2034
21 表と裏

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 アカシック大宇宙教の地下施設で、ヒナタは目を覚ました。 「やっとお目覚めのようだね」  ヒナタの目の前には30代前半くらいの端正な顔立ちの男が立っていた。 「おい!あのクソジジイはどこだ?」 ヒナタは興奮冷めやらぬ様子で叫んだ。 「本人を目の前にクソジジイとは失礼だね」 「あんたじゃない、あの気持ち悪い教祖みたいなおっさんだよ!」 「だから、あれは僕だよ。朝倉大覚現はぼくの表の姿だよ。アカシック大宇宙教なんてカルトみたいなことしている気持ち悪い教祖だ。そして、裏のぼくが、本当のぼくが今の姿だ。星野高光だ。ヒナタ君、よろしくな」 「ほへ?」 「次元転換だよ」 「ほへほへ?」 「まぁいいや。手荒な真似をしてすまなかったね。あそこでは話せないことだったから、無理矢理にでもここに連れて来たかったんだ」 「本当っすよ!腕まだちょっと痛いんすけど」 「とある件で、君のお父さんと取引したんだ。素晴らしいお父さんだね。ぼくは君を守るよう頼まれていたんだ。情報収集に時間がかかって遅くなったけど、警察はもう君を追ってこないよ。つまり、君は自由だ。山麓に帰って今まで通り普通に暮らせるよ。どうする?」 「何言ってんだ? サクラさんだって助けなきゃいけないし、春さんもヨシキくんも総長もみんな巻き込んじゃってるからこのままノコノコ帰るわけにはいかないよ」 「なるほどね。君は確かになかなか面白い能力を持っている。ちょっとした予知や読心ができるし、直感も優れてる。戦闘力もまぁ見込みがあるほうだ。君は松果大エネルギーが少し活性化しているね」 「え!?しょうかたいエネルギー?」 「松果大エネルギーは、本来、どの人間にも備わってる能力のことだよ。それはね、こちらのスーパー特区のような化学物質にまみれた食生活や窮屈なストレス社会にいると失われてしまうものなんだけどね。山麓の暮らしと親の教育に感謝しないといけないね」 「えぇ、山麓の暮らしは最高っす」 「でもね、まだまだ君の能力は未熟だ。ぼくに一瞬でやられているようじゃ、『彼ら』には到底勝てないよ」 「ううぅ。それは確かに」 「君の直感の通り、怪奇事件を起こした狂人たちはクリーチャー計画の実験台として単に操られていただけだよ。自分の意識を乗っ取られてね」 「やっぱりそうだったんすね。本人の本当の心の声が別に聴こえんたんですよね。だからそんな気がしたんだ」 「そう。ただマイクロチップの埋め込みはまた別の話なんだ。チップに関係なく、一定の条件が揃うと誰でも意識を乗っ取られてしまう可能性があるんだ。量子力学とかの最新の科学を総動員してそういうことができる技術を彼らは開発してるんだ」 「そもそもクリーチャー計画ってのは一体何なんですか?」 「そうだね、一言で言うと、一部の『選ばれた』と思っている人間たちがその他の人間たちを自由自在に操るための技術開発の計画だよ。生の人間の文字通りのロボット化、奴隷化と言ってもいいね。そのプロトタイプ実験が今まさにこのスーパー特区で行われているんだ。今の段階だとまだ失敗例もあってそれが今回のような狂人じみたクリーチャーを生み出しているんだろう。いや意図的に生み出してるかもしれないね。その辺は分からないな」 「な、な、なんちゅう計画だよ」 「クリーチャーにも君が戦ったような人間型クリーチャーもいれば動物型やマシン型、エネルギー体だけのクリーチャーもいるようなんだ。今後の技術の進歩によってはもっととんでもないものも生み出されるかもしれないね」 ヒナタは愕然とした表情で聞いていた。 「それからクリーチャーを操る人間はサイコヒューマノイドと呼ばれている能力者だ。能力というかそういう適正があるかどうかかな。今の技術だとまだ誰もがクリーチャーを操れるわけじゃない。ちなみにあのマイクロチップはその適正度合いを測るためのものでもあるんだ」 「ああぁ、もしかして…まさか」 ヒナタは少女Aのことを思い浮かべて青ざめた表情をした。 「どうした?やっぱり山麓へ帰るかい?」 「え、いや、そういうわけじゃ…で、この計画の首謀者ってのはやっぱり政府なんですか?なんで政府がこんなことするんですか?」 「日本政府は『彼ら』の駒の一つ、システムの一部にすぎない。相手は表には出てこないけど、もっと強大な組織だ。メディアも国際組織も大手企業も『彼ら』の傘下みたいなものだ。その『彼ら』が仕組んで、日本を実験場に選んでるわけだ」 「誰だか知らないけど、その『彼ら』はなんでそんなしようとしてるんすか?しかもなんで日本でなんすか?」 「彼らの目的は人類のコントロールだろうね。彼らはほとんどの人間は愚かなやつらだと思ってるんだよ。好きにさせておいたら何をしでかすか分からない、地球の資源だって使い果たしちゃうかもしれないし、核兵器だって使いかねないと。だから自分達が人類全体をコントロールしないとならない。そんな使命感にかられているんだ。そして、政府も国民もコントロールしやすい日本でまずは実験してみるかってところじゃないかな」 「ふざけてますね。日本を舐めてんすかね」 「そうだね。いずれにせよ現実にことが進んでしまっている以上、まずはこの実験をやめさせないといけない。力づくでも」 「そうすね。力づくでも止めたいすね」 「ぼくは今ね君のような松果大エネルギーが活性化している人間を集めている。この地下施設でね、そのエネルギーの発揮の仕方を教えているところなんだ。みんなもうぼくなんかよりも全然強くなっているよ」 「え、マジすか!?」 「確かにテクノロジーの力はすごい。普通の人間をスーパーマンにすらできてしまう…でもね人間がもともと持ってる生命エネルギーの力ってのもものすごいんだよ。正しく発現できたらね」  ヒナタは星野の言葉に強い真実味を感じた。 「あとは団結。人間の団結力は何度も歴史を変えてきたんだ。ぼくはね人間の真の力を結集して対抗したいと思っている。彼らの思い通りにはさせない」 「星野さん。いや、し、し、師匠!ぼくも強くなりてぇっす!一緒に戦いっす!弟子入りさせてください!!」 「ふふふ。今ねここに松果体エネルギーが使える君より若い男の子と女の子がいるんだ。君とは違う地域に住んでるサイレントヒューマンだよ。どっちかと本気で組手してみるかい?」 奥から若い少年と少女が出てきた。少年は一見オタクっぽく陰気に、少女は明るく可愛らしく見えた。 『陰キャと女子かぁ、どっちも楽勝じゃね…でも女子を選ぶのも卑怯に思われるから陰キャかな』と余裕をかますヒナタだったが…

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