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 恵比寿へ転移し、四人でテーブルを囲んでいると零がやってきた。 「こ、こんにちは……」  長身でボサボサの髪をした細身のエンジニア、零はこげ茶のジャケットを着て現れる。  零は若い女の子三人と子供が一人という面子に、いささかとまどっていた。異世界のチームなのだから常識は通用しないとは分かっているものの、実際目の当たりにするとやはり動揺してしまう。 「零さん、はじめまして!」  レオがニコッと笑って言うと、 「お、お世話になります……」  と、軽く会釈をした。 「ビールでいい?」  シアンはニコニコしながら聞いた。 「は、はい」  零に座ってもらい、自己紹介をしていると飲み物がやってくる。 「それでは、零君のジョインを祝ってカンパーイ!」 「カンパーイ!」「カンパーイ!」「カンパーイ!」「カンパーイ!」  シアンは一気にジョッキを空けると、 「すみませーん、ピッチャー二つお願いしまーす!」  と、叫んだ。  そして、レヴィアは肉の皿を取り、そのままドサッと金網の上に肉を全部落とした。 「こんなのはチマチマやってちゃいかん」  そう言いながら金網の上の肉をならす。そして、まだ全然火の通ってない赤い肉をゴッソリ取るとそのまま丸呑みした。  零は一気飲みするシアンや、女子中学生の様な金髪おかっぱ娘の豪快なテンションに圧倒される。 「予定通り来られそうですか?」  オディーヌは笑顔で聞いた。  zoomでは良く分からなかったオディーヌの美貌に、零は気圧されながら答える。 「あ、もちろん。すでに引継ぎに入ってます」 「それは良かったわ」  零は気を落ち着けるべく、ビールをゴクゴクと飲んだ。  そして大きく息をつくと聞いてみる。 「ぐ、具体的には何作ったらいいんですかね?」  するとレヴィアは書類をドサッとテーブルに置いた。 「要件定義と画面遷移図はやったので、レビューから入って欲しいんじゃ」  驚く零。まさかもうここまで進んでるとは思わなかったのだ。  急いで書類を手に取り、パラパラと見ながら零は言った。 「えーと、これは……」 「中央銀行のシステムじゃ。これ以外にも決済システム、預金システム、個人情報管理システムなどがあるぞ」 「ちゅ、中央銀行!?」 「そうじゃ、貨幣を発行し、金利を設定し、銀行にお金を貸し出したり国債を管理したりするシステムじゃ」 「ちょっと待ってください、私は中央銀行の業務なんてわかりませんよ?」 「大丈夫、必要な機能は全部そこに書いとる」  そう言いながら、レヴィアは超レアな焼き肉を頬張った。 「これは……、責任重大ですね……」  考え込んでしまう零。 「大丈夫、僕がちゃんとチェックするからさ」  シアンは楽しそうにそう言って、ピッチャーをゴクゴクと一気飲みして空けた。 「あ、ありがとうございます。ちなみにサーバーとかはどこに置くんですか?」 「海王星だよ」 「えへぇ!?」  レヴィアはそう叫んでせき込んだ。 「ダ、ダメですよ! あそこは業務システムで使っていい所じゃないですよ」 「えー、だって、安定したシステム基盤があるなら使わなきゃ損でしょ?」 「そりゃ、ここ数万年ほどは最高に安定してますが……」 「大丈夫、僕が繋げておくからさ」 「……。私は知りませんよ」  そう言ってレヴィアはヤケクソ気味に焼き肉を頬張り、ビールで流し込んだ。  零は話が呑み込めなかった。数万年安定稼働している海王星のサーバー。地球の常識とはかけ離れている。幾ら異世界だと言っても飛躍し過ぎではないだろうか? 「あの……、海王星というのは……?」  零がおずおずと聞く。 「太陽系最果ての惑星だよ」  シアンがニコニコしながら言う。 「え!? 本当にその海王星なんですか? 人がいけるような距離じゃないですよ!?」 「この世界は全て情報でできてるんだ。この意味、零なら分かるんじゃない?」  シアンはちょっと挑戦的な笑みを浮かべた。 「全て情報……? それはつまり物質も……位置も距離も……合成された幻想……つまりゲームみたいな仮想現実ってことですか?」  零は信じられないという表情で淡々と答えた。 「ほう、お主、さすがじゃな」  レヴィアはそう言ってビールをグッと飲んだ。 「いやいや、えっ? そんなことあるんですか?」  零は混乱してしまう。 「じゃあ、反証あげてみたらどうかな?」  レヴィアはこんがりと焼きあがった焼き肉を零の皿に乗せながら言う。 「この肉も幻想ってことですよね? 食べることもこの肉体も幻想……」  零は手元をじっくり見まわし困惑する……。  柔らかく動く指先も、焼き肉の弾力も滴る肉汁も、すべてコンピューターで作られたものだという話を、どう考えたらいいのか全く分からなかった。  そして、ビールジョッキをグッと飲み、座った目で断固たる調子で言う。 「こんな精緻な造形が、合成された計算結果というのはちょっと理解できません。こんな膨大な計算処理を提供できるコンピューターシステムは作れません」  この世界が仮想現実だなんて、そんなことを認めたら自分はただのゲームのアバターだということになってしまう。零はアイデンティティをかけて全力で否定する以外なかった。 3-16. 壮大な宇宙の神秘 「ふぅん、必要な計算量が多いから無理っていうのね?」  シアンはニヤニヤしながら言う。 「そうですよ! この世界をシミュレーションするって事は、シュレディンガー方程式を解いて分子の動きからシミュレートしなきゃダメです。そしてそんなのスパコンつかったってたった一グラムの物体すら計算不可能です!」  零は勝ち誇ったように言い放った。 「ふぅん、零は人体のシミュレーションをする時、シュレディンガー方程式なんて解くの?」  シアンは目をキラッと光らせて、うれしそうに聞いた。 「えっ!? じ、人体……ですか……。そのスケールだったら……、分子シミュレーションなんて……、意味ないから……、やらない……」  零は元気なくなってきて、うつむいてしまった。 「でしょ? 正解はこちら!」  シアンは楽しそうに箸を指揮者のように振った。  すると、ボン! と言って零の身体はワイヤーフレームになった。 「へっ!?」  スカスカの線画になってしまった零は驚いて立ち上がり、両手を見る。しかしそこには白い線の針金細工のような手があるだけであり、向こうが透けて見えていた。 「な、何だこれは!?」  零はあわてて、針金のロボットみたいに見える自分の手を握った。しかし、触ってみるとちゃんと感覚があり、力も暖かさも感じる……。しかし……、向こうが丸見えで透け透けなのだ。  零はしばらく考え込む。この非常識な事態をどう考えたらいいのだろうか……?  しかし、幾ら考えても答えは一つしか考えられなかった。  そして、ゆっくりと口を開く。 「こう……、計算させてるんですね……。なるほどこれなら……」  そう言って零はぐったりとうなだれると、しばらく動かなくなった。 「零……、大丈夫?」  レオは零の針金づくりの顔をのぞきこみ、心配そうに言う。  零は針金の手でジョッキをガッとつかむとそのまま一気飲みし、観念したように言った。 「全て理解しました。この世界がどうやって作られているかも想像がつきました」 「うんうん、零は優秀だなぁ」  シアンはうれしそうにして零の身体を元に戻した。 「で、サーバーが海王星にあるってことですよね?」 「そうそう」 「でも、全てが情報でできてるってことは、そこも根源じゃないってことですよね?」  零は鋭く切り込む。 「ほほう、お主すごいな」  レヴィアは感心して言った。 「我々は広大な情報の海に生まれ、生きる情報生命体……。あなた達の異世界はこの地球とどういう関係なんですか?」  零は吹っ切れたように饒舌じょうぜつに聞いた。 「パラレルワールドじゃな。多くの分身インスタンスの中の兄弟世界じゃ」 「でもですよ? そんなことができるなら、私が書くようなプログラミングコードなど自動で合成できちゃうんじゃないですか?」 「そんなことやったら多様性が失われるじゃろ?」 「えっ? 多様性?」 「効率を求めるならそもそも世界など作らんよ。我々に求められてるのは多様性じゃ」 「なるほど! なるほど! 我々は試されてれるってことですね? この宇宙をつかさどる大いなる存在に!」  零は興奮して言った。 「まぁ……、そうじゃな……」 「その大いなる存在って誰なんですか!?」  零は壮大な宇宙の神秘に触れ、大興奮して聞いた。  レヴィアは渋い顔をしながらシアンを見る。 「きゃははは!」  うれしそうに笑うシアン。 「まぁ、それはデリケートな問題じゃな」  レヴィアはお茶を濁す。  それでも零は、この世界の真実に触れられたことに感動し、スクッと立ち上がると、 「わたくし、零は今! モーレツに感動しております!! この素敵な出会いにカンパーイ!」  と、勢いよくジョッキを掲げた。 「カンパーイ!」「カンパーイ!」「イエーイ!」「よろしくぅ!」  ジョッキのビールをゴクゴクと飲み干しながら、零は今までの悩みが全て吹っ飛んでいくような爽快感に浸っていた。今ここに見えている世界は幻想にすぎず、異世界は無数にあり、今、そこへのアクセスを手に入れたのだ。それは零の世界観をひっくり返すコペルニクス的転回だった。 3-17. 新人絶好調  乾杯を繰り返し、ラストオーダーの頃には零はグデングデンに酔っぱらっていた。 「シアンのあねさん! 僕、分かっちゃいましたよ! 姐さんがこの宇宙を作ったんだ!」 「ブブー!」 「ウソだぁ! 姐さん全部わかってるし、無敵じゃないですか!」 「惜しいけど違うんだな。きゃははは!」  シアンも気持ちよさそうに真っ赤な顔で笑った。 「零、大丈夫?」  ジュースしか飲んでないレオが心配そうに聞く。 「これはこれは国王陛下! 陛下は偉大だ! その若さでなぜこんな大宇宙の要人に一目置かれるのだぁ!」  店内で叫ぶ零。 「お水貰いましょうか?」  オディーヌが心配そうに声をかける。 「これは王女様! なぜ王女様はそんなに美しいのですか? もうドキドキしっぱなしですよ!」  ナチュラルに口説き始める零。 「お主、そのくらいにしておけ」  そう言ってレヴィアは水を出して零に勧める。  零は受け取った水を一気にゴクゴクと飲み干した。  そして、レヴィアをジッと見る。 「な、なんじゃ? ほれちゃダメじゃぞ」 「レヴィア様! 見た目女子中学生みたいなのに、その存在感、何か秘めてますよね? 偉大な匂いがします!」 「おぉ、お主! 見る目あるのう! よし! 飲もう! カンパーイ!」  そう言って二人はまたジョッキをぶつけ、一気に空けた。 「くはーっ! 美味い!」  零はそう言って焦点のあわない目で幸せそうに微笑む。  レオとオディーヌは目を見合わせ、お互い渋い表情で首をかしげた。  翌日、オディーヌのところには記憶を失った零から謝罪のメールが届いていた。        ◇  スタッフ面接の日、倉庫で準備を整えていると、一人の若い男がふらりとやってきた。ネイビーのマリンキャップをかぶり、年季の入ったカーキ色のジャケットを羽織っている。  男はテーブルを拭いているレオを見つけると、 「おい、小僧! 責任者を呼べ!」  と、横柄に怒鳴った。  レオは男を見上げると、 「責任者は僕だよ。なぁに?」  と、笑顔で返した。 「はっ!? お前のようなガキが責任者!? ふざけんな!」  男はテーブルをドン! と叩き、レオをにらんで喚く。 「歳は関係ないですよ。いい国を作ろうという情熱が全てです」  レオは一歩も引かず、丁寧に言い切った。  男はレオをにらんだまま動かない。  レオも笑顔のまま男の目を見据える……。  奥でシアンは指先を不気味に光らせて揺らしながら、男の出方をうかがい、倉庫の中には緊張が走った。  すると、男は相好を崩し、言った。 「お前、いい度胸だな……。悪かった。それで……。チラシ読んだんだが、いい事ばっかりしか書いてない。こんなうまい話あるわけがないだろ? 一体何を企んでるんだ?」 「企むも何も、この国の方がおかしいんです。貧しい子供が飢えて死んでるのに、偉い人は贅沢三昧ぜいたくざんまい。だから僕は当たり前の国を作るんです」  レオは淡々と説明した。 「ほほう、こっちの方が当たり前……。お前凄いな……。だが、こんなきれいごと上手くいくはずがない。俺が化けの皮を引っぺがしてやる!」  男は吠えた。 「化けの皮って?」 「そうだな……。例えば衣食住完備というが、食べ物はどうするんだ? 十万人ということは毎日三十万個ものパンがいるぞ。どうやって調達するつもりだ?」  男は勝ち誇るかのように言い放つ。  レオはプロジェクターをいじり、スクリーンにパン工場紹介の動画を流す。 「うちにはパン工場があるんだよ。一万平米で生産量は一日五十万個」  動画では、次々とベルトコンベヤーの上を丸いパンが流れてくる様子が流れる。 「何だこれは……」  圧倒される男。  さらにレオは奥からロールボックスパレットに満載された二千個のパンをゴロゴロと引っ張ってくる。そして一つとって男に渡した。  男は無言で受け取り、匂いをかいで一口かじった……。 「美味い……、何だこの美味いパンは!?」  日頃大麦まじりの硬いパンしか食べていなかった男は、白くふわふわで芳醇なパンに絶句する。 「これをね、欲しい人に欲しいだけ配るんだ」  レオはうれしそうに言った。 「配るって……、無料か?」 「衣食住にお金は取らないよ。そう、アレグリスの憲法に書いてあるからね」  見たこともない巨大な工場で作られる、食べたことのない上質なパン。そしてそれを無料で配ることをうたった憲法……。その圧倒的な先進性に男は言葉を失った。 3-18. スタッフ一号 「どう? スタッフやらない?」  レオはニコッと笑って言う。 「いやいやいや、こんなすごいもの誰も見逃さない。どっかしら必ず攻めてくる国はあるし、盗賊も狙うだろ? 維持できんよ!」 「あー、軍事警察力の心配は不要じゃ。うちを狙う者は瞬殺じゃよ」  レヴィアが横から説明する。 「瞬殺?」 「うちの防衛大臣にかなう者はこの世に存在せんのじゃ」  そう言ってレヴィアはシアンの方を向いた。 「防衛大臣? あのネーチャンが?」  男は怪訝けげんそうにシアンを見る。  シアンはニコニコしながら近寄ってくると、 「どっからでもかかっておいで。拳交わした方が話早いよ」  そう言ってクイクイッと手招きをした。  男はシアンをなめるように見回して言う。 「ほう……。可愛い顔して言うことがエグいね。俺が勝ったら……そうだな、俺の女になってもらうよ」 「いいよ! 勝てたらね」  シアンはニコッと笑った。  男は軽くステップを踏みながらシアンに近づき、ジャブを二、三回放った。  軽くスウェーして避けるシアン。  そして次の瞬間、鋭い右ストレートが放たれた。  が、シアンが素早く指先で触れた瞬間、右腕は四角い白黒のブロックノイズ群を残して消えてしまった。 「へっ!?」  焦る男。ニヤリと笑うシアン。 「うわぁぁぁぁ!」  ヒジから先が消えてしまった右腕を見て喚く男。 「君の女にはなれなかったなぁ、ふふふっ」  シアンはうれしそうに笑った。  男はきれいさっぱり無くなってしまった右腕を何度も見直し、 「ちょ! ちょっと待てよ! 俺の腕返せよぉ!」  と泣き出してしまった。  シアンはニヤッと笑って言った。 「男がそう簡単に泣かないの! レヴィアちゃん治してあげて」 「えっ!? 私ですか?」  いきなり振られて焦るレヴィア。 「た、頼むよぉ~」  男はレヴィアの手を握り、みっともない顔で頼んだ。  レヴィアは手を振り払うと、渋々男の右腕の残った所をしげしげと眺め、 「シアン様の消し方複雑だから難しいんですよね……」  と、つぶやく。そして目を閉じて右腕を両手で包むと、スーッと動かして消えた腕を再生させていく……。 「お、おぉ!」  男は歓喜の声を上げ、右手を開いたり閉じたりしながら治った手を確認する。 「うちのスタッフやってみたいと思う?」  シアンが聞いた。 「……。あんた達すごいわ……。そうだな……、うちの連中をみんな受け入れてくれるならやるよ」 「うちの連中って何人?」  レオが聞く。 「だいたい千人だ」 「それはいいね!」  レオはうれしそうに言った。 「入国審査は要りますけどね」  奥からオディーヌが出てきて言った。  ポカンとする男を、オディーヌは鋭い視線で男を射抜く。 「あ、あんたは……、もしかして……」  男がビビって後ずさりしながら言う。 「オディーヌ、出てきちゃイカンって言っとったじゃろ……」  レヴィアが渋い顔をして言う。 「お、王女様、見苦しい所をお見せしました……」  男はひざまずいてうやうやしく言った。 「スタッフやるって本気なの? あなたの所属を述べなさい」  オディーヌは威厳のある声で言った。 「お、俺……じゃない、私はヴィクトー。スラムの自警団のヘッドやってます」 「そう。じゃ、うちの運営にも協力してくれるかしら?」 「王女様のご命令なら……」 「命令を聞くのでは意味が無いのよ。ヴィクトーがやりたいかどうかが大切よ」 「……。チラシを初めて見た時、ふざけた連中だと怒りを覚えました。それで乗り込んできたんですが、少年の語る言葉、見せられた数々の奇跡、感服いたしました。ぜひ、非力ながら私も、少年の理想の実現に尽力させていただきたいと思います」  そう言うと、ヴィクトーはまっすぐな目でオディーヌを見た。 「よろしい! それではお前はこれより我がアレグリスのスタッフよ」  オディーヌはニッコリとそう言い渡す。 「ははぁ!」  ヴィクトーは胸に手を当てて深く頭を下げた。 3-19. アレグリス始動  ヴィクトーの精力的な活動でスタッフも集まり、受け入れ態勢が整い、零も転職してきて、いよいよ移民受け入れの日がやってきた。  移民受け入れ所の奥の広間で、レオは木箱の上に乗ってみんなの前に立った。  約五十人のスタッフが雑談をやめ、一斉にレオの方を向く。 「大将! たのんます!」  ヴィクトーが太い声をあげた。  レオはみんなを見回し……、とてもうれしそうにニコッと笑った。 「みんなありがとう……。言おうとしたこと、いっぱいあったんですが、全部忘れちゃいました……」  そう言ってちょっと目を潤ませて下を向いた。 「レオ! 頑張って!」  オディーヌが優しく掛け声をかける。  レオは大きく息をついて、しっかりとした目でみんなを見回して力強く言った。 「言いたいことはただ一つ……。貧困や奴隷のない国を作りましょう! 人が人を虐げるような世界はもうやめましょう! みんなで理想の国を作りましょう!」  レオは小さなこぶしをグッと握って見せた。  パチパチパチ!  湧き上がる拍手。 「レオちゃーん!」  若い女の子が数人声を合わせて掛け声をかけ、レオは赤くなり、あちこちで笑い声が上がる。 「お前ら! 国王陛下に失礼だぞ!」  ヴィクトーは怒るが、みんな楽しそうに浮かれていて誰も言う事を聞かない。  待ちに待った移民開始の日、それはスタッフのみんなにとっても待望の日だったのだ。 「では、端末のチェックスタートしまーす!」  零が声をかけ、担当のスタッフが移動していく。 「レオ様すみません、私の指導が行き届かなくて……」  ヴィクトーはレオに謝った。 「いやいや、嫌われるよりいいですよ」  そう照れながら答えた。 「ああいう子がいいの?」  オディーヌが真顔で聞く。 「えっ? いいとか悪いとかないよ……」  困惑するレオを見て、レヴィアは言った。 「大丈夫、オディーヌが一番じゃろ?」  するとレオは真っ赤になってうつむき、小さくうなずいた。 「わ、私はそんなこと聞きたかったんじゃないのよ」  赤くなって焦るオディーヌ。 「ははは、若いってええのう」  レヴィアはうれしそうに笑った。      ◇  移民の受付が始まると、倉庫の前には長蛇の列ができた。数千人の人たちが押し寄せたのだ。衣食住完備、それは日々の食べ物にも困ってきたスラムの人たちには、まさに理想郷だった。 「最後尾はこちらでーす!」  プラカードを持った女の子が長蛇の列の後ろで声を張り上げる。  長時間並ぶことになっても移民希望者は誰も文句を言わなかった。それだけアレグリスへの希望は大きかったのだ。  移民希望者が倉庫の入り口を入ると、二十人くらいごとにまとめられてプロジェクターでアレグリスの情報の動画が流される。まず、レオがあいさつし、街の様子、入居するタワマンの部屋、配られるスマホの使い方、学校のシステムが案内される。  この動画が流される度に歓喜の声が上がり、中には涙を流す者もいた。  それが終わると宣誓の部屋に通される。そこではウソ発見器に向かって、犯罪は起こさないこと、国の発展に協力する事を誓ってもらう。予想に反してほとんどの人が無事通過していった。  次に生体情報を登録してもらい、スマホが渡される。お金のやり取りの仕方、国からの広報の受け取り方を覚えてもらう。  最後にタワマンの部屋割りを行う。スラムの地域ごとに近い場所になるように、不平等にならないようにヒアリングを行いながら部屋を割り当てていく。  これが終わると空間接続のドアをくぐってアレグリスへの入国となる。  初めてアレグリスの街を見た者は全員、タワマンを見上げ、その先進的な街の姿に驚き、しばらく言葉を失う。動画では見ていたものの、実際にその姿を見るとその威容に圧倒されてしまうのだ。  レオはそう言う人たちに声をかけていく。中にはレオの手を握りしめ、泣き出してしまう者までいた。  そのうちにレオは移民たちに囲まれ、胴上げが始まってしまう。 「国王陛下、バンザーイ!」「バンザーイ!」「バンザーイ!」  街に響き渡る万歳の声に合わせ、レオは空高く舞った。  澄み渡る宮崎の空に高く高く、大きく手を広げ、レオは理想が形になっていく実感に浸りながら何度も舞った。  星の命運をかけた賭けにレオはまさに勝ちつつあったのだった。  初日は予定時間を大きく超え、五千人を超える移民を受け入れることができた。

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