見えた。 「二十歳くらいの少年?うちにはいないよ」  春の声が聞こえた。ヒナタは警察に気づかれる前にその場を去った。 『今、警察に捕まるわけにはいかない』 ヒナタは再び街に出た。数分後、春からメールが来た。 「さっき警察が来たよ。ヒナタのことを探してるわ。ちょうどいなくてよかった。しらばっくれておいたけど、たぶん家の周り見張ってるわ。今どこにいるの?さくら先生も一緒?」 「朝起きたら、さくらさんがいなくて、それで今探してます。警察の件了解です。しばらく外にいます」 とヒナタは返した。 「え?!さくら先生がいない?どゆこと?」 「分かんないすけど、いないものはいないんで。朝早くから散歩してるだけかもしれないんで、もし戻ったら教えてください」 とヒナタは平静を装って返事をした。 『よし!もういっちょ気合い入れて探すか』  ヒナタは目をつぶり、さくらを頭でイメージして、耳に意識を集中させた。車の走る音、アスファルトを打つ靴音、店舗から漏れるBGMや話し声、聞き耳を立てるように周囲のあらゆる音を拾う。ひたすら聴覚を研ぎ澄ます。かすかな風の音や街路樹の葉が細かく揺れる音。段々に遠くの方の音まで聴こえてくる。地下鉄の音。ビルの中の会話。雲の動く音。 『ひなた…ごめん』  かすかにサクラの声が聞こえた。 『自分が自分じゃないみたいだ。何が何だかよく分からない…』  サクラの声に続いて、微かに海の音が聞こえて、一風変わった建物のイメージが頭に浮かんだ。 『ん?昔テレビか何からでみたことあるな。あ、お台場だ!」  ヒナタはあわててタクシーを止めて乗り込んだ。 「運転手さんお台場のあのヘンテコなビルまでお願いします」 「ヘンテコなビル?フジテレビのことかい?」 「あ、はい。多分そうです。そこまでお願いします」 「高速で行きますか?それとも下で行きますか?」 「高速でお願いします」  朝の通勤の時間なので道はそれなりに混んでいて、15分ほど走るとレインボーブリッジが見えてきて、その先にフジテレビの社屋が姿を表した。 「あれですね。あそこまでお願いします」 レインボーブリッジを過ぎて、高速を降りたところだった。パトカーが数台止まっていて、ヒナタの乗るタクシーを呼び止めていた。 「え!?運転手さん、なんでパトカーがいるんですか?検問ですか?」 「あー、お客さん、知らないのかい?最近治安維持法ってのが改正されて、タクシーの防犯カメラ映像がリアルタイムで警察と共有されるようになったんですよ。で、警察はそれをいちいちチェックしてて、何か怪しい時にはパトカーが来てこうやって止められるんですよ。まぁAIとかでやってるらしくて間違いも多いらしいんですけど、最近たまに止められるんですよ。大抵は何にもないですけどね。こちとら時間取られて迷惑な話ですよ」 「え!?まじか?」 「まさかお客さん何か心当たりのあることでもあるんですか?悪いけど、止まりますよ。言うこと聞かないとこっちまで悪くなるんでね」  ヒナタは焦った表情を隠すことができなかった。

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