ヒナタと三島は一度山麓に戻り、次の日、車を変えて再び特区へと向かった。 「三島さん、紹介したい人がいるんです。自警団の総長のところへ行きましょう。協力してくれてる人ですし、きっと気が合いますよ」 ヒナタは総長と昨日からメールで連絡を取り合い、サクラのことや警察に追われていることなど状況を説明していた。 「ヒナタ。今朝はうちの周りには警察の張り込みはなさそうだ。来ても大丈夫だ」 「ありがとうございます。今から向かいます」 ヒナタと三島は総長の事務所近くに着いた。三島は鋭い目つきで周りを見渡してから車を停めた。 「よし、警察はいなさそうだな」 「さすが用心深いすね」 「当たり前だろ。総長ってのが誰だか知らないけどそんなに容易く人を信用しちゃダメだ。特に特区の人間なんて簡単に金で買収されるやつばかりだ」 「おお。さすがリスク管理の鬼っす」 二人は自警団のオフィスに上がった。 「おおヒナタか。サクラ先生がこっちに来たと思ったらまさかの行方不明とはな。一体全体どうなってるんだろな。おかしなこと続きだよまったく」 「総長。こちら三島さんです。山麓の仲間で、昨日助けてくれて、サクラさん探しを手伝ってくれます」 「おお、三島さん。私はこっちで自警団やってる者です。武闘派な感じでとても心強いですね」 「三島です。どうも」 「スーパー特区の人間なんて信用ならねぇって顔してますね。まぁこっちの人間がサイレントヒューマンと手を組むなんて普通は信じ難いことですよね」 「まぁそうですね」 「まぁ聞いてください。俺はね、これまで馬鹿なことばかりやってきましてねぇ。いわゆる半グレってやつですよ。社会的に悪いとされてることはだいたいやりましたよ。そんなこと言ったら余計信用されないでしょうけどね。まぁでもね、仲間を裏切るとか女子供とか弱い者をいじめるとか、そういうことはしなかったんですよ。そういうことはうちらのポリシーに反しますから… 一方、この社会を見渡したらどうですかね? 上級国民だか知りませんけど、一部の社会的強者だけがやりたい放題の社会じゃないですか。自分達に都合の良いルールばかり作りやがって。奴らは地位や金のためなら嘘でも裏切りでも何でもやりますからね。テレビの前なんかじゃ偽善者ぶってますからヤクザよりタチ悪いですよ」 三島は黙って話を聞いている。 「だからまぁそんなエリートの仕切る社会はクソ喰らえだと思って、おれは半グレやってきた訳なんですけど、まぁ半グレもクソみたいなもんですから、数年前に足洗いましてね。死にそうな経験もしましたしね。人間、死を目前にすると変わるもんで、改心したってほどでもないんですけど、俺なりの罪償いとして、数年前から仲間と一緒に社会的な弱者を助けるボランティアみたいなことしたりしてまして、最近は自警団みたいなことやってるわけなんですよ。けど、ここんところの怪奇事件は色々きな臭くて、自衛だけでもダメだなと思ってたところに、このヒナタ君と出会って、馬鹿みたいな話ですが、こんな小僧なんですけどなんか不思議な力あるんですよね、まぁこいつと命かけてでもやらなきゃならんと思っちまった訳なんですよ」 「ほう。で、半グレやってるときはなんて組織をやってたんですか?」 『突っ込むのはそこですか!?三島さん』 ヒナタは心の中に呟いた。 「ブラックレーベルってやつですよ。最後はちと大きくなりすぎまして自分でもコントロールできなくなりましてね、抗争続きで今はもう潰れちゃいましたけど」 「ブラックレーベル?!」 三島の目つきが少し変わった。 「え、知ってるんすか?」 「えぇ、関東じゃ有名なほうでしたよね。若い頃は俺も渋谷なんかでよくやり合いましたよ。なかなか骨のある奴らが多かったですよね」 「おお、なんと」 「ブラックレーベルは他の半グレ集団とは確かにちょっと違いましたね」 「おお、分かってくれますか。うちらはねうちらなりの哲学持って半グレやってましたからね。金ぶんどる時は不当に金稼いでいるやつらから、ゆするときは権力者、それも偽善者から、とかね。金のためならなんでもやるやつらとは一線を画してたつもりでしたよ。まぁそんなだから最終的には分裂したんですけどね」 「なるほど。国家権力の監視も年々厳しくなってきて、ちょっとした悪さもやりにくい窮屈な社会になりましたしね」 「表の偽善的な悪を潰すのには裏の悪の力が必要な時ってのはありますからね。大袈裟な言い方かもしれませんが、うちらなりにお国のために何度か危ない橋渡りましたからね」 「小さな悪を潰しちゃったら、とんでもない巨悪が育ってきちゃったってわけですな」 「世の中ややこしいもんですよ」 「こりゃブラックレーベル再結成ですね!総長、やってやりましょうか」 「おおお。三島さん、やってやりましょう!」 「あは。二人はやっぱりウマが合うと思ったんすよね。よかった」 ヒナタは得意げな顔で微笑んだ。
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